学位論文要旨



No 110809
著者(漢字) ファン ポール C.
著者(英字)
著者(カナ) ファン ポール C.
標題(和) 放送分配ルーチング
標題(洋) Broadcast Distribution Routing
報告番号 110809
報告番号 甲10809
学位授与日 1994.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3264号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 田中,良明
 東京大学 教授 齊藤,忠夫
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 浅野,正一郎
 東京大学 教授 安達,淳
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨

 本論文は「放送分配ルーチング」と題し、一つの情報源から複数の視聴者へ一方向に情報を送る放送分配通信を実用化する上で解決すべき技術課題の中で、特に問題が大きいとされる経路選択の問題について研究したものである。放送形の新しい近似トラヒックモデルとB-ISDNの基本的ネットワークモデルを使用して、準静的と動的ヒューリスティックルーチングアルゴリズムの構成について論じ、6章から構成されている。

 第1章は「序論」であり、研究の背景、目的、範囲、および本論文の内容が要約されている

 第2章は「放送分配ルーチング問題」と題し、この論文の背景として、従来の経路選択アルゴリズムと将来導入が予定されている放送形のサービスについて説明している。次に、この論文のテーマである放送分配ルーチング問題を形式化し、放送分配ルーチングの重要な論点を説明し、放送分配ルーチングの効率の評価方法を提案している。最後に、放送分配ルーチングの仮定として、トラヒックとネットワーク情報が放送分配ルーチングの効率を大きく左右する点を説明している。

 第3章は「放送分配ルーチングアルゴリズムの分類」と題し、従来提案されている放送形ルーチングアルゴリズムを分類し、分類方法と分類点を提案している。放送分配ルーチングアルゴリズムは種類が多いので、分類しないと明確な評価ができない。この後の章では、ここで分類した代表的なアルゴリズムについて述べている。次に、放送分配ルーチングの最適な解について説明する。最後に、静的と準静的と動的な分類についてそれぞれの放送分配ルーチングアルゴリズムを説明している。

 第4章は「予測トラヒックに基づく準静的放送分配ルーチング」と題し、ネットワークのトラヒックを予測し、この情報をアルゴリズムに使用する準静的な放送分配ルーチングアルゴリズムを提案している。まず、トラヒック情報の収集方法と予測方法を検討している。次に、これを用いた準静的放送分配ルーチングアルゴリズムを提案している。最後に、このアルゴリズムをシミュレーションにより評価し、その結果と他の準静的放送分配ルーチングアルゴリズムを比較している。

 第5章は「予測トラヒックに基づく動的放送分配ルーチング」と題し、第4章で提案したトラヒック予測を動的に使用して、動的な放送分配ルーチングアルゴリズムを提案している。まず、動的なトラヒックモデルを検討し、次に、このモデルを使用して、動的放送分配ルーチングのシミュレーションを行っている。最後に、このシミュレーション結果と他の動的放送分配ルーチングアルゴリズムを比較している。

 第6章は「結論」であり、本論文の研究成果を要約するとともに、今後の検討課題についても述べている。

審査要旨

 本論文は,"Broadcast Distribution Routing(放送分配ルーチング)"と題し,一つの情報源から複数の加入者へ同じ情報を送る放送形通信のルーチング(経路選択)について検討したものである.本論文は,中でも,視聴者の追加・削除が任意の時点で起こる動的放送分配のルーチングを主眼としており,英文で全5章からなる.

 第1章は「序論」であり,研究の背景・目的として,次世代通信網B-ISDNにおいては,放送分配,ニアビデオオンデマンド,ゲームソフト分配などの放送形の通信が多くなると予想され,そのルーチングは従来の一対一通信とは大きく異なり,新たな検討が必要であることを述べている.

 第2章は「放送分配ルーチング問題」と題し,通信網におけるさまざまな接続形態を一対一通信,多対多通信,静的放送分配,動的放送分配の四つに分類し,ルーチングの観点からのそれぞれの特徴を述べている.本章では,更に,放送分配ルーチングアルゴリズムの評価を行う上で必要となる尺度について検討し,一つの放送分配経路全体のリンク使用コストの総和を本論文における評価尺度としている.なお,リンク使用コストには,伝送コストのほかに,そのリンクに関係する交換コストも含むものとしている.

 第3章は「放送分配ルーチングアルゴリズムの分類」と題し,前章で分類した静的放送分配と動的放送分配について,従来提案されているルーチングアルゴリズムを更に細かく分類し,それぞれについて概略を述べている.本論文の主眼である動的放送分配のルーチングアルゴリズムとしては,既にグリーディアルゴリズムとその改良形である重み付きグリーディアルゴリズムが提案されている.本章では,重み付きグリーディアルゴリズムの特性について解析し,従来の予想に反し,特性が良くないこと,及びその理由を明らかにしている.

 第4章は「予測トラヒックに基づく放送分配ルーチングアルゴリズム」と題し,将来インテリジェントネットワークにより容易に得られると思われるトラヒック情報を利用した放送分配ルーチングアルゴリズムを提案している.本章では,ルーチングアルゴリズムの提案に先立って,まず,動的放送分配において不適切なルーチングを行った結果生じる遠回り等の非効率な経路について検討している.その結果,それらはループ形,冗長形,非予測形の三つのパターンに分けることができ,ルーチングアルゴリズムの開発に当たっては,それら三つに注意すれば良いことを示している.

 本章では,次に,予測トラヒックに基づく準動的放送分配ルーチングアルゴリズムを提案している.一般の放送やニアビデオオンデマンドなどでは,前週や前日の同時刻の同番組の視聴トラヒックから,そのときの視聴トラヒックの予測がつく.そこで,その予測を用いて,ルーチングの木を定め,その番組の間は,その木に従ってルーチングを行うという方法が本アルゴリズムである.このアルゴリズムを用いれば,ループ形,冗長形,非予測形のいずれの非効率経路も生じることはありえない.本論文では,シミュレーションにより本アルゴリズムの特性を調べ,実際の視聴トラヒックが予測に近かった場合は勿論のこと,予測とある程度異なった場合でも,従来の重み付きグリーディアルゴリズムよりはかなり良い特性であることを示している.

 本章では,更に,予測トラヒックに基づく動的放送分配ルーチングアルゴリズムを提案している.本アルゴリズムは,時々刻々のトラヒックデータにより予測トラヒックを修正し,それに基づいて動的にルーチングする方法である.本アルゴリズムも従来の重み付きグリーディアルゴリズムと比べてかなり良い特性を示しているが,ループ形,冗長形,非予測形のいずれの非効率経路も生じる可能性があるので,放送形態により,準動的アルゴリズムと動的アルゴリズムを使い分けるのが良いとしている.

 第5章は「結論」であり,本論文の研究成果を要約すると共に,今後の検討課題について述べている.

 以上これを要するに,本論文は,放送分配ルーチングの体系化を行い,今後重要と考えられる動的放送分配で用いるための,予測トラヒックに基づく準動的放送分配ルーチングアルゴリズム及び動的放送分配ルーチングアルゴリズムの提案を行ったものであって,電気通信工学上貢献するところが少なくない.

 よって著者は東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻における博士の学位論文審査に合格したものと認める.

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