審査要旨 | | 本論文は5章からなり、界面動電現象の定量的評価を行なうためのモデリング手法の開発と,その手法の観測データへの適用について,詳細な研究を行なった結果について述べられている.第1章では,従来の研究の概要をまとめ,本研究で解決すべき問題点が論じられている.第2章と第3章では,界面動電現象を支配する基礎方程式の物理的な解釈と,その数値的な解析手法の導出手順が述べられている.第4章において,3例の野外観測データの解釈が,本研究で開発した手法によってなされ,本論文の結論が第5章に述べられている. 本研究は、地下水層や地熱地帯などで発生する,界面動電現象による電場や磁場の異常分布およびその時間的な変動の様子を,数値計算により定量的に評価するための手法を開発した点に、最大の特徴が認められる。従来の研究では,界面動電現象の存在が理論的に示され,室内実験による裏付けもなされているものの,現実の地表で観測される地電位差などのデータから,地球内部の物性の分布や状態を表す物理量(圧力・流量など)を定量的に推定する手段がなかった.本研究では,既に得られている基礎方程式を3次元直交座標系で離散化することにより,任意の圧力分布に対する3次元不均質媒質内の界面動電現象のモデル化を可能にした.このように,界面動電現象について基礎方程式を具体的に数値計算で評価するという数量評価の表現は,本研究においてはじめて導出された.この手法の開発により,地殻上部断層付近の流体流動を伴う地殻活動による地磁気・地電位差の異常変化や,火山・地熱地帯における地下の熱水活動に伴う地電位分布などについての定量的な議論が行なえるようになった. 本論文の主要部である2章及び3章では,この手法を用いて界面動電現象の性質とその発生機構を明かにした.その中には,従来の研究においては不明であったり,誤って解釈されていた事象を含む.例えば,半無限媒質中に圧力源が存在するとき,媒質表面には電位差が発生しないと考えられてきたが,表面における境界条件を正しく考慮することにより電位差が発生することを具体的に示した.また,界面動電現象に伴う磁場の発生機構について考察を行ない,圧力源による電流の分布に応じて発生する磁場の空間分布が決定されることを明かにした.さらに,いくつかの典型的な不均質構造についての数値実験を行ない,ゼータ電位・電気伝導度・空隙率などの個々の物性定数の不均質な分布が,発生する電磁場におよぼす影響について,考察を加えた. 第4章においては,野外観測とその解釈が述べられている.伊豆大島において地電位差の野外観測を,長基線・短基線二通りの方法で実施した.長基線の観測は,NTT電話回線を用いた連続観測で,短基線の観測は移動用の測定器を用いて,100〜500mの電極間隔で行なった.こうして得られた,海岸付近に見られる潮汐周期の電位差変動・地形に相関のある電位差分布・地電位差の年周変化等の野外観測データの解釈に,本研究で開発したモデリングの手法を応用した.潮汐周期の電位差変化の原因は,潮位変化による圧力変化が海岸から内陸の地下水層へ伝播するモデルを考え,具体的に数値計算結果と観測結果の比較を行なった.結論として,地表近くの比抵抗を測定にもとづいて25・mとしたとき,観測された振幅および位相の空間分布を説明するために,流動電位係数が3.5×10-7V/Pa程度であることを得た.地形と相関のある電位分布の原因としては,地表の標高に相関のある圧力的に不均衡な地下水面を考え,地下水層内部の水平方向の圧力勾配による,電位の発生機構を提案した.さらに具体的に数値計算を行ない,潮汐変化の解析で得た媒質の物性に対する条件に矛盾なく観測値を説明するモデルを得た.地電位の年周的変化については,地形効果の原因となっている地下水面の位置が,降雨などにより季節変化することがその原因であると推察した.以上の応用例によって,本研究で開発したモデリングの手法が,現実の地球物理学的な観測事実を定量的に議論するうえで有効であることが示された. 本論文は地球物理学的に興味深い現象である界面動電現象の定量的評価のための数値計算手段を開発したという点で,極めて大きな貢献をした.これにより,従来はあいまいな解釈が与えられていた現象に,物理的にもはっきりとした解釈が与えられた.また,観測データから地球内部の物性や状態を推定する手段を提出した. 以上のように,本論文は新しい手法に基づき,地球電磁気学の分野に大きな貢献をしたことが認められ,博士(理学)を授与できる内容であることが確認された. |