本論文は「砥粒加工によるデバイスウェハのプラナリゼーションに関する研究」と題し、LSI製造工程中に生ずるデバイスウェハ表面の凹凸をなくすプラナリゼーション(平坦化)技術を、著者の発想による砥粒加工を適用して実現した研究成果をまとめたものである。従来方法の技術的課題を解決するために,新しい加工原理・方法の提案、ならびに工具・加工装置の開発により、新しいプラナリゼーションプロセスの確立を目指している。 従来のデバイスウェハのプラナリゼーション技術では、LSIデバイス工程中に行っているコーティング、CVD、エッチング、アニールなどの化学的・物理的方法を単独もしくは組み合わせることにより対処してきたが、原理的に完全な平坦化が実現できず、単なるスムージングに過ぎなかったと言える。近年米国IBM社からCMPと称するポリシングによるプラナリゼーション法が報告されて以来、国内でもポリシング技術が有力な技術的候補と期待され検討が始まっている。しかし、従来のポリシング法では加工の基準面、ウェハの保持方式、加工面内の圧力・速度の不均一、パッドの変形・目づまり、不明確な加工メカニズムなどに問題点が指摘されていた。このような問題点を解決できれば、ダメージレスかつ高精度に加工することが可能となり、次世代LSIのための多層配線および3次元構造化が可能になると期待できる。 本研究はこうした世界中の半導体メーカがしのぎを削って開発競争を行っている状況の中にあって、加工の媒体として超微細シリカ粒子に着目し、遊離砥粒法のみならず、固定砥粒法としても新らたな加工方式を提案・開発することにより超微細砥粒加工によるデバイスウェハのトータル・プラナリゼーション技術の確立を目指したものである。 本論文は、第1章緒論および第8章総括を含め、全8章より成り立っている。第1章は超LSIを製造するためにプラナリゼーション技術の定義と重要性を明らかにするとともに、既存手法の問題点に触れ、本研究の動機と目的・意義について言及している。 第2章は固定砥粒研削法によるプラナリゼーション加工を実現するための新工具開発に取組み、通常の粉末成形法では製作できないとされていた粒径が数10nm以下という極めて微細なシリカ粒子を用いた砥石製作の基本仕様から試作品の完成に至るまでの経緯を述べている。試作した超微粒シリカ砥石は、バインダの量と成形圧力を調整することにより広い範囲で所望の物理特性を選択でき、従来の如何なる砥石を適用しても到達できなかったポリシング水準の平滑鏡面をシリコンウェハに対して実現している。ここで開発された技術はシリカ以外の微粒子の成形法および砥石製作法への波及効果まで含めると、将来実用的に価値の高い成果と言える。 第3章は第2章で試作した超微粒シリカ砥石を用いたシリコンウェハの平坦加工法を提案し、その2大要求項目であるダメージレス鏡面化とウェハ厚さの均一化を試みている。シリコンに対する超微粒シリカ砥石の界面固相反応によりメカノケミカル除去作用に基づいた鏡面研削機構を明らかにし、とくに乾式法の優れた効果を実証している。超精密インフィード研削盤において、最適な乾式研削条件とウェハマウント法を見い出すことにより、1m程度までウェハの厚さを均一化することができている。この結果より固定砥粒による有力なシリコンウェハの平坦加工法の誕生として期待される。 第4章はウェハ上の薄膜およびデバイスパターンをプラナリゼーションできる均一表面除去ポリシング装置を開発し、プラナリティ向上の主要課題である装置の基本構成を検討している。Water backによる均等加圧機構、偏心小円運動による均一相対速度機構により、ウェハ上の酸化膜を均一に除去し、薄膜均一化および超薄膜化を実現している。これは、次世代ウェハとして注目されているSOI(Silicon On Insulator)ウェハの加工まで、プラナリゼーションの適用範囲を拡大できる加工システムとして期待される。 第5章は本論文にて最も重要な課題であるデバイスウェハのプラナリゼーション法を試みている。今日に至るまで完全なプラナリゼーションが実現できなかった主要な理由として、デバイス表面パターンの大小疎密な形状に比例して弾性変形するパッドが、表面除去速度の不均一性を引き起こしている点を明確にしている。この問題点を解決するため、"Indentation"理論によるモデル解析に基づき、溝付き硬質パッドを開発・適用し、3%以下のグローバル・プラナリティが実現できることを実証した。これは次世代デバイスの完全なプラナリゼーションのための要求条件を十分満たしているため、半導体デバイスメーカの注目を集める結果となっている。 第6章は、連続生産におけるプラナリゼーションに要求される溝付き硬質パッドの加工特性評価に言及している。溝付き硬質パッドを適用した加工における1つのサイクルは、初期凹凸表面の凸部の選択的除去と、中期の平坦薄膜の除去および後期の異種材料の同時除去に分かれ、各段階でのプラナリゼーション速度の均一性が高いことが実証され、時間制御による加工終点検出法が提案されている。また試作された溝付きパッドにおいては、従来のパッドが有する問題点であるパッドの目づまり、劣化による加工速度の低下、精度の悪化を解決できることを示している。 第7章は第2章で試作した超微粒シリカ砥石を砥石ラッピング法に適用し、デバイスウェハの新たなプラナリゼーション法の可能性を試みている。本方式により、加工面品位が若干悪いものの、溝付き硬質パッドを用いたポリシング水準のプラナリゼーション特性が得られ、新たな高能率プラナリゼーション技術としての可能性を示している。 第8章は本論文の各章で示した研究結果を総括し、デバイスウェハのプラナリゼーション技術の展望について論じている。 以上のように本研究は、ギガ時代の半導体産業の基盤技術としてプラナリゼーション技術が必要不可欠となっている現状を受け、多くの技術的制約および限界を抱えている従来のリフロー/エッチバックなどの化学的な方法に対して、初めて総合的に超微細砥粒加工によりデバイスウェハのより完全なプラナリゼーションを実現したものである。超微粒シリカ砥石の開発、均一表面除去ポリシング装置、溝付き硬質パッドの開発、およびこれらの適用を通じて、シリコンウェハの平坦加工を始め、酸化膜の薄膜加工、最終的にはデバイスのプラナリゼーションなど従来困難視されていたトータル・プラナリゼーションを実現できる方法を提案し実証したものである。 以上要するに、本研究は、次世代の半導体産業の発展に大きく寄与するものであり、精密機械工学と精密機械工業に貢献するところは極めて大きい。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |