学位論文要旨



No 110800
著者(漢字) シャウキー アシュラフ アデル
著者(英字)
著者(カナ) シャウキー アシュラフ アデル
標題(和) 地中鉄筋コンクリート構造の静的及び動的非線形解析
標題(洋) NONLINEAR STATIC AND DYNAMIC ANALYSIS FOR UNDERGROUND REINFORCED CONCRETE
報告番号 110800
報告番号 甲10800
学位授与日 1994.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3255号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 前川,宏一
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 片山,恒雄
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 助教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 堀井,秀之
内容要旨

 耐震設計において動的荷重は、立地場所の地震特性、地質、構造物の靭性、および鉄筋コンクリート構造物に生じる限界状態を参考にして、等価静的荷重として表現される。この簡略化された設計手法は、特定の種類の構造には適切なものであるが、周辺媒体と複雑な相互作用を持つ構造物においては適切ではない場合がある。地中鉄筋コンクリート構造物に生じる動的荷重は、土の変形と大きく関係しているのである。その上、鉄筋コンクリートに加わる動的な土圧は、鉄筋コンクリート部材の剛性の低下、構造物の靭性および繰り返し減衰特性に影響される。

 本研究の主目的は、地震作用下の地中構造物の設計を合理的に発展させることである。本研究では、土と動的荷重に着目し、巨大なせん断変形下における地中鉄筋コンクリート構造物と連続体としての地盤との力学的非線形相互応答について研究を行った。設計の合理化を目標に、鉄筋コンクリートと地盤の全体系の挙動を地震荷重作用下において組合わせて解析したのである。

 静的及び動的荷重作用下において、地中構造物と周辺地盤の全体系が解析できるよう、境界要素を新たに導入し、合理的で一般的な有限要素解析プログラムを開発した。3次元の有限要素解析に完全に適用できる土の経路依存解析手法と一般化された構成則は、鉄筋コンクリートの経路依存構成則に関連させて定式化した。鉄筋コンクリートと地盤間の境界層の構成則は剥離と滑りという形で考慮している。

 繰り返し荷重に対応できる鉄筋コンクリートの非線形有限要素解析に基づいて、地盤の構成則およびRCと地盤間の境界要素をコンピュータプログラムWCOMRSJに組込んだ。これは構造物と地盤双方の繰り返し減衰と復元力特性が本質的に考慮され、残留変位が定量的に評価できるものであり、提案したモデルが完全経路依存性を有することの優位性が示されている。

 構築した解析プログラムを検証するために、本研究では2種類の検証を実施し、先ず、せん断と曲げを受ける構造物レベルの鉄筋コンクリート構成則を検証するために、日本において用いられている鉄筋コンクリート箱型断面の実験を行った。そして、鉄筋コンクリート/地盤系全体の解析結果を、繰り返しせん断荷重作用下の砂地盤に埋められた鉄筋コンクリート箱型断面の実験と比較した。これらの解析及び実験結果と鉄筋コンクリート箱型断面単体の実験結果から、採用した地盤中の鉄筋コンクリートの構成則が妥当であることが示された。さらに、鉄筋コンクリート/地盤系全体の実験結果を用いて、地盤と境界要素モデルの解析結果と鉄筋コンクリートに組み合わされた地盤の挙動が検証されたのである。

 さらに、ケミカルプレストレストコンクリートを使用した地中構造物の挙動を確認し、解析により鉄筋コンクリート構成則の適用性を評価するために、実験的検討を行った。膨張材による初期応力とひびわれ発生後のコンクリートの引張応力を考慮にいれたケミカルプレストレストコンクリートの挙動を表現するために、引張剛性モデルについてのいくつかの改良を提案した。

 本研究におけるもう一つの主眼は、地中構造物の合理的な設計を実現するために、静的及び動的荷重作用下の種々の局面における鉄筋コンクリート/地盤系の全体を解析することにより、力学的非線形相互作用を示すことである。この目的のために、静的状況下において、非線形周辺地盤を通して伝達されるせん断力が作用する、2種類の異なる種類の地中構造物について感度解析を行い、鉄筋コンクリートと地盤における材料の非線形性、構造物の剛性、鉄筋比といった種々の影響因子について検討した。さらに、地中構造物設計の将来的な進展を見据えた合理的な指針のための明確な概念を得るために、破壊形態、残留変位、鉄筋コンクリートへの導入応力について検討した。

 最後に、解析により得られた限界状態やその他の重要な項目を確認するために、現行の設計体系で採用されている設計概念にしたがって既に設計されている、原子力発電設備の地中構造物と周辺地盤について、動的荷重作用下における解析を行った。数値シミュレーションと感度解析に基づいて、地中構造物の合理的な設計指針を提案した。

審査要旨

 地中に埋設された鉄筋コンクリート構造に導入される地震力は、周辺地盤の特性のみならず、構造物の靭性によっても大きく左右される。従来の設計法では、構造物の靭性如何に関わりなく、土庄が規定されてきた。その結果、経済的に高強度の地中鉄筋コンクリートが設計可能となる反面、構成部材は低靭性を呈する形態に誘導されてきた。

 しかし、構造靭性が卓越する場合、周辺地盤に大きな歪みが導入されるため、地盤から鉄筋コンクリートに導入される地震荷重も同時に低減する。安全性と機能性両面の限界状態と照らし合わせて、高強度・低靭性を有する地中構造の選択のみが合理的であるとは言えない。本研究は、靭性を考慮した鉄筋コンクリート設計法の確立を念頭に置き、地中に構築する鉄筋コンクリートの静的および動的非線形解析手法の開発を行ったものである。

 第1章は序論であり、地中に構築する鉄筋コンクリートの設計ならびに地盤/構造システムの解析技術の現状をまとめ、本研究の目的について整理している。

 第2章は本研究で採用した、交番載荷を考慮した鉄筋コンクリート要素の構成則について概説したものである。

 第3章は第2章をさらに発展・拡張し、膨張コンクリートによって製造された鉄筋コンクリート構成モデルの提案を行うとともに、代表的な地中鉄筋コンクリートである閉断面箱型カルバートの実大載荷実験結果による、多角的検証を行ったものである。コンクリートに自己膨張性を与えることにより、構造強度を殆ど変えることなく、構造靭性のみを大きく変化させることが可能であり、それを正確に解析によって追跡する手法を提示している。地中に構築する鉄筋コンクリート耐震部材に、膨張コンクリートを使用することの構造的利点を解析的に明示する点に論点が置かれている。

 第4章は本研究で採用した、地盤および構造/地盤境界の力学モデルについて述べたものである。さらに、前出の鉄筋コンクリート構成則と組み合わせることで、地盤・鉄筋コンクリートの非線形解析法を提示し、強制せん断変位を受ける人工地盤中の鉄筋コンクリート2連カルバートの変形に関する実験結果を用いて、本システムの検証を行っている。本解析法の眼目は、大変形を経験した鉄筋コンクリートの残留変形や損傷を定量的に評価できる点にある。

 第5章では、第4章で検証を経た解析法を用いて、鉄筋コンクリートの靭性と地盤から導入される外力との相関について論じている。構造靭性に関与する鉄筋比・部材厚さ・自己膨張の有無について感度解析を系統的に行った結果、強度を低減させても靭性を向上させることにより、従来の構造と同じ安全性を確保でき、かつ漏洩等の機能性において、より優れた設計が可能であることを、静的解析から示唆している。

 第6章は、第5章の感度解析を受けて、より現実に近い動的荷重を地盤・鉄筋コンクリートのシステムに入力した結果を論じている。地上に建設された鉄筋コンクリート構造同様に、地中に構築された鉄筋コンクリート構造の耐震限界状態計に関しても、靭性の確保を考慮した設計が合理的であることを示している。

 第7章は、現実に設計・施工された構造の耐震安全性を再検討したものである。ここでは、鉄筋比の増加や部材厚さの低減による靭性向上のみならず、膨張コンクリートの使用が、地震荷重以後の残留変形を有効に低減させることを提示し、膨張コンクリート構造の地中構造に対する利点を明らかにした。

 第8章は結論であり、本研究で得られた成果を概括している。

 本論文は、地盤・鉄筋コンクリート構造の残留変形と損傷を定量評価すべく、静的・動的非線形解析法を開発し、既往の地中鉄筋コンクリート設計法の再評価を行った。これにより、地中構造の靭性確保を可能とする設計法が、安全性および機能性の観点からみて不可欠であることを明示しており、今後の靭性設計の確立に資するところ大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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