この論文は「漢字フォントの自動生成システムに関する研究」と題し、10章より構成されている。この中では、漢字フォント自動生成アルゴリズムに関する議論と提案、システムの試作、漢字フォントの生成実験および結果に関する評価がなされている。 第1章「序論」では、本研究の背景とその目的、意義に関する筆者の認識が示されている。 第2章「デジタルタイポグラフィの現状」では、デジタルタイポグラフィ技術の現在の状況が紹介されている。とくに、ビットマップフォントとアウトラインフォントとの特徴の比較が行なわれ、アウトラインフォントが今後主流になるであろうことが示されている。また、現在の漢字アウトラインフォント作成プロセスが紹介され、漢字フォントを作成する上での問題点が整理されて示されている。 第3章「漢字フォント自動生成システムに関する従来の研究」では、漢字フォント自動生成に関する従来の研究が整理されている。従来の研究における漢字フォント生成アルゴリズムはエレメント合成法と部品合成法の2種類に大別できることが示され、各方法の問題点がそれぞれ指摘されている。それをふまえて、実用的な漢字フォント生成システムを実現するには、従来の研究における問題点を克服できる漢字フォント生成アルゴリズムが必要であることが示されている。 第4章「本研究で提案する漢字フォント生成システムの概要」では、第3章で挙げた問題を解決するために、本研究で提案する漢字フォント生成システムの概要が述べられている。まず、実用的な漢字フォント生成システムの条件が挙げられ、これらの条件を満たすように設計された漢字フォント生成アルゴリズムの概要が紹介されている。さらに、実際に作成したシステムの具体的構成が示されている。 第5章「漢字パラメトリックフォント生成アルゴリズム」では、前章で提案した漢字フォント生成アルゴリズムに関する詳説が行なわれている。本研究では、漢字骨格線データとエレメントデータの定義を分離して行っている。エレメントのデータ表現には、独自の骨格線上相対座標系による表現法を採用し、輪郭線形状は2次Bスプライン曲線を用いて表現している。漢字ストローク形状の生成はエレメント骨格線を漢字骨格線に近似することによって行われる。ストローク接続部における変形処理問題に関しては、予め変形処理を施したエレメントデータを用意し、ストローク接続処理をエレメント選択作業に変換することで対処している。上記のことによって、本研究では、(1)書体に依存しない、(2)骨格線の再利用が容易である、(3)書体変更においてプログラムの書き換えが不要である、(4)優れたGUIユーザインタフェースの作成が容易であるといったような特徴を有する漢字フォント生成アルゴリズムが実現されている。 第6章「漢字フォントの生成実験」では、本研究で試作した漢字フォント生成システムを用いて、漢字フォント生成実験が行なわれている。実験で作成される漢字は第一水準と第二水準の一部で、合計3,000字である。作成する書体は、明朝体、ゴシック体、見出し明朝体、見出しゴシック体の4書体のほか、新書体であるファンテール体と明石明朝体の2書体も含まれている。 第7章「かなフォント作成およびTeXによる文書出力」では、作成したフォントのTeX清書システムにおける利用について述べられている。日本語の文書においては漢字以外にかな文字も使用されるため、かなフォントの作成についても説明が行なわれている。 第8章「本研究における漢字フォント生成に関する評価」では、本研究のシステムを用いて作成したフォントについて、作成所要時間とフォント品質の両面から客観的な評価が行なわれ、本研究で提案した漢字フォント生成システムの有効性が確認されている。 第9章「システムインプリメンテーション」では、本研究で試作したシステムのインプリメンテーションについて述べられている。 第10章「結論」では、以上の議論を総括され、まとめとして整理されている。 以上要約すると、この論文では、実用的な漢字フォント生成システムを目指して、独自の漢字パラメトリックフォント生成アルゴリズムが考案され、それを実現するプロトタイプシステムが開発されている。作成したシステムを用いて、6書体について各々JIS第一水準2,965文字を含む3,000字、計18,000字を生成する実験が行なわれている。漢字フォント生成所要時間およびフォント品質に関する客観的な評価を行なった結果、本システムは従来より短時間と少ない労力で十分実用に耐える品質のフォントを作成できることが確認されている。このように、本研究で述べられている方法論は、漢字フォントの自動生成技術に貢献するところがきわめて大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |