近年、特殊な機能を有する光ファイバの設計、モデリング、および製造に関する研究が盛んに行われている。本論文は、単一モード単一偏波光ファイバとその中での偏波結合、光誘起ファイバグレーティングとそのファイバ素子ならびにファイバセンサへの応用、エルビウムドープファイバレーザを中心とした、機能性光ファイバ及びその応用について研究したものである。本論文は全7章からなり、多くの提案と解析、モデリング、理論的な設計および実験結果が記述されている。 第1章では本研究の背景と本論文の目的及び構成が述べられている。第2章では、単一モード単一偏波光ファイバにおける偏波結合が詳細に考察されている。単一モード単一偏波光ファイバの振幅結合モード方程式とパワー結合モード方程式の双方が導出されている。単一モード単一偏波光ファイバにおける、広帯域の光源の場合(干渉の影響を考慮して)のパワー結合モード方程式も導出されている。それには、実際の光源を考慮して、ガウス型及びローレンツ型のスペクトル分布を有する2種類の光源が仮定されている。定常状態において、偏波クロストークと導波モードの結合損失は、ファイバの複屈折だけでなく漏洩モードの損失や光源のスペクトル幅にも依存して決定される。偏波クロストークの変動とファイバの長さ方向に沿った導波モードの結合損失も考察された。この両者は、定常状態では光パワーの入射条件にかかわりなく一定の値となる。 第3章では、2モードファイバのLP01モードとP02モード間の結合係数と結合モード方程式が導出されている。光誘起屈折率回折格子を用いた周期的なモード間の結合が考察されている。ファイバ光学的なモード変換器のモード変換スペクトラムが計算された。その結果は、(1)使用する波長をLP02モードの遮断波長近くに設定することにより、狭帯域のファイバ光学的なモード変換器が可能である、(2)回折格子の周期を適切に選ぶことにより、バンドパス特性が双峰の、あるいは広帯域のモード変換器が得られる。これらの特性を有するモード変換器は光フィルタとして使用可能であり、例えば、レーザ増幅器における自然放射光雑音の除去フィルタなどの応用が考えられる。 加えて、LP01モードと、反射型ファイバ回折格子によって誘起される逆向きに伝搬するLP02モードとの結合を用いた反射型モード変換器についても解析した。この反射型モード変換器のスペクトラムは、透過型モード変換器のそれと比べて極めて狭くすることができる。 最後に、光誘起のファイバ屈折率回折格子とファブリペロー鏡を用いた周期的な結合によるLP01とLP02モードとの多数回の変換についても研究した。モード変換スペクトラムにおけるピークの特性も解析された。ファブリペロー共振器はファイバ回折格子におけるモード結合の実効長を増加させるだけでなく、波長選択性も与える。 第4章では、新しく複屈折ファイバ回折格子で構成されたファイバリング共振器が提案されている。ファイバループ全体に書き込まれた光誘起の複屈折回折格子を有するファイバリング共振器の偏波出力が解析された。光誘起の複屈折回折格子によりファイバループ全体において2つの偏波モード間のパワー交換が行われるため、ファイバリング共振器の偏波出力がより安定する。 また、ファイバループ全体に書き込まれた光誘起の複屈折回折格子を有する偏波維持ファイバリング共振器により形成される、共振型光ファイバジャイロの偏波変動誘起バイアスについても評価した。ジャイロ出力におけるバイアスに対する、入力の偏波状態、共振器のフィネス、光誘起による誘電率テンソルの異方的な変化などのパラメータの影響が評価される。航空機の航行に必要な特性か得られることが示された。 第5章では、ファイバ光学的なモード変換器の非線形特性が研究されている。光カー効果によって生じた非線形相互作用を考慮した光誘起ファイバ回折格子におけるLP01とLP02モードに対する結合モード方程式が導出された。入力ピークパワーを変えることによりモード変換スペクトラムが可変であることが示された。光誘起屈折率変化、回折格子の長さ、およびファイバの各パラメータによるモード変換特性の依存性が解析された。最後に、非線形ファイバ光学モード変換器を用いた受動型モードロックファイバレーザが提案されている。 さらに、光カー効果によって生じた非線形相互作用を考慮した、LP01モードと、反射型光誘起ファイバ回折格子における逆向きに伝搬するLP02モードとの結合モード方程式を導出した。このデバイスの透過と反射の双方において、入出力特性は光双安定性を示した。スイッチングパワーと双安定性のヒステリシスループの双方について考察した。最後に、非線形反射型LP01←→LP02モード変換器と非線形ファイバブラッグ回折格子型反射器(LP01および逆向きに伝搬するLP01モード)との比較が示され、前者は後者に比べて極めて小さなスイッチングパワーであることが示された。 第6章では、偏波維持エルビウムドープ光ファイバなどの特殊な素子を用いることなく、偏波変動による多モード発振時の縦モード不安定性を抑圧したエルビウムドープ光ファイバリングレーザの提案と実験的な研究を行っている。提案したレーザの共振器は、捻られた通常の単一モードエルビウム光ファイバ、通常の単一モード光ファイバをコイル状にして作った/2素子、および光アイソレータからなる。捻り光ファイバの固有モードである左回りおよび右回り円偏波は/2素子により入れ替えられることになり、共振器の直交した2つの固有偏波状態(ESOP)の共振間隔が一定に保たれ、縦モード不安定性が抑圧される。出力光を検波してスペクトラムを観察した結果、確かに直交した2つのESOPが周波数軸上で交互に多モード発振していることが確かめられた。 さらに、共振器中に光フィルタを挿入して、上記レーザの単一モード化も図った。帯域1nmの光フィルタの挿入により、モード跳躍が存在するものの、短時間的には単一モードで発振し、数kHzのスペクトラム線幅が観測されている。さらに、モード跳躍を抑圧するための手法についても考察している。 第7章では結論が述べられている。 |