感度とは構造系に含まれるパラメータ(以下設計変数と呼ぶ)の変化に対する構造応答の比,即ち変化率のことであり,最適設計,信頼性解析などの分野において広く用いられることは周知の通りである.感度解析の手法としては,差分法,随伴法,微分法(摂動法)などが知られており,線形問題においては感度解析の諸理論はほぼ整備,確立されているといっても過言ではない.一方,非線形問題における感度解析の歴史は比較的浅く,最近では多数の研究者がこの分野を手懸け始めているものの,非線形問題では構造応答が負荷経路に依存したり,場が設計変数に対して不連続に変化したりする場合もあることから,特に微分法で感度を求めることの是非については疑問が残り,理論の確立が待たれる状態にある.また非線形理論の複雑さを反映して感度解析の定式化は冗長となりがちであり,これが実用化,汎用化を疎外することも懸念される.もちろん単なる差分法の適用は原理的には可能であるが,非線形有限要素解析を繰り返すことにより多数の感度を求めることは,実用規模の問題については計算時間とコストの面からほとんど不可能に近い. 本研究では先ず既存の負荷経路依存問題に対する感度解析手法についての比較をすることにより,それらの手法の特徴及び計算効率を検証する。続いて幾何学的非線形性並びに負荷経路依存性のある材料非線形性の両者を考慮した感度解析手法を定式化し,これを原子炉燃料棒支持スプリングの弾塑性大変形解析に適用することにより,実用規模の問題に対する本手法の有効性を検証し,併せて感度解析結果とそれに基づく確率的評価から燃料棒支持スプリングの設計・製造における実用上の知見を求める.更にこれに接触を考慮した大変形弾塑性接触問題の感度解析手法を開発し,原子炉蒸気発生器伝熱管の大変形弾塑性接触問題の感度解析を通じてこの手法を検証する。本研究で用いる感度解析手法は設計変数に対する内力の変化率を差分的に評価する半解析的な手法であるが,計算効率が高い.汎用コードへの組み込みも内力評価ルーチンを利用し,構成式の形によらずに容易に行なうことができる.更に動的解析への拡張も容易である。 1.大変形弾塑性感度解析: Total Lagrange法による時刻tiでの仮想仕事の原理 を有限要素法を用いて離散化すると,内力ベクトルをQi,外力ベクトルをFiとして平衡方程式 を得る。上式は変位に関する非線形方程式となるため,速度型の構成式を用いて接線剛性マトリクスKを導き,反復解析を行うことになる。負荷経路依存性のある問題において,ある有限な負荷増分Fkに対し,増分形の平衡方程式 を満たすような変位増分Ukを求め,Ui=Ukとして時刻tiでの変位を近似的に評価する。式(1)における参照配置を基準配置とすると,updated Lagrange型となる。 感度解析手法には直接微分法と随伴法がある。負荷経路依存問題に対して随伴法も適用できるが,現段階では計算効率が低いため,実用上は使われていない。直接微分法としては次のような方法がある。 ・半解析法(SDM:Semi-analytical Differentiation Method) 設計変数をbjとすると,第i増分における平衡方程式は と表わせる。設計変数bjの変分に起因する式(4)の変分をとると となる。上式左辺第2,3項目を次式で近似的に評価する。 感度は次のように近似される。 ここで応力積分は後退Euler型応力積分の一種であるradial return法を用いる。従ってこの応力積分と整合する接線剛性マトリクスKを用いることが効率的であり,かつ変位感度の精度も向上させる。変位感度から他の変数の感度が求められる。 直接微分法1(DDM1:Direct Differentiation Mmethod 1) この方法の特徴はEuler型応力積分を用いて増分内の剛性が一定とすることである。Updated Lagrange型の平衡方程式 を設計変数に対して微分することにより,変位増分の感度が求められる。 ・直接微分法2(DDM2:Direct Differentiation Method 2) この方法ではradial return応力積分法を用いる。式(5)左辺第2,3項目を直接微分することによって求め,式(8)から変位感度が得られる。 弾塑性問題における応力感度の履歴に特徴的なことは感度の不連続性が存在することである.このような不連続性は,応力・ひずみ関係において降伏点,硬化係数の折曲り点など勾配の不連続な点がある場合,感度評価点での応力がそれらを通過する際に生じるものであり,弾塑性問題における感度解析手法は,このような応力感度の不連続性を表現できるものでなければならない.SDMとDDM2にはこの不連続性を反映できる応力積分法が用いられるため,感度の不連続性を表現できるが,Euler型応力積分に基づくDDM1では増分内の剛性が一定とすることから,このよう感度の不連続性を正しく表現できない。一例として図1に示されるような問題では,降伏点で理論解とSDMおよびDDM2の感度は不連続となるが,DDM1の感度は連続となる。 図1 感度の不連続性を示す例 原子炉燃料棒支持スプリングはプレス加工により形成されるため板厚には多少の変動を生じる。本研究では板厚を設計変数としてSDMによって感度解析及び確率的評価を行った。図2は3つの断面の板厚に対する最大Mises応力の感度履歴である。負荷経路依存問題における感度も負荷経路に依存することが分かる。図2の断面i=30の場合について感度の不連続性が存在することが見られる.前述のDDM1によればこの問題においても連続な結果が得られた。 また感度解析結果を有限差分法で得られた結果と比較したところ良好な一致をみた。表1はその一例である。次に求められた板厚に対する感度と板厚分布の計測値を処理した統計量から1次近似2次モーメント法により燃料棒を挿入する際に生じる反力の3限界を評価した結果を図3に示す。板厚のばらつきにより反力の分散は無視できないことが図3により指摘される。計算時間についての比較は,SDMとDDM2の1設計変数に対する感度解析時間が有限要素解析時間の約5〜6%であるのに対してDDM1はほぼ同程度(98%)となった。 図表図2 板厚t4(4),t30(30),t52(52)に対する点Mでの相当応力の感度履歴 / 表1 差分法及びSDMによる最大相当応力感度の比較 / 図3 反力の3限界図2.大変形弾塑性接触問題の感度解析 接触力がなす仮想仕事を考慮に入れ,力学及び幾何学的制約条件から,接触問題の基本方程式を次の式で表わす。 拘束方法としてLagrange未定乗数法を用いる場合,Gkが独立変数であるから,式(10),(11)を設計変数に対して微分すると次のようになる。 Penalty法を用いる場合には,接触力が幾何学的貫通量の関数とすることから,式(12)は次式となる。 このRiは大変形弾塑性問題と同様にして得られる。Fpi,Fdi及びGiは半解析的に求める。 感度の精度を向上させるためにはconsistentな接触剛性を用いることが必要である。その影響を検討した例が図4に示されている。 最後に原子炉蒸気発生器伝熱管と管板の接触問題をとりあげ大変形弾塑性接触感度解析手法を用いて伝熱管外径など3つの設計変数に対する伝熱管内面応力の感度を解析した。有限要素法解析時間が4時間に対して1つの設計変数の感度解析時間は約7分であった。図5に示されるように感度解析結果と直接差分法で得られた結果は良い一致をみた。図6は一例として伝熱管の外径に対する内面の軸応力の感度を示したものである。他の設計変数に対する感度と比べると,外径に対する感度が2桁大きいことが分かった。このような実用問題を通じて本研究で開発した大変形弾塑性接触問題感度解析手法の有効性を検証した。 図表図表図4 感度解析に対する接触剛性の影響 / 図5 感度解析と有限差分法の結果の比較 / 図6 伝熱管外径に対する内面軸残留応力及び感度 |