逆転磁場ピンチ(RFP)や極低q放電(ULQ)は、磁気流体力学(MHD)的緩和を通して自己組織化され、かつ維持される弱磁場大電流配位であり、核融合炉心プラズマの候補の一つとして研究されている。また物理学の立場からも、緩和現象や不安定性といった、プラズマに特徴的な現象が実験室プラズマで詳細に研究できることから、宇宙空間プラズマや天体プラズマをも含む広範な自然現象との関連性において注目されている。これらのピンチ系プラズマは、その緩和過程において大きな磁気揺動を伴い、それがイオン異常加熱、高速電子の発生、イオンサイクロトロン周波数領域での磁気揺動の励起などに本質的な役割を果たしている。これらの現象は、電磁流体力学のモデルでは扱えない運動論的な効果を含んでおり、超高温プラズマの電磁的乱流の研究という新たな研究テーマを提示している。 本研究は、RFPおよびULQプラズマを用い、磁気揺動の運動論的効果を調べることを主目的として、イオンサイクロトロン周波数領域の磁気揺動、イオンおよび電子の異常加熱についての実験的解析を行った。ULQプラズマに関する実験は、東京大学のREPUTE-1およびREPUTE-1Qを用いて行なった。RFPプラズマについては、電子技術総合研究所のTPE-1RM20を用いた。 本論文は全五章で構成される。第一章では、本研究の位置付け、お上びULQ、RFPプラズマの特性について概説している。第二章で、本研究に用いた上記3つの実験装置とその測定系を紹介しいる。 第三章では高周波磁気揺動の励起について議論している。ULQとRFPにおけるイオンサイクロトロン周波数(〜数MHz)領域の磁気揺動を測定し、両プラズマにおいて配位の形成時、および間欠的な緩和過程にイオンサイクロトロン波が励起されることを発見した。空間的相関を調べた結果、イオンサイクロトロン波が高いコヒーレンス(〜0.8)をもち、磁力線にほぼ垂直にイオン反磁性ドリフト方向へ伝搬する波であることが分かった。いくつかあるイオンサイクロトロン波不安定性の分散関係と実験結果との比較から、ULQとRFPで励起される波として、イオン温度非等方性によるアルフベンイオンサイクロトロン波(AIC)不安定性と、電子ビーム駆動型不安定性(obliquely propagating ion Bernstein wave)の可能性がある。いずれの不安定性も、ULQとRFPでの典型的なプラズマ条件において成長率をもつものの、イオンサイクロトロン波がイオン温度非等方性が成長していない放電初期にも励起されること、RFPではイオンサイクロトロン周波数の高調波領域でも励起されること、波の励起が高速電子の発生(浮遊電位上の負のスパイク)と同期していること、そしてさらに、波数ベクトルの向きがその分散関係式の不安定解の生じる向きと一致することから、この波は電子ビーム駆動型不安定性によって励起されるものであると結論付けている。また、磁気揺動レベルから、イオンサイクロトロン周波数領域の磁気揺動がイオンの直接加熱には寄与しないことも明らかにした。 第四章では磁気揺動によって生じるプラズマの異常加熱に関して議論している。電子とイオンの温度を区別し、その差から磁気揺動の散逸機構について論考している。REPUTE-1QでのULQ及び超低q(VLQ)プラズマにおいて、イオン温度、電子温度の測定、およびそれらの磁気揺動との関連を調べた。準定常的なULQ放電において、低周波領域(数10kHz)の磁気揺動の励起に伴ってイオン異常加熱が観測された。その磁気揺動が、ピッチ極小領域の局所モードに対応するポロイダルモード数が2以上のモードが支配的であることから、準定常状態での局所的な緩和によってもイオン異常加熱が起こることを示した。一方、VLQ領域においては、軟X線波高分析による電子温度の測定により、異常抵抗の存在と共に電子が強く加熱されることを発見した。このことは、異常抵抗によって散逸される余剰な入力パワーのイオンと電子への配分がq値に強く依存することを示しており、理論的な予測と合致した。 第五章で本研究の成果をまとめている。 以上を要するに、本論文は、ULQおよびRFPでの運動論的効果の存在をイオンサイクロトロン波の発見によって明らかにしたものであり、次世代のピンチ系プラズマ実験の新たな方向を示したと言える。ピンチ系プラズマの運動論的効果の解明は実験室プラズマのみならず、近年その類似性がより明らかにされつつある太陽フレアなどの宇宙プラズマの研究にも貢献しうるものである。これらは核融合工学ならびにプラズマ科学に寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 |