学位論文要旨



No 110810
著者(漢字) 鄭,文涛
著者(英字)
著者(カナ) テイ,ブントウ
標題(和) 不変特徴抽出に基づく曲面の3角形パッチ表現に関する研究
標題(洋)
報告番号 110810
報告番号 甲10810
学位授与日 1994.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3265号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 原島,博
 東京大学 教授 高木,幹雄
 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 石塚,満
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨 背景と目的

 マルチメディア通信の進展にともない、3次元オブジェクトを含む多様な画像メディアの入力・変換・伝送・蓄積・加工・表示を柔軟に行なえる、臨場感のある3次元情報環境が求められるようになりつつある。このような高度で柔軟な3次元情報環境の実現に向けて、多くの基盤技術の整備が要求されている。中でも3次元オブジェクトの形状情報の記述・表現がもっとも重要な技術課題の一つである。

 3次元形状の記述・表現法の研究は、コンピュータ・グラフィクス(CG)、コンピュータ・ビジョン(CV)の分野において中心的な課題の一つとなっており、既に数多くのアプローチが提案されている。CGの形状表現は高精細な表示を目的とした既知形状の表現であるが、CVの形状表現は主に認識を目的として実画像から抽出した未知形状の表現であるため、両分野の表現形式が異なっている。

 そこで、CG表現とCV表現の統合を目指し、実画像から抽出された疎らで不均一なCV形状表現を、直接CGの描画機能を用いて再生表示し可視化する手法として3角形パッチ表現法が注目されている。3角形パッチ表現法は、任意の形状を表現できるばかりでなく、編集、可視化などの操作が容易かつ効率的に行なえるという特徴もある。規則格子点による3角形パッチ、規則格子点を移動させる適応3角形パッチ、繰り返し分割による適応3角形パッチなどが提案されている。

 しかしながら、従来の適応3角形パッチ生成法を考察すると、次のような問題点が存在することがわかる。

 (1)3角形パッチの格子点が物体の頂点や凹凸点に一致することが保証されない。

 (2)3角形パッチの辺は実物体のエッジとは関係がない。このため、この3角形パッチ表現に基づいて曲面を再構成すると、本来の不連続性が平滑化されたり、不自然なエッジが生じたりすることになる。

 (3)適応3角形パッチを生成するのに、多大な計算時間を要する。

 (4)得られた3角形パッチを保存するため、格子点情報、連結関係情報とも記憶しなければならないため、膨大な記憶容量を要する。

 本論文は、以上のような点を鑑み、曲面の3角形パッチ表現法に着目し、従来の生成方法の問題点を解決するために、新たに3角形パッチ表現法を二つ提案する。一つは特徴点抽出に基づく3角形パッチ表現法で、もう一つはエッジ抽出に基づく3角形パッチ表現法である。

特徴点抽出に基づく3角形パッチ表現法

 これは、3次元形状における重要な特徴点に着目し、不変特徴量に基づいて特徴点を抽出、3角形パッチを生成して、形状表現を行なう手法である。

 すなわち、まず3次元不変特徴量であるGaussの曲率と平均曲率を基に、曲面形状の滑らかさの評価量-平均二乗曲率を定義する。平均二乗曲率はGaussの曲率と平均曲率に比べ、ノイズの影響に強い、曲面の滑らかさを正確に反映できる特性がある。続いて、平均二乗曲率を用いて特徴点抽出を行なう。特徴点抽出は、エッジや凹凸点など形状の変化が激しく、形状において重要な領域では、密に特徴点を抽出し、一方、平面や形状が滑らかに変化するところでは、疎らに特徴点を抽出する。

 次に、不規則に抽出された特徴点を用いて、3角形パッチを生成する。これは、平面Thiessen 3角形パッチの生成、境界での3角形パッチの生成、3角形パッチの最適化という三つのステップによって行なわれる。

 均一なメッシュと比べると、本手法で生成された適応3角形パッチは細部の形状を保持したままデータ量を削減することができ、形状の操作の効率化と表示の高速化が可能となる。また、従来の格子点を移動する生成法や3角形パッチを繰り返して分割する生成法と比べれば、計算時間が大幅に短縮されている。本表現手法もう一つの長所としては、生成された適応3角形パッチは節点情報だけで一意に再現されるため、節点間の連結情報を保存しなくても、形状の再構成、表示、可視化を行なう際、自動的に3角形パッチを生成することができる。

 以上に述べた適応3角形パッチの有効性、実用性は、実際のレンジデータを用いて構成された3角形パッチモデルに基づく曲面の再構成、形状表現の特性評価を行なうことで確認された。データを約0.3〜2%に削減しても、表現誤差RMSE(Root Mean Square Error)が原データのRMSの約1%という、かなり良い近似精度が得られた。

 本手法によって生成された3角形パッチの例を図1に示す。

エッジ抽出に基づく3角形パッチ表現法

 これは、3次元形状のエッジという構造特徴に着目し、エッジを取り込んだ3角形パッチを生成する手法である。

 生成の手順はの通りである。

 (1)入力画像から曲率によってエッジ強度を計算し、大局的閾値処理と局所的閾値処理を組み合わせた閾値処理を行ない、エッジを検出する。

 (2)エッジを細線化し、幅1の線を得る。

 (3)エッジに現れている穴やエッジの周辺にある刺状の突出を除去する処理を行なう。

 (4)エッジとして得られた線図形を、画素の連結近傍数を用いて交差点や分岐点の含まれていない単純な曲線に分割する。

 (5)各曲線に対して繰り返し端点当てはめ方法または最大曲率点に基づく方法を用いて折線近似を行なう。

 (6)得られた線分が3角形パッチの辺となるよう、3角形パッチを生成する。

 本手法は生成された3角形パッチの辺が物体の固有のエッジと一致するという特徴を有する。このような3角形パッチを用いて、データ圧縮、復元、可視化などを行なうと、本来のエッジが平滑化されたり、不自然なエッジが生じたりすることを回避でき、より良い結果を得ることが可能である。また、3角形パッチにエッジは明確に含まれているので、特徴照合など高度な処理にも利用できる。

 本手法によって生成された3角形パッチの例を図2に示す。

図表図1:特徴点抽出に基づく方法で生成された3角形パッチ / 図2:エッジ抽出に基づく方法で生成された3角形パッチ。太線はエッジを表す

 本論文で提案したこの二つの3角形パッチ生成法は距離画像に限らず、濃淡、カラー画像等の一般画像に適用でき、画像の画素値、その1次微分、2次微分などの量に応じた、適応的画像圧縮および復元に適用できる。また、動画像、多眼画像から抽出した構造情報の圧縮および復元にも適用できる。

 本論文はまた、曲面の平行移動・回転に不変な適応平滑化について論じた。不変平滑化問題を数学的に定式化し、それが満たすべき条件を導き出した。この条件から、従来の適応平滑化は不変平滑化でないことが明らかになった。平行移動・回転に不変な適応平滑化は、異なる視点から観測された物体の特徴照合・認識を目的としている不変特徴抽出にとって不可欠であり、本論文で得られた理論的考察結果は重要な意味を持つものと思われる。

審査要旨

 本論文は「不変特徴抽出に基づく曲面の3角形パッチ表現に関する研究」と題し、将来における3次元情報環境の実現へ向けて、その基盤技術である物体3次元形状を記述・表現する手法について論じたものであって、7章からなる。

 第1章は「序章」であって、本研究の背景と目的を明らかにするとともに、本論文の構成を示している。

 第2章は「3次元形状の記述・表現法」と題し、物体の3次元形状の記述・表現法に関する従来の研究のまとめをおこなっている。すなわち、コンピュータビジョン(CV)やコンピュータグラフィックス(CG)における代表的な3次元形状記述・表現法の概要、特徴を紹介し、両分野の形状表現の相違点を分析している。また、CV表現とCG表現の統合手法として用いられている3角形パッチ表現法について述べ、従来の3角形パッチ生成法はパッチの格子点や辺が形状本来の特徴と一致しない等の問題点があることを指摘している。

 第3章は「曲面の3次元不変特徴量」と題し、本研究の理論的基礎となる曲面の微分幾何学的性質について述べている、すなわち、まず曲面の第一基本形式と第二基本形式、ガウス曲率と平均曲率などの概念を説明し、それらの持つ性質について論じている。次に離散データにおける曲率計算式を導出し、計算に必要となる1次及び2次偏微分の値を求める方法を述べている。また、これを物体のレンジ画像に適用して有効性を示している。

 第4章は「曲面の3次元不変適応平滑化」と題し、曲面の平行移動・回転に不変な適応平滑化問題を論じている。すなわち、まず不変平滑化問題を数学的に定式化し、それが満たすべき条件を導びくことにより、従来提案されている適応平滑化が不変平滑化でないことを示している。次に、この数学的定式化に基づいて具体的に不変適応平滑化フィルタの設計問題を論じ、レンジ画像に適用した結果を示している。

 第5章は「特徴点抽出に基づく曲面の3角形パッチ表現」と題し、3次元形状の記述において重要な役割を果たす特徴点に注目して、その特徴点を不変特徴量に基づいて抽出し、これを格子点として3角形パッチを構成する手法を提案している。すなわち、3次元不変特徴量に基づいて曲面の平坦さに関する評価量を定義し、この評価量を用いて特徴点抽出をおこなう。これにより形状が滑らかに変化するところでは特徴点が疎らになり、一方形状が激しく変化するところでは特徴点が密に抽出されて形状が忠実に表現される。この特徴点を用いた3角形パッチモデル表現法を、再構成された曲面の誤差によって評価して従来方法との比較をおこない、提案手法の有効性と実用性を確認している。

 第6章は「エッジ抽出に基づく曲面の3角形パッチ表現」と題し、3次元形状のエッジという構造特徴に着目し、エッジ情報を反映した3角形パッチ表現法を提案している。すなわち、まず入力画像からエッジを検出した後、エッジ画像に対して細線化、刺と穴の除去などの処理をおこなう。次に、エッジとして抽出された曲線を分割して線分で近似して、その線分に基づいて3角形パッチを生成する。これにより、生成された3角形パッチの辺が物体に固有の辺と一致し、本来のエッジが平滑化されたり、不自然なエッジが生ずるという問題が回避できる。

 第7章は「結論」であって、本研究の成果をまとめ、今後の課題について述べている。

 以上これを要するに本論文は、高度で柔軟な3次元情報環境の実現へ向けて、物体の3次元形状情報を効率的に記述・表現することを目的として、形状本来の不変特徴に基づく曲面の3角形パッチ表現法を提案してその有効性を明らかにしたもので、情報通信工学ならびに画像工学に貢献するところが少なくない。

 よって著者は東京大学大学院工学系研究科における博士の学位論文審査に合格したものと認める。

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