地中に埋設された鉄筋コンクリート構造に導入される地震力は、周辺地盤の特性のみならず、構造物の靭性によっても大きく左右される。従来の設計法では、構造物の靭性如何に関わりなく、土庄が規定されてきた。その結果、経済的に高強度の地中鉄筋コンクリートが設計可能となる反面、構成部材は低靭性を呈する形態に誘導されてきた。 しかし、構造靭性が卓越する場合、周辺地盤に大きな歪みが導入されるため、地盤から鉄筋コンクリートに導入される地震荷重も同時に低減する。安全性と機能性両面の限界状態と照らし合わせて、高強度・低靭性を有する地中構造の選択のみが合理的であるとは言えない。本研究は、靭性を考慮した鉄筋コンクリート設計法の確立を念頭に置き、地中に構築する鉄筋コンクリートの静的および動的非線形解析手法の開発を行ったものである。 第1章は序論であり、地中に構築する鉄筋コンクリートの設計ならびに地盤/構造システムの解析技術の現状をまとめ、本研究の目的について整理している。 第2章は本研究で採用した、交番載荷を考慮した鉄筋コンクリート要素の構成則について概説したものである。 第3章は第2章をさらに発展・拡張し、膨張コンクリートによって製造された鉄筋コンクリート構成モデルの提案を行うとともに、代表的な地中鉄筋コンクリートである閉断面箱型カルバートの実大載荷実験結果による、多角的検証を行ったものである。コンクリートに自己膨張性を与えることにより、構造強度を殆ど変えることなく、構造靭性のみを大きく変化させることが可能であり、それを正確に解析によって追跡する手法を提示している。地中に構築する鉄筋コンクリート耐震部材に、膨張コンクリートを使用することの構造的利点を解析的に明示する点に論点が置かれている。 第4章は本研究で採用した、地盤および構造/地盤境界の力学モデルについて述べたものである。さらに、前出の鉄筋コンクリート構成則と組み合わせることで、地盤・鉄筋コンクリートの非線形解析法を提示し、強制せん断変位を受ける人工地盤中の鉄筋コンクリート2連カルバートの変形に関する実験結果を用いて、本システムの検証を行っている。本解析法の眼目は、大変形を経験した鉄筋コンクリートの残留変形や損傷を定量的に評価できる点にある。 第5章では、第4章で検証を経た解析法を用いて、鉄筋コンクリートの靭性と地盤から導入される外力との相関について論じている。構造靭性に関与する鉄筋比・部材厚さ・自己膨張の有無について感度解析を系統的に行った結果、強度を低減させても靭性を向上させることにより、従来の構造と同じ安全性を確保でき、かつ漏洩等の機能性において、より優れた設計が可能であることを、静的解析から示唆している。 第6章は、第5章の感度解析を受けて、より現実に近い動的荷重を地盤・鉄筋コンクリートのシステムに入力した結果を論じている。地上に建設された鉄筋コンクリート構造同様に、地中に構築された鉄筋コンクリート構造の耐震限界状態計に関しても、靭性の確保を考慮した設計が合理的であることを示している。 第7章は、現実に設計・施工された構造の耐震安全性を再検討したものである。ここでは、鉄筋比の増加や部材厚さの低減による靭性向上のみならず、膨張コンクリートの使用が、地震荷重以後の残留変形を有効に低減させることを提示し、膨張コンクリート構造の地中構造に対する利点を明らかにした。 第8章は結論であり、本研究で得られた成果を概括している。 本論文は、地盤・鉄筋コンクリート構造の残留変形と損傷を定量評価すべく、静的・動的非線形解析法を開発し、既往の地中鉄筋コンクリート設計法の再評価を行った。これにより、地中構造の靭性確保を可能とする設計法が、安全性および機能性の観点からみて不可欠であることを明示しており、今後の靭性設計の確立に資するところ大である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |