学位論文要旨



No 110799
著者(漢字) ヌーザド,アサドラ
著者(英字)
著者(カナ) ヌーザド,アサドラ
標題(和) 剛体構造と半無限多孔質地盤の動的相互作用
標題(洋) Dynamic interaction between a rigid body and the surrounding semi-infinite poro-elastic medium
報告番号 110799
報告番号 甲10799
学位授与日 1994.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3254号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 小長井,一男
 東京大学 教授 東原,紘道
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 山崎,文雄
内容要旨

 本研究は、地盤の間隙水が地盤と構造物の動的な相互作用に与える影響を、地盤上あるいは地盤中に置かれた剛体円盤基礎の解析を通して論じたものである。また間隙水を含む地盤と構造物の動的挙動解析のための波動逸散境界を波頭の拡散形状に応じて提示している。

 本論文は7章よりなるが、以下に論文内容の要旨を各章ごとに順を追って記載する。

 第1章では、地盤と構造物の動的相互作用の研究の流れについて概観し、研究の背景を記述するとともに、本研究の目的を述べている。

 第2章では、地盤を多孔質弾性体とし、その空隙が気泡を含む水、すなわち圧縮性のある液体で満たされていると仮定するBiotのモデルに基づいて粒子骨格である固体相、間隙水である液体相おのおのの運動方程式とその特徴を記述し、これを解く上での工夫について述べている。

 第3章では、遠方地盤の影響を波動逸散境界を置くことで表現できるものとし、遠方地盤のインピーダンスを代表的な波頭の幾何学的拡散形状に応じて与えている。対象としたものは、無限に広がった平面に設けられた円筒状の境界から円筒の水平動、上下動、ロッキングなどの動きによって放射される波動を想定したインピーダンス、および平面的な波頭伝播を想定したインピーダンスで、これらは固体相、液体相の相互作用を考えない従来の弾性波動論による波動伝達境界のインピーダンスと比較され、多孔質地盤の諸パラメータが与える影響が検討されている。このような波動逸散境界の扱いは、構造の形状、地形の形状に応じて波頭がどのような形で逸散するかという概念と直感的に結び付くもので、結果として遠方地盤剛性はWinkler型の離散的なばねとして表現される。したがって境界点同士の相互作用、すなわちインピーダンスマトリックスの非対角項を考慮する必要がなく、数値解析を著しく簡便にする利点を有している。これらのインピーダンスは直接的に埋設円筒基礎の動的挙動解析に用いられるのみならず、地盤を構造近傍領域と遠方領域に分割した場合の遠方地盤を表現する近似波動伝達境界としても用い得るものである。

 第4章では三次元の半無限の広がりを持つ多孔質地盤を対象とし、その表面に置かれた剛体円盤のインピーダンスを誘導している。この混合境界値問題を解くためには、第2種Fredholm積分を実行するのが常であるが、Boussinesq分布と呼ばれる剛体円盤の静的接触圧分布形、一様分布、楕円分布、放物線分布などがいずれも同じ関数形で表現されることに着目し、これらの線形和で動的接触圧分布が表現されるとして混合境界値問題をNeuman問題に置き換え、簡便な手法ながら幅広い周波数領域で精度の高い解を得ることに成功している。さらに求められたインピーダンスを従来の地盤を一様弾性体とみなした解と比較し、その差異を論じている。具体的には、地下水位以下の地盤が非排水状態で圧縮性に乏しい弾性体とみなされる状況と、間隙水の影響が全く無視されたという両極端な状況について古典的な弾性波動論で解を求め、地盤の透水係数、飽和度などの状況によって飽和多孔質地盤の特性が様々に変化する様子をこれらと比較し検討している。その結果、例えば地下水面下の沖積層で水の縦波速度にほぼ等しい1500m/s程度の縦波速度が計測される地盤と等価な一様弾性体のPoisson比はほぼ0.5とみなされるが、砂や砂礫を想定して2相モデルの透水係数のみを大きくした場合には、剛体円盤のインピーダンスの周波数依存性はむしろ水の影響を無視した解に近づいていくなどの知見が得られている。また地盤物性を表すパラメーターがどの範囲であれば、古典的なアプローチでも実用的に等価な解が得られるかについても検討を加えて、従来モデルの適用範囲を検討している。

 第5章は、第4章で地盤表面に置かれていた円盤を地盤の内部に置いた状況を設定し、そのインピーダンスを求めている。これは将来的に多孔質飽和地盤内の杭やケーソン基礎などの応答解析に必要になるものである。

 第6章は、第4章、第5章で展開した論理を多層の地盤に拡張しその汎用性を高めている。この中でインピーダンスの数値計算例を幾つか示し、層境界からの反射波によるインピーダンスの変化とそれに与える飽和度、透水係数などの影響を例示している。

 第7章は結論として、各章で得られた結果や知見を総括し、今後の課題と展望について述べている。

審査要旨

 様々な構造が立地する沖積層地盤は粒状体の構成する骨格を間隙水が満たす2相系と捉えられる。したがって、このような地盤と構造物の相互作用を検討する上で固体相と液相の相互作用とその影響を検討しておく意義は大きい。本研究は、地盤の間隙水が地盤と構造物の動的な相互作用に与える影響を、地盤上あるいは地盤中に置かれた剛体円盤基礎の解析を通して論じている。このなかで地盤を単一相と捉えた場合との差異を様々な地盤条件で検討し、従来手法で解析し得る範囲を示すとともに、2相系の相互作用が顕著に現れる場合と、そのような状況下での剛体円盤のインピーダンスの特徴について詳細な検討を加えている。さらに間隙水を含む地盤と構造物の動的挙動解析のための波動逸散境界を波頭の拡散形状に応じて提示している。

 第1章では、地盤と構造物の動的相互作用の既往の研究をまとめ、研究の背景を記述するとともに、問題の所在を明らかにしている。

 第2章では、地盤を多孔質骨格と捉え、その空隙が気泡を含む圧縮性のある液体で満たされていると仮定するBiotのモデルに基づいて、粒子骨格である固体相、間隙水である液体相各々の運動方程式を記述し、これを解く上での工夫を述べている。さらにこのような2相系で現れる2種の縦波速度の周波数依存性について検討を加えている。

 第3章では、地盤への波動逸散の影響を等価な境界を置くことで表現できるものとし、杭やケーソンなど円筒状の構造要素を支える多孔質地盤のインピーダンスを、水平動、上下動、ロッキングなどの振動モードについて与えている。これらのインピーダンスは周波数に依存する複素数であるが、これらを周波数非依存のばね、ダッシュポットの複合したシステムで近似する手法を示している。このような波動逸散境界の扱いは、構造の形状、地形の形状に応じて波頭がどのような形で逸散するかという概念と直感的に結び付くもので、結果として遠方地盤剛性はWinkler型の離散ばねとして表現される。したがって境界点同士の相互作用、すなわち剛性マトリックスの非対角項を考慮する必要がなく、数値解析は著しく容易になる。またこれらのインピーダンスは周波数非依存のばねやダッシュポットの複合した形式で表現されるため、地盤の非線形性を取り込んだ時刻歴応答解析を直接行い得るという大きな利点を有している。

 第4章では半無限の三次元多孔質地盤の表面に置かれた剛体円盤のインピーダンスを誘導している。この混合境界値問題を解くうえで、Boussinesq分布と呼ばれる剛体円盤の静的接触圧分布形、一様分布、楕円分布、放物線分布などがいずれも同じ関数形で表現されることに着目し、これらの線形和で動的接触圧分布が表現されるとして混合境界値問題を簡便なNeuman問題に置き換え、幅広い周波数領域で精度の高いインピーダンス解を得ている。地下水で飽和した地盤では、地下水が粒子骨格に閉じこめられた非排水状態か、あるいは粒子間を自由に流れ得る排水状態かで、地盤上の円盤のインピーダンスは大きく作用されるが、これらの状態を両極端として、透水係数、気泡を含む水の体積弾性率の変化でインピーダンスがどのように変化するかを詳細に検討している。そして従来の地盤を単一相の弾性体とみなした解析結果と比較して、古典的なアプローチでも妥当な結果が得られる範囲とその限界を明らかにしている。

 第5章では、地盤の内部に置かれた剛体円盤のインピーダンスを求めている。さらに第6章ではこれらの議論を多層の多孔質地盤に展開し、その汎用性を高めている。この中でインピーダンスの数値計算例を幾つか示すとともに、境界面、地表面の影響を鏡像を用いて表現する簡便法にもふれ、一般的には精度の高いこの近似法も各層の飽和度、透水係数の状況によっては精度が低下することを示している。

 第7章は結論で、各章で得られた結果や知見を総括している。

 以上要するに、本研究は、二相系の地盤と比較的剛な構造物の相互作用作用において従来不明であった様々な点を明らかにしていて、地下水で飽和した地盤と構造の動的挙動の解明に大きな貢献をなすものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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