内容要旨 | | 1.序論 最近の本格的な核融合出力を実現したJETやTFTRにおけるD-T実験に代表されるように,トカマクを中心とした核融合炉心プラズマ研究の歩みは著しいものである.一般にトカマクにおけるプラズマの輸送シミュレーション研究は,実験で観測されるプラズマの振舞いについて理解を得ると同時に,ITER(国際熱核融合実験炉)のように提案・計画されている装置の設計の指針としても広く使用されている.そこでは,核融合炉のサイズ決定及び工学的設計を進めるにあたって,自己点火条件成立の可否を左右する,支配的な物理因子を抽出し,それに対する設計裕度を定量的に評価することが重要である.本論文では,核融合炉心プラズマの設計に供しうる,輸送シミュレーションコードを開発し,ITERやIDLT(Inductively Operated Day-Long Pulsed Tokamak;超長パルストカマク炉)で代表されるトカマク型核融合炉の設計に適用した結果について議論する.また加熱・閉じ込め特性の改善を目指した磁気圧縮プラズマのシミュレーションコードも開発し,REPUTE-1磁気圧縮実験への適用も試みた. 2.プラズマ輸送シミュレーションコードの概要 プラズマ輸送係数は,温度・密度等の物理量のみならず,磁気面形状等の幾何形状にも依存する.従って2次元MHD平衡コードと1次元輸送コードを連成させる必要があり,このようなコードを1.5次元輸送コードと呼ぶ.ここでは,核融合炉心プラズマ設計に必要とされる,多岐にわたる物理的・工学的要因を組み込んだ1.5次元トカマク輸送シミュレーションコード(TTSC;Tokamak Transport Simualtion Code)を開発した.本コードでは,Bohm型モデル,クリティカル電子温度勾配モデル(Rebut-Lallia-Watkinsモデル),ドリフト波乱流モデル,マルチモードモデル,輸送MHDモデル等の多種の輸送モデルが使用できよう整備したとともに,以下に挙げる特徴を組み込んだ.ガスパフによるプラズマ燃料の補給とリサイクリングや排気による燃焼灰の排気の効果,鋸歯状波不安定性とバルーニング不安定性の効果を考慮できること,ヘリウムの生成,輸送,排気のモデルは自己無撞着であること,さらに,燃料のDT比フィードバックコントロールにより燃焼コントロールができ,種々の追加熱入力が模擬できることである. まず最初に,今回開発したTTSCが使用している輸送コードの妥当性の確認を目的として,ITER EDA(工学設計段階)のプラズマ特性のシミュレーションを行なった.シミュレーションの輸送モデルとしてはJETで提唱されたBohm型モデルとRLWモデルの2ケースである.この結果より得られたパラメータをRLWモデルによるPRETORシミュレーション結果[1]とあわせて表1に示す.これより,両者がよく一致していることがわかる. 表1.PRETOR及びTTSCコードによるITER-EDAプラズマのシミュレーション結果の比較3.1.5次元輸送コードによる超長パルス型トカマク核融合炉(IDLT炉)の炉心プラズマ設計 トカマク型核融合炉は,非誘導電流駆動によりプラズマ電流を維持した定常炉と,誘導電流によりプラズマ電流を維持するパルス炉に大別される.定常炉の方が商用炉として望ましいが,電流駆動効率が低く大きな循環電力を必要とする点が問題とされている.一方,パルス炉の場合は,電力補償のためのエネルギー貯蔵システムの導入や,熱的・機械的疲労が問題とされる.これらの問題を解決すべく,一回の燃焼時間が半日程度とかなり長いトカマク型パルス炉(IDLT炉)[2]が提案された. ITER等の装置と比較して,IDLT炉ではパルス長を延ばすため,アスペクト比が大きなプラズマ(A=5.4)となっている.しかも休止時間を短くするため,比較的短い時間でのプラズマ立ち上げ・立ち下げが要求される.このような制約及び要請があるIDLT炉の閉じ込め特性を調べた結果,以下のような特徴的な結論が得られた. (1)ヘリウム蓄積がプラズマ性能に大きく影響する事がわかった.実験的に提唱されているヘリウム輸送特性(X/D〜3,inward pinch peaking factor CV〜1,recycling rate RHe<0.98)に対しては,充分自己点火条件を満足するプラズマが達成できる.ただしX/D>5,Cv>2.2,RHe>0.99となると,自己点火プラズマが達成できなくなる.代表的な例として,peaking factorとヘリウム蓄積量の関係を図1に示す.同図より,CV>2.2ではヘリウム蓄積量がfHe(0)>20%となり,自己点火しなくなっている様子がわかる. (2)壁からの不純物としてベリリウムを想定し,その許容量を評価した.ベリリウムが5%程度混入すると,CV〜1でも自己点火条件達成がかなり厳しくなる事がわかった. (3)鋸歯状波をモデル化したシミュレーションをおこなった.RHe=0.95の場合,鋸歯状波によるプラズマ中心からのヘリウム排出により,ヘリウム蓄積量を10%から9%程度まで減少させることができる.しかし,自己点火条件ぎりぎりのRHe=0.98の場合,鋸歯状波により自己点火条件そのものが崩壊してしまうことがわかった. (4)プラズマ立ち下げ時のシミュレーション結果を図2に示す.プラズマ密度は100秒以上の時定数でしか減衰しないが,核融合出力は約20秒で消滅してしまうので,加熱入力の不足によるプラズマ崩壊(density disruption)が懸念される.ここではプラズマ崩壊を回避するのに必要な加熱パワーをBorrassモデル[3]を用いて評価した.その結果,約20MWの追加熱で充分である事がわかった. 図表図1.Peaking factor Cvとヘリウム蓄積量との関係 / 図2.プラズマ立ち下げ時のシミュレーション結果.(<ne>limはBorrassの密度上限)4.REPUTE-1磁気圧縮実験のシミュレーション REPUTE-1装置では,プラズマの加熱・閉じ込め特性を改善すべく,トロイダル磁場の急峻な立ち上げ実験を行なっている[4].REPUTE-1プラズマはULQ放電であるため,RFP(逆転磁場ピンチ)放電の輸送係数が適用でき,シミュレーションした結果を図3に示す.t=4secの時刻において,トロイダル磁場をBt=0.1Tから0.3Tに,0.3msecの時定数で上昇させた.磁気圧縮によりプラズマ小半径が収縮し,密度が上昇していることがわかる.磁場立ち上げ時間を変えてシミュレーションした結果,断熱条件を満たす(E/comp>>1)場合は,断熱圧縮スケーリング則に近づくことが確認された.一方REPUTE-1プラズマでは,E/comp〜0.2であり,断熱的な温度・密度の上昇は期待できない.しかしそれでもシミュレーション結果から,その30%程度のプラズマパラメータ改善は期待できることがわかった. 図3.磁気圧縮シミュレーションにおける密度分布の時間変化5.結論 2次元平衡と1次元輸送を連成させた,いわゆる1.5次元輸送コードを開発し,超長パルス型トカマク核融合炉(IDLT炉)の核融合炉心プラズマシミュレーションを行なった.その結果,アスペクト比が比較的大きく,急速なプラズマ立ち上げ・立ち下げが要求されるIDLT炉でも,ITERプラズマと同程度のプラズマ設計基準で炉心プラズマの自己点火条件が成立することがわかった.特に,炉心プラズマ性能に大きな影響を与える因子として,ヘリウム蓄積効果が挙げられるが,自己点火に対して許容できるヘリウム蓄積量及びその物理的因子を定量的に評価した. 磁気圧縮プラズマをシミュレートすべく,1次元輸送コードを改良した.REPUTE-1のプラズマ磁気圧縮実験を模擬した結果,圧縮によるプラズマ小半径の収縮,及びプラズマ密度・温度の上昇が確認できた. 参考文献[1]Detail of the ITER Outline Design Report,ITER TAC-4-03,1993.[2]N.Inoue et al.,14th IAEA Conf.Wurzburg,,Vol.3,347.[3]K.Borrass,et al.,Nucl. Fusion 33(1993)63-76.[4]REPUTE annual report,1992 |
審査要旨 | | 本論文は,トカマクプラズマの輸送シミュレーションコードを独自こ開発し,超長パルストカマク炉に代表されるトカマク型核融合炉の炉心プラズマやREPUTE装置での磁気圧縮プラズマに適用した結果について記述したものである.論文の構成は5章より成る. 第1章では,本研究の背景であるトカマク型核融合炉の概念,及び炉心プラズマの成立条件について述べている. 第2章では、1次元プラズマ輸送と2次元MHD平衡を結合させた所謂1.5次元トカマク輸送コードの概要が述べられている.プラズマ輸送係数は,温度・密度等の物理量のみならず,磁気面形状等の幾何形状にも依存する.従って1次元輸送コードと2次元MHD平衡コードを連結したコードが必要である.ここでは,多岐にわたる物理的要因を組み込んだ1.5次元トカマク輸送シミュレーションコードを新しく開発し,Bohm型モデル,臨界電子温度勾配モデル(RLWモデル)等の多種の輸送モデルが使用できるよう整備している.この輸送コードには,プラズマ燃料の制御とヘリウム灰排気の効果,鋸歯状波及びバルーニング不安定性の影響,ブートストラップ電流等も自家無撞着的に取り込まれており,極めて利用価値が高い.コードの有効性を確認するために,まず最初に国際熱核融合炉ITERの炉心プラズマに関するシミュレーションを行い,その結果をITERグループのシミュレーション結果と比較している.シミュレーションの輸送モデルとしてはJETで提唱されたBohm型モデルとRLWモデルの2ケースを採用した.その結果,両者は比較的良く一致しており,本コードの妥当性が確認されたと言える. 第3章では,超長パルストカマク炉(IDLT炉)に,1.5次元輸送コードを適用し,IDLT炉の炉心プラズマ設計を行っている.誘導電流駆動だが一回の燃焼時間が半日程度とかなり長いIDLT炉ではパルス長を延ばすため,アスペクト比が大きなプラズマ(A=5.4)となっている.しかも休止時間を短くするため,比較的短い時間でのプラズマ立ち上げ・立ち下げが要求される.このような制約及び要請があるIDLT炉の閉じ込め特性を調べた結果,以下のような特徴的な結論が得られた. (1)ヘリウム蓄積がプラズマ性能に大きく影響する事が確認された.実験結果をもとに設計値として提唱されているヘリウム輸送特性(熱輸送係数と粒子輸送係数の比/D〜3,inward pinch parameter CV〜1,recycling rate RHe<0.98)に対しては,充分自己点火条件を満足するプラズマが達成できる.ただし/D>5,CV>2.2,RHe>0.99等の条件では,自己点火条件が達成できなくなる. (2)壁やダイバータ板からの不純物としてベリリウムを想定し,その許容量を評価した.ベリリウムが5%程度混入すると,自己点火条件の達成がかなり厳しくなる事がわかった. (3)鋸歯状波をモデル化したシミュレーションを行った.鋸歯状波によるプラズマ中心からのヘリウム排出により,ヘリウム蓄積量を10%から9%程度まで減少させることができる.しかし,自己点火条件ぎりぎりの場合には,鋸歯状波により自己点火条件そのものが破綻してしまうことがわかった. (4)プラズマ立ち下げ時のシミュレーション結果によると,プラズマ密度は100秒程度の時定数でしか減衰しないが,核融合出力は約20秒で消滅してしまうので,加熱入力の不足によるプラズマ崩壊(density disruption)が懸念される.ここではプラズマ崩壊を回避するのに必要な加熱パワーをBorrassモデルを用いて評価した結果,約20MWの追加熱で充分である事がわかった. 第4章では,REPUTE-1装置での磁気圧縮実験に対するシミュレーション結果について述べている.まず断熱条件を仮定した場合(E/comp>>1)のシミュレーションを行い,結果が断熱圧縮スケーリング則をもとにした理論値と一致することから,コードの妥当性を主張している.REPUTE-1装置では,極低qプラズマ(ULQプラズマ)のトロイダル磁場の急峻な立ち上げ実験を行なっている.ここではULQプラズマと同じ閉じ込め特性を示すRFPプラズマの輸送係数を用いて,シミュレーションを行った.実際のREPUTE-1プラズマでは,E/comp〜0.2となり,エネルギー閉じ込め時間Eが磁気圧縮時間compに比べて短いため,断熱的な温度・密度の上昇は期待できない.しかしながらこの場合でも,断熱圧縮時の値と比較して30%程度のプラズマ収縮が起こり.それに伴い温度及び密度の上昇が起こることが,本輸送コードを用いたシミュレーションにより予測されている.この結果は実験結果とよく一致している. 第5章では本論文の結論が述べられている. 以上を要するに,本論文では核融合炉心プラズマ設計に必要な輸送コードを独自に開発して,他コードによる結果との比較,理論計算結果との比較,実験結果との比較を行い,コードの妥当性を示した.その上で超長パルス運転IDLT炉の炉心プラズマ設計や,磁気圧縮プラズマの振る舞いのシミュレーションに応用し,プラズマ輸送が関わる重要な知見を導出した.これらの研究・開発結果は核融合工学に寄与するところが大きい. よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる. |