内容要旨 | | 地上静止状態から音速程度までの低速飛翔環境で作動可能なエジェクタ式空気吸い込みロケットは,ロケット排出ガス流のエジェクタ効果を利用して混合ダクトに大気を吸い込み,混合して加速排出することにより推力増強を達成するものである.この形態の推進システムについては,同じ寸法形状なら混合ダクト出口において超音速混合流を形成する作動形態とする方が,推力増強効果の点で有利であると指摘されている.しかしながら,超音速混合流形成型エジェクタについては,作動性能を予測するための一般性のある理論や経験則が確立されていない.また,主流側にロケットの排出ガスのような高温のガスを用いて,比較的二次流側流量の多い条件で行われた実験は希で,実際に達成される作動形態について系統的に調べられた例は見あたらない. そこで,本研究においては,超音速混合流形成型エジェクタ式空気吸い込みロケットの地上静止状態における作動特性を明らかにすることを主な目的として,固体ロケットと円筒ダクトを用いた作動特性実験を行い,さらに内部流評価のために新しい一次元解析法を導入して実験結果の詳細な検討を行った.そして,広い条件に渡る作動特性の概要を明らかにし,また基本的な設計指針を示した. 実験は,混合ダクト出口背圧と二次流側総圧が等しい,地上静止状態で行った.混合ダクトは,内径の異なる二種類の円筒型混合ダクト,ロケットノズルは,スロート径が同じで開口比が異なる三種類の円錐ノズルを用いた.また,一回の実験で広い主流側総圧範囲のデータを取得するため,ロケット燃焼室圧力(主流側総圧)は退行燃焼型固体推進薬グレインを用いて連続的に降下させた. 実験の結果,混合ダクト出口で安定した超音速混合流を形成する作動状態が達成され,「二次流閉塞モード」と「亜音速混合モード」の二つの作動形態を確認した. 二次流閉塞モードは,亜音速で合流した二次流が,ロケットノズルから排出された不足膨張の超音速主流と混合ダクト内壁との間で閉塞する,従来,超音速混合流形成型エジェクタにおいて知られている作動形態である.この作動形態は,混合ダクト断面積とロケットノズル開口比が小さく,主流総圧の高い条件で達成された. 一方,亜音速混合モードは,二次流が亜音速のまま混合してゆき,ある程度混合が進行した位置で流れが閉塞する,従来報告例のない作動形態である.本研究の実験においては,広い条件に渡って亜音速混合モードとなった. 図1に,両作動形態の代表的な軸方向壁圧分布を示す.二次流閉塞モードにおいては,二次流が閉塞する位置の下流側に,衝撃波の存在を示す幅の大きい圧力変化が見られ,流れが超音速的であることを示している.一方,亜音速混合モードにおいては,壁圧が常に二次流側の音速相当静圧より高く,また壁圧が軸方向に大きく降下している範囲と閉塞位置の存在する範囲が一致する.静圧の降下は,加速が起こっていることを示すから,流れが亜音速から超音速へ加速されていると推察される. 図1 各作動形態に対応する代表的な壁圧分布 さらに,総圧比Ptp/Pts,混合ダクト断面積比Ad/Atpおよびノズル開口比Aep/Atpが作動性能に及ぼす影響を系統的に把握するために,内部流の一次元解析を行った. 一次元解析モデルの概略を図2に示す.混合ダクト出口位置(St.2)においては,一様な混合流が形成されており,ロケット燃焼ガスと二次空気は同じ温度と圧力で個々に化学平衡に達して混在していると仮定した.また,作動形態の判別を目的として,新たに静圧平衡位置(St.1)を想定した.靜圧平衡位置においては,主流側は衝撃波による総圧損失を伴う過程を経て,また二次流側は断熱等エントロピ的な過程を経て,未混合のまま静圧の等しいCompound-compressible flow(CCF)を形成していると仮定した.CCFの振る舞いは,Compound-flow indicator によって判別した. 図2 解析モデルの概略 超音速混合流を形成する条件について,作動特性解析を行い検討した結果,混合ダクト出口位置静圧P2が背圧に等しい状態で閉塞する(M2=1)作動形態を与える総圧比が,超音速混合流を維持できる最小総圧比と結論づけた.図3に,推定計算値を点線で,実験値を黒丸で示して比較した.開口比5.93のNozzle Type Bを用いた条件については良く一致している.開口比8.82のNozzle Type Cを用いた条件における不一致は,ノズル排出ガス流が著しく不足膨張となって不安定になるためと考えられる. 図3 超音速混合流を維持できる最小総圧比の推算結果と実験値の比較 また,実験で測定されたロケット燃焼室圧力Ptp,大気圧Pts=Paおよび合流位置二次流側壁圧Peswを入力データとして,対応する静圧平衡位置と混合ダクト出口位置状態を推算する,実験データの一次元解析を行った. 混合ダクト出口位置静圧P2の解析結果は,混合ダクト出口位置近傍の壁圧測定値P2wに良く合う結果が得られた.また静圧平衡位置の解析結果については,「二次流閉塞モード」となる条件に対しては,超音速的に振る舞う流れを形成するという結果が得られ,「亜音速混合モード」となる条件に対しては,亜音速的に振る舞う流れを形成するという結果が得られた.両作動形態に対する解析結果と実験により得られた情報との対応は,合理的であると判断できるものであった. 静圧平衡位置状態の解析結果から,各作動形態に対応する次のような特性を読みとった. 二次流閉塞モード…M1s=1.1(Ptp/Ptsに依存しない) 亜音速混合モード…M1s=0.52(Ptp/Pts,Ad/AtpおよびAep/Atpに依存しない) 二次流閉塞モードについては,M1sの値が1に近いことから,M1s=1を仮定して作動性能予測を行った.その結果,従来の研究で得られている流量率比の実験値と広い条件で一致した.このことから,本研究で提唱した解析法においてM1s=1を仮定することにより,二次流閉塞モードとなる場合の作動性能を予測できると考えられる. 亜音速混合モードについても,経験的に得られるM1sの値を仮定することにより作動性能予測が可能と考えられる.またM1sを一定とみなすと,エジェクタの作動性能を表す代表的な量である流量率比について,近似的に次の関係が導出できる. 図4は,流量率比と無次元量Cの関係を示したものである.この結果から,亜音速混合モードの場合,作動性能は総圧比Ptp/Ptsと混合ダクト面積比Ad/Atpの比である無次元パラメータCに対して,ほぼ一義的な依存性を持つことが明らかになった. また,同軸自由噴流により形成される流れ場の特性は,主流のポテンシャルコア長さに依存することが知られている.Zakkayらの経験則より,静圧平衡位置から測ったポテンシャルコア長さx1PCは,主流噴流の初期直径D1pと質量流束比=(1pu1p)/(1su1s)の平方根の積に比例する.そのポテンシャルコア長さ比例量D1pを混合ダクト直径Dで無次元化した量の解析値は,Cのみの関数となる.よってCが一定の場合,ポテンシャルコア長さは,ほぼ混合ダクト直径Dに比例することが見出される. 図5は,C=1.5の条件において得られた壁圧分布を比較したものである.総圧比,混合ダクト面積比,ロケットノズル開口比が異なるにもかかわらず,混合ダクト直径で無次元化した軸方向距離に対する壁圧分布は一致する.このことより,Cが一定の条件下では,混合ダクト内部に形成される流れ場は,おおまかに混合ダクト直径Dを基準とした寸法で発達すると推察される. 図表図4 流量率比の計算値とCの関係 / 図5 C=1.5における壁圧分布の比較 さらに,推力増強効果に関する考察の結果から,混合ダクト直径を固定した場合,より大推力・高比推力を達成するための基本的な設計指針は,次のようになることを示した. ・ロケットノズル開口比は,なるべく合流位置で適正膨張となるように選ぶ. ・できるだけ燃焼室圧力を高く,ノズルスロート面積を小さくする. 以上のように,本研究では,固体ロケットと円筒型混合ダクトを用いた実験を行い,さらに内部流評価のために新しい一次元解析法を導入して実験結果の詳細な検討を行った.そして,ロケット燃焼室圧力,混合ダクト断面積およびロケットノズル開口比が作動性能に及ぼす影響を探った結果,超音速混合流形成型エジェクタ式空気吸い込みロケットについて広い条件に渡る作動特性の概要を明らかにし,また基本的な設計指針を示した. |