審査要旨 | | 本論文は4章からなり,第1章は概要,第2章はPt(001)からのNOの光脱離の紫外光電子分光法(UPS)による研究,第3章はPt(111)上のNOの光励起反応の反射吸収赤外分光法(RAIRS)による研究,第4章ではPt(111)からのCOとCO+の紫外及び可視のレーザー誘起脱離について述べている. 第1章では金属表面に強く化学吸着した2原子分子のレーザー励起による脱離,解離反応について、これまでの研究結果の紹介と脱離機構の概念的説明,Pt(001)とPt(111)に吸着したNO,CO分子の構造などが述べられ,本研究の重要性が論じられている.第2章は村田研究室で以前に見いだした6.4eVのレーザー光励起によるPt(001)からのNOの脱離での吸着種による選択性の原因を明らかにするため,HeI共鳴線による角度分解型UPSの測定をしている.吸着NO分子の結合性軌道の2b準位に着目し,Pt(001)表面に80KでNO分子を吸着させると,1.0L(1×10-6Torr・s)のNOの露出量で,Pt表面は一部hex構造から1×1構造に相転移し,この相転移で生じた両構造領域の境界の欠陥サイトに吸着したNO分子が,脱離に活性であることを示した.そしてこの結果は脱離機構から考えられる,中間の励起状態の寿命が長い吸着種が脱離に活性であることと矛盾なく説明できると論じている. 第3章では光励起過程での吸着種による選択性の研究にRAIRSの測定が効果的であることに着目し,その測定装置を組み上げ,Pt(111)に吸着したNO分子の紫外レーザー照射による挙動を,RAIRSによる吸着NO分子のN-O伸縮振動を測定し,その変化を追跡している.また脱離NO分子を共鳴多光子イオン化法(REMPI)により検出している.その結果,低被覆率ではNO分子はPtの2原子に跨っての吸着,すなわちブリッヂサイトに吸着し,レーザー照射によって脱離はしないが,1光子過程で解離することを見いだしている.一方,高被覆率ではPt原子の直上,すなわちオントップサイトに吸着し,レーザー励起脱離が1光子過程で起きることを示している.また分解,脱離のしきい値はそれぞれ3.5と5.0eVの間,2.3eV以下であるという結果を得ている.さらにブリッヂサイトに吸着したNO分子を光解離させた後にNO,N2の熱脱離の測定,光解離後にNOを飽和吸着させてRAIRSと光脱離の測定などから,ブリッヂサイトのNO分子は光照射によりO原子が脱離してN原子が表面に残ること,しかも吸着N原子は準安定状態であると推測している.一方,熱処理した場合にはNOは一部分解してO原子が残る.このように光励起過程は熱過程とは明らかに異なっている.またブリッヂサイトに吸着したNO分子では,孤立分子のB2II準位に関連した準位へ励起が起き,解離過程に行くのが妥当であると論じている.一方,オントップサイトに吸着した分子は,吸着子の反結合性軌道である2a準位へ励起が起き,脱離過程に行くと説明している. 第4章ではPt(111)上のCOがレーザー誘起の1光子過程で脱離し,脱離のしきい値が2.3と3.5eVの間であることを示している.また脱離CO分子の並進,回転,振動温度を(2+1)REMPIで測定し,例えば6.4eV励起の時,それぞれ2200,150,3400Kであるという結果を得ている.これらのことからNO,COの脱離過程の中間の励起状態が吸着分子の2a準位であることを明かにしている.一方,RAIRSの測定結果は低被覆率ではオントップサイトのみに,高被覆率になるとオントップサイトとブリッヂサイトにほぼ1:1で吸着し,オントップサイトの吸着CO分子のみが脱離することを示している.さらにC-O伸縮振動のスペクトルの高振動数部分がレーザー照射により減少することから,p(2×2)構造で吸着したNOの,異なる位相のドメインの境界に吸着した分子が脱離に活性であると結論している.CO+のイオン脱離は3光子過程で起き,励起エネルギーのしきい値は5.0eVより高いという興味ある結果を得ている. なお,本論文の第2,3,4章は村田好正,福谷克之氏らとの共同研究であるが,論文提出者が主体となって研究を行ったもので,論文提出者の寄与が十分であると判断する. |