様々な構造が立地する沖積層地盤は粒状体の構成する骨格を間隙水が満たす2相系と捉えられる。したがって、このような地盤と構造物の相互作用を検討する上で固体相と液相の相互作用とその影響を検討しておく意義は大きい。本研究は、地盤の間隙水が地盤と構造物の動的な相互作用に与える影響を、地盤上あるいは地盤中に置かれた剛体円盤基礎の解析を通して論じている。このなかで地盤を単一相と捉えた場合との差異を様々な地盤条件で検討し、従来手法で解析し得る範囲を示すとともに、2相系の相互作用が顕著に現れる場合と、そのような状況下での剛体円盤のインピーダンスの特徴について詳細な検討を加えている。さらに間隙水を含む地盤と構造物の動的挙動解析のための波動逸散境界を波頭の拡散形状に応じて提示している。 第1章では、地盤と構造物の動的相互作用の既往の研究をまとめ、研究の背景を記述するとともに、問題の所在を明らかにしている。 第2章では、地盤を多孔質骨格と捉え、その空隙が気泡を含む圧縮性のある液体で満たされていると仮定するBiotのモデルに基づいて、粒子骨格である固体相、間隙水である液体相各々の運動方程式を記述し、これを解く上での工夫を述べている。さらにこのような2相系で現れる2種の縦波速度の周波数依存性について検討を加えている。 第3章では、地盤への波動逸散の影響を等価な境界を置くことで表現できるものとし、杭やケーソンなど円筒状の構造要素を支える多孔質地盤のインピーダンスを、水平動、上下動、ロッキングなどの振動モードについて与えている。これらのインピーダンスは周波数に依存する複素数であるが、これらを周波数非依存のばね、ダッシュポットの複合したシステムで近似する手法を示している。このような波動逸散境界の扱いは、構造の形状、地形の形状に応じて波頭がどのような形で逸散するかという概念と直感的に結び付くもので、結果として遠方地盤剛性はWinkler型の離散ばねとして表現される。したがって境界点同士の相互作用、すなわち剛性マトリックスの非対角項を考慮する必要がなく、数値解析は著しく容易になる。またこれらのインピーダンスは周波数非依存のばねやダッシュポットの複合した形式で表現されるため、地盤の非線形性を取り込んだ時刻歴応答解析を直接行い得るという大きな利点を有している。 第4章では半無限の三次元多孔質地盤の表面に置かれた剛体円盤のインピーダンスを誘導している。この混合境界値問題を解くうえで、Boussinesq分布と呼ばれる剛体円盤の静的接触圧分布形、一様分布、楕円分布、放物線分布などがいずれも同じ関数形で表現されることに着目し、これらの線形和で動的接触圧分布が表現されるとして混合境界値問題を簡便なNeuman問題に置き換え、幅広い周波数領域で精度の高いインピーダンス解を得ている。地下水で飽和した地盤では、地下水が粒子骨格に閉じこめられた非排水状態か、あるいは粒子間を自由に流れ得る排水状態かで、地盤上の円盤のインピーダンスは大きく作用されるが、これらの状態を両極端として、透水係数、気泡を含む水の体積弾性率の変化でインピーダンスがどのように変化するかを詳細に検討している。そして従来の地盤を単一相の弾性体とみなした解析結果と比較して、古典的なアプローチでも妥当な結果が得られる範囲とその限界を明らかにしている。 第5章では、地盤の内部に置かれた剛体円盤のインピーダンスを求めている。さらに第6章ではこれらの議論を多層の多孔質地盤に展開し、その汎用性を高めている。この中でインピーダンスの数値計算例を幾つか示すとともに、境界面、地表面の影響を鏡像を用いて表現する簡便法にもふれ、一般的には精度の高いこの近似法も各層の飽和度、透水係数の状況によっては精度が低下することを示している。 第7章は結論で、各章で得られた結果や知見を総括している。 以上要するに、本研究は、二相系の地盤と比較的剛な構造物の相互作用作用において従来不明であった様々な点を明らかにしていて、地下水で飽和した地盤と構造の動的挙動の解明に大きな貢献をなすものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |