本論文は、約六千年前を中心にした完新世の「気候適期」の時期に見られる朝鮮半島の南岸と九州地域の文化交流の実態を土器の詳細な分析を基礎にして明らかにしたものである。この分野の研究は長い歴史を持っていはいるが、その分析は表面的なものが多く、具体的な形で分析したものは数少ない。本論文は、朝鮮半島南岸、日本列島西端の該期の土器群の詳細な属性に基づき、当時の文化交流の実態を分析したもので、画期的な成果ということができる。 近年、多くの調査が実施され、質量ともに豊富になっている基礎資料をよく渉猟し、詳細な時期区分、属性ごとの地域を限っての分類、それを基礎にした土器群の内容の解析、形式学的な解釈、その持つ意味を東アジアの先史文化の中に位置づけるなど、分析方法においても斬新な手法が用いられている。先行研究の内容を十分に理解し、そこにおける問題点を明らかにし、その上にたって、自らの説を論述する方法を採用しており、方法論的に見てもオーソドックスな方法が採られている。土器群の中から広範囲に分布する土器とそれぞれの地域の在地の土器とを峻別し、分析にかかるなど属性分析と呼ばれる方法が駆使されており、高い説得力を持っている。 土器の分類がやや機械的に流れている点など今後に期待する点がないわけではないが、その成果は顕著なものがある。博士(文学)を授与するのに値する論文である。 |