学位論文要旨



No 110795
著者(漢字) 黄,光偉
著者(英字)
著者(カナ) ホァン,グァンウェイ
標題(和) 暖かい地表面上の乱れた空気流のモデル化に関する研究
標題(洋) NUMERICAL MODELING OF TURBULENT AIR FLOW OVER A WARMER SURFACE
報告番号 110795
報告番号 甲10795
学位授与日 1994.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3250号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 玉井,信行
 東京大学 教授 渡邊,晃
 東京大学 教授 磯部,雅彦
 東京大学 助教授 荒川,忠一
 東京大学 助教授 河原,能久
内容要旨

 近年,都市域の温暖化や乾燥化が顕著になってきており,重大な関心が払われている。道路の舗装化,ビルの高層化,緑地の減少など地表面の改変が進みにつれ,エネルギー消費も増え,都市特有の気候であるヒートアイランド現象が顕在化してきている。都市域の気温上昇に伴い,夏期の冷房需要が拡大し,そのためエネルギー消費がさらに増大し,一層気温上昇を招くといった悪循環を生んでいる。また,ヒートアイランド現象は大気汚染物質の輸送にも影響を与えるために住民の住環境に多大の影響を及ぼす。

 本研究の主目的は,ヒートアイランド現象の形成機構や特徴を明らかにすること,またヒートアイランド現象の解析に有効で信頼性の高い方法を開発することにある。このために,理論的な解析によりヒートアイランド強度の評価方法の検討や乱流モデルの改良とそれを用いた熱及び水蒸気輸送過程の解析LESを用いた数値解析を行った。

 都市ヒートアイランドの形成には地表面での湿潤度や粗度が影響を及ぼすが,理論的な解析より,都市域の地表面湿潤度がヒートアイランドの形成に重大な役割を演ずることを明示した。これは,都市域における蒸発散区域の広さや地表面での浸透性確保の重要性を意味している。たま,高層建築物は蒸発散を抑制し気温上昇を促す可能性があることが示唆された。

 数値解析結果と観測資料に基づく次元解析により,ヒートアイランド強度と都市を特徴づけるパラメータ間の一般な関係式を導出した。その一般関係式は宅地化の進行,人工熱及び地表面熱容量と都市気温上昇の間に明瞭な相関があることを示した。都市計画の観点からみて重要な結果として,昼間の気温上昇が緑地帯や水域の拡大により軽減されること,また夜間の熱環境が建物や道路の材料の改良により改善されるとの知見を得た。

 ヒートアイランド現象の構造を解析するために,乱流エネルギーのカスケード過程の非定常性を考慮した多重時間スケール乱流モデルを導入し,地表面温度が急変する場合の熱及び水蒸気輸送過程の解析を行った。多重スケールモデルは,単一の時間スケールモデルよりも物理的に合理的である。計算結果と実験結果との比較より,多重時間スケールモデルの方が通常の単一時間スケールモデルより信頼性の高いことが明かとなった。

 数値解析では乱流輸送過程に対するモデルの信頼性向上と同時に数値解析手法自体の高精度化力坏可欠である。有限体積法に基づく流れ場の解析法に有用な二次精度風上差分スキームの定式化を物理的考察に基づき新たに行った。バックステップ流れに適用し,本スキームが精度と安定性の観点から実用的であることを示した。

 ヒートアイランド現象のダイナミックな特徴を検討するためにLES解析を暖かい地表面上の空気流に対して実行した。数値解析結果はKreplin-Eckelmannの実験結果を良好に再現することを確認した。Smagorinsky定数とSubgrid Prandtl数の大きさの選択はSmagorinsky SGSモデルに伴う問題点の1つであるが,本研究では,シミュレーション結果と理論的議論に基づき,それらの2つの定数選択に関するガイドラインを提示した。さらに,Subgrid拡散スケールと消散スケールの関係に対する浮力影響を検討し,改良型Smagorinskyモデルを提案した。また,接地層におけるモーニン・オブーコフの相似則によって,浮力に依存するSubgrid Prandtl数の表現を導いた。暖かい地表面上の不安定な乱流に対するLES解析を適用した結果,鉛直方向の乱れ強度が水平方向の乱れ強度より強くなること,また横断方向の風速がかなり小さいことが注目された。それらは今後の乱流モデルの開発に有用であると考えられる。

 以上のように,本研究は都市域のヒートアイアランド現象に対して,現象の詳細を解析するためのLES解析手法の改良と乱流モデルを組み込んだ実用的な予測手法の提案,さらに巨視的なスケールでのヒートアイランド強度の評価式の提案を試みたものである。混在化が進んだ土地利用を有する現実の都市域への適用が今後の大きな課題である。

審査要旨

 近年,都市域に於ては土地利用が高度化し、地表面の被覆率が増大する一方,エネルギー消費も増えて、都市特有の気候であるヒートアイランド現象が顕在化している。これにより大気熱環境が悪化するとともに、大気汚染物質の輸送にも影響を与え、住環境に多大の影響を及ぼす状況となっている。本研究は,ヒートアイランド現象の形成機構や特徴を明らかにすること,またヒートアイランド現象の解析に有効で、信頼性の高い数値解析法を開発することを目的として行われた。理論的な解析によりヒートアイランド強度を評価すること、乱流モデルの改良とそれを用いた熱及び水蒸気輸送の素過程の解析,LESを用いた数値解析が行われた。

 都市ヒートアイランドの形成には地表面での湿潤度や粗度が影響を及ぼす。本論文においては理論的な解析により,都市域の地表面湿潤度がヒートアイランドの形成に重大な役割を演ずることが示された。これは,都市域における蒸発散区域の広さを十分に確保することや地表面での浸透性を確保することが重要であることを示している。また,高層建築物は蒸発散を抑制し、気温上昇を促す可能性があることが示唆された。

 数値解析結果と観測資料に基づく次元解析により,ヒートアイランド強度と都市を特徴づけるパラメータ間の一般的な関係式を導出した。その一般関係式は、宅地化の進行,人工熱及び地表面熱容量の関数として得られている。昼間の気温上昇が緑地帯や水域により緩和されること,また夜間の熱環境が建物や道路の材料の改良により改善されることを見出した。これらの効果に関して定量的な知見を得たことは、都市計画上大変有用な結果である。

 ヒートアイランド現象の構造を解析するために,乱流エネルギーのカスケード過程の非定常性を考慮した多重時間スケール乱流モデルを導入し,地表面温度が急変する場合の熱及び水蒸気輸送過程の解析を行った。多重スケールモデルは,単一の時間スケールモデルよりも物理的に合理的である。計算結果と実験結果との比較より,多重時間スケールモデルの方が通常の単一時間スケールモデルより信頼性の高いことを明かにした。

 数値解析では乱流輸送過程に対するモデルの信頼性向上と同時に数値解析手法自体の高精度化が不可欠である。有限体積法に基づく流れ場の解析法に有用な、二次精度風上差分スキームの定式化を物理的考察に基づき新たに行った。新しい手法を段落ち流れに適用し,精度と安定性の観点から優れていることを検証した。

 ヒートアイランド現象のダイナミックな特徴を検討するために、暖かい地表面上の空気流に対してLES解析を実行した。数値解析結果はKreplin-Eckelmannの実験結果を良好に再現することを確認している。Smagorinsky定数とSubgrid Prandtl数の大きさの選択は、LES解析の問題点の一つである。本研究では,シミュレーション結果と理論的議論に基づき,それらの二つの定数の選択に関する公式を導いた。これは提出者の優れた成果として、評価できる。さらに,Subgrid拡散スケールと消散スケールの関係に対する浮力の影響を検討し,改良型Smagorinskyモデルを構築した。また,接地層におけるモーニン・オブーコフの相似則を活用して,浮力に依存するSubgrid Prandtl数の表現を導いた。暖かい地表面上の不安定な乱流に対するLES解析を適用して得られた結果の中では,鉛直方向の乱れ強度が水平方向の乱れ強度より強くなること,また横断方向の風速がかなり小さいことが注目される。これらの成果は今後の乱流モデルの開発に有用であると考えられる。

 以上のように,本論文は都市域のヒートアイアランド現象に対して,現象を詳細に解析するためのLES解析手法の改良と乱流モデルを組み込んだ実用的な予測手法の構築,さらに巨視的なスケールでのヒートアイランド強度の評価に成功している。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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