学位論文要旨



No 110835
著者(漢字) ランゲン ヘンドリクス ハルマンヌス
著者(英字) Langen Henderikus Harmannus
著者(カナ) ランゲン ヘンドリクス ハルマンヌス
標題(和) マイクロ加工・組立に関する研究
標題(洋) A Study on Micromachining-Assembly
報告番号 110835
報告番号 甲10835
学位授与日 1994.11.10
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3278号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 増沢,隆久
 東京大学 教授 樋口,俊郎
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 助教授 川勝,英樹
内容要旨

 本論文は同一機上での高アスペクト比微細部品の加工方法と組立方法を提案し、その実用技術を開発することを目的とする。また、その開発した技術を半導体技術に取り入れることの可能性も明らかにする。

 微細部品を加工するマイクロツール及び相手部品と組立てる部品を同一機上で加工して、自動調整により基板上に一時待機させることができる。その基板及びそれと組み合わせたツールあるいは微細部品をピン・プレート・モジュールと呼ぶことするが、その自動調整により組み合わせたピン・プレート・モジュールは三つの目的に使用した。一つはツールの自動調整による他の微細部品の加工である。二つ目は加工した微細部品の他のツールによる加工である。三つ目はサブ・アセンブリーによる他の部品との組立てである。ピン・プレート・モジュールは色々な形に設計し加工することができる。本研究では微細製品を作成するために自動調整により組み合わせたピン・プレート・モジュール及びモジュラー法を開発した。

 加工プロセスは放電加工を基礎として、三つのプロセスを使用した。ワイヤ放電研削(以下、WEDGと呼ぶ。)により高アスペクト比微細部品を加工することができる。複雑形状の微細部品はWEDGとマイクロEDMの組み合わせにより加工することができるが、そのためにはまずWEDGにより加工したものを自動調整により基板に固定することが必要である。その後はマイクロEDMを使用することができる。最後にマイクロ逆EDM(以下、RMEDMと呼ぶ。)は、基板と組み合わせたツールを電極にして、その上で微細部品の下側に凹みを加工することができる。

 組立てる技術は、超音波振動を加えて、WEDGにより出来上った微細部品を基板に固定された相手部品に挿入して固定する。基板は超音波振動子の上に固定した。他の方法としては同様に超音波振動を加えて、基板と組み合わせた部品をRMEDMにより出来上った相手部品に挿入して固定した。

 放電加工を基礎とする加工技術のRCL回路を解明してから予備の実験を行なった。ここでは導電性材料をパラフィン系の油の中で加工した。約50mで形状が円筒形、三角形、四角形の断面を持つもの、及びテーパー形の電極をWEDGにより加工した。次はマイクロEDMにより厚さが0.2mmのSUS304とWCの基板に約65mの円形と三角形の穴を加工した。電極の送りをself adjust vibrojump feed modeにすると小さいコンデンサ(50pF)でも加工速度をかなり上げることができた。自動調整により組み合わせたピン・プレート・モジュールは簡単にどの振動子でも作成できた。RMEDMの実験結果を見るとピン・プレート・モジュールは十分な精度を持つことが分かった。RMEDMの予備実験では小さいコンデンサー(150pF)を使用して、WCの工作物に150mの凹みを加工した。加工速度はマイクロEDMより大きいが、凹みの内側の形も電極消耗率も悪い点が問題である。従って、組立てのためにはこの点を改良しなければならない。

 設計・製作した装置はコンピュータで制御する。メニューのソフトはC-1 anguageでプログラミングし、IO-ソフトはAssemblerでプログラミングした。実験装置に使用したセンサーの出力はメニューの中に含めた市販ソフトによりデータプロセシングすることが可能である。

 超音波振動を加えながら微細部品を相手部品に挿入し固定することについて結合状態を解明した。組立時の起電力を計って、データレコーダーに記録した。この出力を見ると温度が僅かしか上がらないことが分かった。通常の超音波溶接は摩擦力が大きく、酸化した表面が破壊して、温度がかなり上がる。酸化した表面が破壊すれば、その下の材料は直接金属間結合の状態になる。しかし、本手法ではこのような接合状態ではないかと考えられる。

 動的な弾性変形が一つのポイントであると考えられる。超音波振動を加えて挿入したことを"Method of Characteristics"により分解した。凹みの内径または穴の内径に発生するステップ入力圧力がどんな格子変形を起こすか、また、どのような過渡的な応力波が発生するかを計算した。半径方向の格子変形にはオーバーシュートがあり、その最大値は押し込む力と材料のヤング率によって異なることが分かった。

 次にピン・プレート・モジュールからピンを引き抜く力を計った。120mの穴に挿入したピン・プレートモジュールから引き抜く力を、色々な材料に対して測定した。結果は次表の通りである。

図表

 モジュラー法により微細部品を加工して、組立てる手法の概要を、マイクロイオンビームエミッタの作成方法を例に取って説明をする。WEDGにより加工したベースを基板と固定し二つの30mの穴加工した。エミッターのカバーをWEDGとRMEDMによる加工後ベースの上に組立てた。しかし、エミッターピンを作成するには至らなかった。

 引き抜き実験の結果によるとピン・プレート・モジュールは弱い結合状態も強い結合状態も選択できる。これを利用して、WEDGにより加工した微細部品は基板上に一時待機させることができる。基板上で加工が終わった後他の部品と組みたてを行なうこと及び全体を基板から引き抜くことができる。引き抜いた後に色々加工することも組立てることもできる。実際の加工例としてはマイクロパイプ・マクロシリンダの組み合わせに成功した。この作成プロセスにより同一機上で微細部品を加工して、大きい部品と組立てることもでき、複雑なpost-assemblyを必要としないことが明らかに示された。

 半導体技術を取り入れるために新し加工技術を導入した。同一機上WEDGにより微細ツールを加工して、そのツールでシリコンに超音波加工(以下、MUSM。)で微細穴加工する。シリコン基板の裏に導電性の基板を付けるとピン・プレート・モジュールを二つの加工ステップで作成することができる。まずMUSMによりシリコンに穴加工した後にマイクロEDMにより下の基板に穴加工する。ピンを下の基板に固定しピン・プレート・モジュールが作成できる。実際の加工例としては3Dのマイクロローター(90m)をシリコンに加工して、下の基板と組立てられることを示した。

 RMEDMは微細部品を組立てるために有用なプロセスであり、他の応用も考えられるので、その加工特性について詳しく調べた。RMEDM中には電極と工作物の間に加工屑とガスが集まって、加工状態が悪くなる。大容量のコンデンサ(1500pF)を使用するとRMEDMは安定するが、電極の消耗が大きく、凹みの内側の形が悪い。小容量のコンデンサー(100pF)を使用するとRMEDMが不安定である。100pFのコンデンサーを使用して、2MHzの超音波振動を加え、次の実験をした。ジャンプフラッシング、基板の加振及び工作物の回転によりどのような影響があるか実験を試みた。これらにより、ある程度の改善効果はあるものの、充分な安定性は得られなかった。しかし、小容量のコンデンサー(100pF)と大容量のコンデンサー(1500pF)を0.5秒毎に切り替えたところRMEDMが安定で、凹みの形状も加工時間も著しく改善された。

審査要旨

 本論文はA Study on Micromachining-Assembly(マイクロ加工・組立てに関する研究)と題し、7章からなる。

 全体は4つの部分に分けられ、最初の部品では微細部分の加工と組立てに関する一般的なアプローチについて解説し、本研究における手法の基本的な考え方について述べている。まず第1章では、マイクロ加工分野の二つの大きな領域であるMEMSと機械的加工について述べ、マイクロイオンビームエミッタを例にとり機械的加工と、後に続く組立て工程を総合的にプロセス設計することの重要性を示し、第5章で提案されるモジュラー法の適用可能性を明らかにしている。第2章では生産プロセスをあらわすシステム記述モデルとその接続関係を示し、大寸法製品と微細寸法製品の比較を行い、互換性を保つことの重要性を明らかにしている。

 2番目の部分においては新たに関発した微細部品のための加工・組立て一貫プロセスについて、その設計と動作の詳細が述べられている。第3章ではWEDG、マイクロEDM、マイクロ逆EDMの三つの微細部品加工法が導入されている。また、組立てに対しては超音波による挿入・組立てが提案されている。ここで提案されたプロセスにおいては全てのプロセスが同一機上で実現でき、加工・組立て間における互換性が維持されると共に、マイクロ逆EDMの導入によりハンドリングデバイスの必要性から開放されている。さらに、簡単な予備実験により上記コンセプトの適用可能性の確認が行われている。第4章では組立てにおけるメカニズムの詳細な解析が行われている。まず、超音波振動付与により溶接現象が起きているかどうかを明らかにするために接合部の温度計測を行い、接合が専ら機構的なものであることを明らかにしている。また、部品挿入時の過渡的な応力-歪伝播状態を明らかにするために動的リニアな線形弾性モデルによる解析を行っている。さらに、結合状態を評価するための引抜き強度測定実験の結果について記述されている。

 3番目の部分ではピン・プレートモジュールを基本とするモジュラー法について詳述されている。微細部品製造工程をモジュールに分解して行う手法が、マイクロイオンビームエミッタを例にとって実験・考察により明らかにされる。第5章はマイクロピン・プレートモジュールおよびそれが工作物、工具、そしてサブアセンブリ状態の部品として用いられる様子を示している。ここでは、特定の製品の製造工程においてマイクロ工具の作成が巧妙に行えることも示され、それによってモジュラー法がさらに柔軟性を持つことが明らかにされている。またモジュラー法によりミクロ領域からマクロ領域への接続が可能になることがマイクロパイプとマクロシリンダの加工・接合により示されており、この例により、微細部品のプレート上への一時待機の有効性がわかる。本章ではさらにマイクロ超音波加工が導入され、モジュラー法からシリコン基板および3DMEMSへの発展がなされている。この手法は、シリコン・金属の合わせ板にピン・プレートモジュールを適用し、マイクロ超音波加工においても互換性を失うことなく他の3種の工程と組み合せることができる。第6章ではマイクロイオンビームエミッタの具体的な製造実験について述べられている。

 4番目の部分はマイクロ逆EDMの詳細な記述である。第7章ではマイクロ逆EDMが新しい高アスペクト比マイクロ部品の作成における重要な技術であることを示すと共に、実験によりその各種加工特性を明らかにしている。特に振動、回転および大エネルギ放電重畳などにより、形状精度、加工時間の改善方法が示され、実用性を確立している。

 第8章は全体のまとめであり、各章で得られた成果を総合すると共に、将来の応用への展望が述べられている。

 以上、本論文は、加工、組立て、それぞれに難しいマイクロ部品製造工程に対し、モジュール法の提案により、一貫して精度を維持しながら、ハンドリングを排除して自動的に製品が得られる手法を提供しており、マイクロマシン、MEMS等の、将来に向けて重要な分野における有力な基盤技術を確立したものといえる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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