本論文は「A Study on Three Dimensional Particle Imaging Thermometry and Velocimetry Using Liquid Crystal(和訳3次元温度・速度同時計測手法に関する研究)」と題し、温度の変化に応じて色の変化を起こす感温液晶粒子をトレーサーとして用い、熱流体の流れ場の温度と速度を3次元的に同時に計測できるシステムを構築した研究である。 第1章では本研究の背景および目的を述べている。流れの可視化画像からコンピュータを用いたディジタル画像処理技術によって、流れ場の瞬間的、空間的な速度や温度分布を計測する手法は、熱伝達などの物理現象の定量的評価に重要な役割をしている。流れ場の速度のトレーサーとしてはナイロン粒子等が、温度のトレーサーとしては蛍光物質、感温液晶粒子等が使われてきた。蛍光物質による温度計測手法は分解能が低くしかも流れ場の非定常計測には適していないのが現状である。これに対して、感温液晶粒子を温度のトレーサーとして用いる方法が提案されているが、ほとんどの研究は感温液晶粒子が入っている3次元の熱流体場を2次元的に可視化し、その断面を3次元的に動かすという疑似3次元法、あるいはナイロン粒子と感温液晶粒子を一緒に流れ場に注入する複合粒子法であって、求められた速度と温度の時間及び空間の相関性が低いという短所があった。そこで本研究では、上記の問題点を解決するために感温液晶粒子の大きさを大きくした粒子を温度と速度測定のためのトレーサーとして用い、粒子そのものの温度と速度を3次元的に追跡出来るシステムを構築することを目的としている。 第2章では本研究で用いられた感温液晶粒子の光学的な特性および時定数特性を定量的に評価している。感温液晶粒子が温度のトレーサーとして適用された場合、感温液晶粒子の温度が一定であっても感温液晶粒子に対する入射光と視線角度(以下、光学的相対角度とよぶ)によってその色が変わるという光学的な特性を実験によって定量的に評価している。この光学的な特性を持つ感温液晶粒子を用いて温度の3次元計測を行う時には、その相対角度ごとに較正実験をするか、あるいは、その光学的な特性が生じないようにカメラ、光源および測定領域を調整する必要があるということを明らかにしている。続いて、感温液晶粒子の時定数特性について定量的な評価を行っている。感温液晶を保護するためには液晶周りに透明のgelatin膜が被せられるが、その膜の熱容量によって温度の変化に対する色変化の時間遅れが生じる。感温液晶粒子の時定数計測は既存の技術では困難であることから本研究では数値計算による時定数特性の評価を行っている。流体温度のステップ変化と周期的な変化に対する応答及び、流体の上流側で感じた温度を下流側までもって行くという熱慣性応答の特性を粒子そのものに対して定量的に論じている。 第3章では、第2章で明らかになった感温液晶粒子の特性をもとにした、3次元温度と速度の同時計測システムの構築の原理を述べている。3次元の温度計測については、感温液晶粒子の温度と色の関係が強い非線形性を持つということから、カラー画像処理とニューラルネットワークを用いて温度と色の関係を線形的に変換し、精度よい温度較正方法を構成している。また、非測定用の白黒カメラとカラーカメラを使ってステレオ写真法による3次元の速度計測のアルゴリズムを構成している。本章の最後には、ディジタル画像処理に対する速度計測の不確かさ解析を行って構成した温度・速度同時計測システムの有効性を示している。特に、温度計測の不確かさ解析においてはカラー画像処理とニューラルネットワークを対象とした新たな不確かさ解析手法を提案している。 第4章では、第3章で構築された計測システムで工業的によく現れる垂直浮力水噴流の自己保存領域における3次元温度と速度の同時計測を行っている。速度計測の検証のためにLDV測定も加えて行っている。本研究で開発された計測手法による温度と速度の計測結果と既存の研究結果との比較によって、平均温度および平均速度に対する本手法の有効性を検証している。 第5章では、本研究の結論を述べている。 以上を要約するに、感温液晶粒子のカラー画像追跡による熱流体の3次元の温度・速度同時計測システムを構築し、その手法を垂直浮力水噴流の温度と速度の同時計測の適用に成功するとともに、本手法の有効性を示している。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |