本論文は、低靭性の脆性材料であるセラミックスに対して、複合化によりこの問題を克服し、高信頼性を持つ材料を開発することを目的として、特にアルミナをモデル材料として、破壊機構、高靭化機構、力学的特性に及ぼす微細組織の影響について研究を行ったものである.セラミックス複合材料の特性は、マトリックスに存在する分散相の性質と微細構造の特性に大きく依存することに着目し、独自に微細構造を設計し、2次相の添加や生成による粒子分散複合材料の開発を行い、これを用いて分散相粒子の大きさや粒子形態(等軸状、棒状)が異なる種々の複合材料を製造し、力学的評価を行った. 本論文は9章からなっており、第1章では、本研究の理論的背景と位置付け、及び本論文の構成と内容とを述べている. 第2章では、アルミナに5vol%SiCを添加させた組成をモデル材料として用い、ナノ分散化過程のメカニズムや微細構造の制御におけるナノ粒子の役割と粒成長抑制の関係を調べた.微細構造の観察結果、微粒子のSiCはアルミナの粒内に存在し、より大きいSiCはアルミナの粒界に存在し、ナノSiC分散相の存在によってアルミナ粒子の粒成長制御に効果があることが分かった.粒内に取り込まれるSiCの臨界粒子径はマトリックス粒子の約10分1程度の大きさであった.その上、マトリックスとSiC粒子間に熱膨張係数の差に起因する残留熱応力が生じ、転位の発生とこれによるサブグレインバウンダリーの発生が見られた. 第3章では、第2章で述べた複合材料を用い、ナノ分散相の微細構造が強度、破壊靭性、及び破壊源を含めた破壊形態などの力学的特性に及ぼす影響を調べた.ナノSiC分散相の強化による強度、破壊靭性の向上が見られた.強度はマトリックス粒径に反比例した.また、微粒子SiCの存在によりき裂偏向が発生し、この結果破壊靭性が上昇した.今までのナノ複合材料では、特性向上に対するナノ粒子の役割が不十分であったが、本論文でのTEM観察により、き裂進展の際のナノSiC粒子によるき裂偏向が発見された. 第4章では、ナノ粒子とミクロ粒子が同時に複合分散されたハイブリッド複合材料を製造し、ハイブリッド構造の生成メカニズムの解明、微細構造の特性について述べている.ここでは、Y2O3を用いて等軸粒子のYAG相を生成させ、ミクロサイズのYAG相析出と共にナノ粒子SiCが分散された複合材料の製造を試みたものである.複合材料の場合には、焼結温度と時間が増加しても粒成長が制御され、均一な微細組織となることが分かった. 第5章では、第4章で述べた複合材料を用い、分散相が高靭化などの力学的特性に及ぼす影響を調べた.複合材料での強度の増加は、分散相の粒成長の制御効果によるアルミナマトリックスの平均粒径の減少と共に均一な微細構造に起因した.また、分散された微粒子SiCと硬いYAGの存在によりき裂偏向が多く観察され、破壊靭性が上昇した.TEMによる破壊過程の観察により主き裂の周辺でのマイクロクラックの発生とこの合体による破壊挙動の解明が出来た. 第6章では、第5章で述べたハイブリッド複合材料の概念を発展させるために、ZrO2添加剤を用い、より優れた特性を持つAl2O3/5vol%SiC/ZrO2ハイブリッド複合材料を製造し、力学的特性と高靭化に対するZrO2添加量の影響を調べたものである.ZrO2添加量の増加につれ、破壊靭性の増加と共に著しい強度の増加が見られた.この特性の改善は、微細構造の微細化とZrO2相での相変態にあった. 前章までは、等軸粒子が分散された複合材料に関して研究したが、第7章では、析出手法を用い、棒状粒子が分散された複合材料の製造と力学的特性に関して述べている.まず、アルミナにLa2O3を添加し、Al2O3とLa2O3との反応により細長の棒状形態を持つLaAl11O18単体の生成に成功した.これを用い、LaAl11O18相を分散させた複合材料を製造し、力学的特性に及ぼす影響を述べた.LaAl11O18相の増加につれ、棒状粒子のブリッジングにより、破壊靭性が向上した.これまでは針状のウィスカやファイバの添加による、ブリッジングの現象が観察されて来たが、本研究ではこのような析出棒状粒子でき裂のブリッジングの存在を明らかにした.また、棒状粒子生成による破壊靭性の向上の可能性を提示した. 第8章では、最近、材料の信頼性を確保する材料評価として活発な研究が進められているAE手法を、破壊靭性の実験に適用し、複合材料の高靭化機構の解明を試みた.析出させた分散相の粒子形態(等軸状、棒状)が力学的特性に大きな影響を及ぼすことから、前章で製造した複合材料を用いた.複合材料での高靭化の効果は2次相の粒子形態に依存し、等軸分散相の複合材料のより棒状複合材料の方が、効果的であった. 第9章では、以上述べた微細構造が異なる複合材料において強度、破壊靭性などの関係を整理し、総合的な結論を述べている. 以上、本研究は、アルミナ材料を用い、セラミックスの力学特性、破壊メカニズム、高靭化に及ぼす微細構造の影響を明らかにし、より優れた高信頼性セラミックス材料の開発可能性を示したもので、セラミックス材料学の発展に大きな寄与をしている.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |