基礎構造物の設計では、地盤を破壊させる基礎の究極荷重に対する実際に作用する荷重の比(安全率)がある値以上であることと、実荷重に対する基礎の変位が許容値以下であることを確認する。従来の設計法では、地盤の破壊は土を等方で完全塑性体と仮定した非常に近似的な古典理論を用いて予測し、基礎の変位は線形弾性論を用いて推定している。この両方の場合で、土の複雑な物性と簡易解析法と実挙動の間の整合性が悪いことが問題となってきている。本研究は、砂質土と堆積軟岩地盤上の基礎の支持力特性と沈下特性を、精密な要素試験により求めた物性の弾塑性モデルに基づいた有限要素法解析法の定式化を目的としている。 第1,2章では、問題の所在と既往の研究をまとめている。 第3,4章では、砂礫材料の弾塑性モデルを説明している。この場合、従来から行ってきた大量の平面ひずみ圧縮試験のデータを整理・解析して、大きな内部摩擦角に対する非関連流れ則、変形・強度特性の圧力レベル依存性、中間主応力の影響、初期構造異方性、応力状態誘導軸対称異方性、弾性変形特性を示す微小ひずみレベルからピーク強度状態までの応力・ひずみ関係の非線形性、ピーク強度発揮後のひずみ軟化・せん断層へのひずみの局所化とせん断層の変形特性を考慮したことが特徴である。また、モデルと実験結果の対応を詳細に検討している。 第5章では、平面ひずみ状態に加えて軸対称・三次元状態での地盤物性のモデル化、および解析法を研究した結果を説明している。 第6章では、堆積軟岩(砂岩)の系統的な三軸圧縮試験の結果を整理・解析して、弾塑性モデルを説明している。特に、弾性変形特性に対するせん断変形による損傷関数、原位置せん断弾性波速度により求めた弾性せん断剛性率を基礎にして不攪乱試料の三軸圧縮試験による変形特性のひずみレベル依存性と圧力レベル依存性を考慮する方法を定式化している。 第7章では、動的緩和法による有限要素解法の技術的諸問題を検討し、能率的で合理的な解決を、開発した結果をまとめている。 第8章では、1要素を用いた有限要素数値解析を行い、その解析法の妥当性を検討した結果を説明している。 第9章では、多数要素を用いた境界値問題(基礎の支持力問題)の有限要素解析を行い、地盤材料のモデルで用いたパラメータの感度解析と各種の仮定の影響度の解析を行った結果を説明している。 第10章では、従来行って来た平面ひずみ状態の砂地盤上の基礎の小型・大型模型実験(基礎幅0.5cm〜50cm)と平面ひずみ遠心力載荷実験の結果、および原位置堆積軟岩地盤上の直径60cmの大型平板載荷試験の結果と堆積軟岩と砂礫地盤上の世界最大の吊り橋の直径80mの基礎の沈下の実測結果の数値解析を行った結果をまとめてある。その結果、地盤材料の物性の基本的要因を適切にモデル化することにより、数値解析により検討した模型実験と原位置試験の結果と実基礎構造物の沈下挙動の全てを十分正確に再現出来ることを示している。特に、砂地盤上の帯基礎の支持力問題における寸法効果(同一の砂地盤上で基礎寸法の増大に伴う支持力係数Nの減少)は、圧力レベル効果(重力の加速度レベルの増加に伴う同一の砂地盤上の同一の基礎のNの減少)および粒子径効果(同一地盤で基礎幅/砂粒子径の比の増大によるNの減少)から成り立っており、このことを地盤の破壊の進行性を考慮できる数値解析で再現できることを示している。さらに、砂地盤上の基礎の支持力・沈下特性に対する地盤の密度、基礎の埋め込み深さ、基礎底面の粗度、基礎荷重の傾斜、基礎の形状の影響に関する模型実験の結果の数値解析にも成功している。また、原位置堆積軟岩(砂岩)上の平板載荷試験結果と、明石海峡大橋の基礎の実測沈下記録も、原位置地盤調査と不攪乱試料の三軸圧縮試験結果に基づいた有限要素解析でほぼ正確に数値解析できることを示している。 第11章は、結論である。 以上要するに、本研究は基礎構造物の設計問題において従来不明であった多くの点を明らかにしていて、基礎工学の分野の研究と技術の進展に貢献する所が大である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |