本論文は、放射線防護・環境安全の視点から環境因子間の共同効果及びその生物学的メカニズムを解明するために、器官形成期のマウス胎仔を電離放射線と超音波で処置し、以下の結果を得ている。 1、放射線照射による子宮内死亡及び外表奇形のしきい線量 本研究の結果から、胎児死亡及び外表奇形の線量反応関係には、しきい線量が存在し、これらの影響が、放射線防護上、Deterministic Effect即ち確定的影響に区分されることは明らかである。 胎齢8日のICR Mouseの放射線照射による子宮内死亡のしきい線量は0.5Gyから1.0Gyの間にあり、外表奇形については、外脳症は0.5Gyから1.0Gyの間にあり、無眼球症は1.0Gyから1.5Gyの間にある。 2、超音波照射による子宮内死亡及び外表奇形のしきい線量 超音波照射によるしきい線量は、子宮内死亡については、1.0W/cm2から1.5W/cm2の間にあり、外表奇形については、外脳症は1.0W/cm2から1.5W/cm2の間にあり、無眼球症は1.5W/cm2以上にある。 3、放射線と超音波の共同効果 本研究では、放射線と超音波を共同照射した場合、外脳症と無眼球症の発生率は、それぞれを単独で照射した場合に比べ、相乗的に増加することを明らかにし、両者の作用が相乗作用であることを明らかにした。胎齢8日のneural fold、neural gloveの部分のHistological studyの結果からも、Pyknotic CellとMitotic Cellの発生頻度も、共同照射により相乗的に作用していることを確認した。 放射線と超音波が器官形成期の胎児の確定的影響に対して、相乗的に作用することをin vivo及びhistological studyの両面から、初めて明らかにした。特に放射線と超音波を同時に照射した場合よりも1時間の照射間隔を置いた方が、相乗効果が強く出ることも本研究で明らかとなった。 現在、放射線を初めとした種々の環境要因の基準は、それぞれが独立に作用する、即ち相加的に作用すると考えて設定されているが、本研究で明らかにしたように、2つの要因が相乗的に作用するとすれば、放射線の基準を含む、従来の環境基準等を、再検討する必要があることを示唆しており、放射線防護上、重要な結果であると考えられる。 4、外表奇形のMechanism 外表奇形は、放射線防護上確定的影響に分類される。in vivo studyでは、妊娠8日のマウスに対する放射線及び/或は超音波照射により、外脳症が誘発された。この時期はちょうどNeural FoldsのFusionする時期であり、外脳症の発生には神経管のNon-Fusionが関係していると考えられる。 放射線と超音波照射により、Neural FoldsとNeural PlatesにあるPyknotic Cellsの増加とMitotic Cellsの減少が認められ、これらに伴うCell Numbersの減少が関係していることが、Histological Studyの結果から明らかとなった。 確定的影響では、原基(Primordia)を構成するある一定の細胞が、変化を引き起こした場合、観察しうる病的状態が起きる。本研究の結果をもとに、このような観察しうる病的状態が認められる細胞数の変化を算定すると、放射線照射によりCells Numbersか20%-30%減少した場合に、外脳症が発生すると推定された。 以上、器官形成期の胎児に着目して、放射線と超音波を作用させ、両者の影響が相乗効果であることを、定量的に明らかにしたことは、本研究の特徴である。また、本論文は外表奇形に着目した場合に、Primordiaの部分に、20%〜30%の細胞死が引き起こされた時、観察しうる病的状態が認められるということを定量的に示した初めての研究であり、放射線防護・安全上重要な知見を提供しており、学位授与に値するものと考えられる。 |