No | 110962 | |
著者(漢字) | 杉野,文彦 | |
著者(英字) | Sugino,Fumihiko | |
著者(カナ) | スギノ,フミヒコ | |
標題(和) | 行列模型からの弦の場の理論の構成 | |
標題(洋) | Construction of String Field Theory from Matrix Models | |
報告番号 | 110962 | |
報告番号 | 甲10962 | |
学位授与日 | 1995.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第2875号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 物理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 量子重力理論の構築は現在の素粒子物理における最も重要な問題の一つであるが、そのアプローチの方法は大きく分けて2つある。 一つは通常の場の理論の枠組みにおいてこの理論を考えるものである。量子重力理論は時空の次元が2を超えた場合は摂動論によって場の量子論を議論することができないため、何か非摂動論的な方法でこれを構築する必要がある。格子上の重力理論などがその代表例である。 もう一つは弦理論である。第一量子化した閉じた弦理論のスペクトルき調べるとスピン2の質量ゼロの粒子が存在するが、これを重力子とみなせるからである。しかし、現在のところ弦理論の古典解は無数にある。この古典論は複素平面上の共形場の理論で表されるが、ゴースト場も含めて共形変換のアノマリーがゼロになるものであれば、どんな共形場理論も古典解になりえるからである。したがって、本当に弦理論が我々の世界き記述しているのであれば、この無数の摂動論的真空から非摂動効果によって一つの真空を選び出す機構を備えているはずである。非摂動効果は第一量子化した理論ではわからないので、弦の場の理論を構成してしらべなければならない。 一方で、ここ4、5年において2次元の量子重力理論が厳密に解けることが発見され精力的に調べられている。その中で弦理論にとって最も刺激的な発見は2次元格子重力を記述する行列模型である。それにおいて、二重極限をとると2次元面のすべてのトポロジーの寄与を足し上げることが可能になる。2次元重力はその2次元面を世界面に見立てることにより弦理論の一種と見なせる。具体的には2次元重力と中心電荷(c)の共形場が結合した系はc次元の非臨界弦と呼ばれている。すると行列模型での2次元面の足しあげは、弦理論の振幅のループ補正をすべて足しあげたものになつている。したがつて、行列模型は弦の場の理論の格子化による定義を与えていると見なすことができる。 しかしながら行列模型は場の理論的な形をしていないので、非摂動効果を研究する際に我々の既知の場の理論での経験と直観が生かせず不便である。そこで行列模型を場の理論的に再定式化しておくことは意義のあることである。 これに関連して最近、石橋と川合によって提案されたc=0の弦の場の理論がある。この理論のハミルトニアンは弦の分裂、合体、消失と表す3項からなる簡単な形をしているが、c=0の理論を表す1行列模型の相関関数の結果を再現している。驚くべきことに通常の行列模型では相関関数を決めるには無限個の関係式が必要なのに対し、この理論ではハミルトニアンのみから導き出される運動方程式で足りてしまう。更にJevicki-Rodriguesにより、多少曖昧な点があるが、この理論と1行列模型の確率過程量子化との関係が指摘された。 次にc=1/2の場合(これはIsing模型と重力の系であり、2行列模型で表される。)は石橋-川合が弦のループ上のスピン配位が最も単純な場と用いて弦の場の理論を提案したが、この妥当牲は現在まで明らかではない。また、池原、石橋、川合等がループ上のスピン配位をすべてとりいれた場の理論を議論したが、ハミルトニアンの形が完全に決まっていない。特に弦の消失を表すtadpoleが全く決まっていない。 このような状況の中で我々はc=0.1/2の場合に直接、行列模型の確率過程量子化を考えることにより、弦の場のハミルトニアンを曖昧さなく導き、弦の場の理論の考察を行った。特にc=1/2の場合、弦の場として全てのスピンの配位を含めて構成した。 c=0の1行列模型の場合、我々は次のように考えた。1行列模型の分配関数はエルミート行列の積分で表されるが、確率過程量子化のハミルトニアンはその行列の空間の正定値なラプラシアンとみなすことができる。このラプラシアンの弦の場による表示を考えることで(格子理論での)ハミルトニアンが得られる。ここでc=0の理論ではdisk amplitudeにスケーリングに従わないc-数の部分(non-universal term)があるので正しい連続極限を取るにはこれを引き去る必要がある。これに注意して連続極限をとることにより、c=0の非臨界弦のハミルトニアンを得た。この結果は石橋と川合の結果とコンシステントである。 c=1/2の場合はエルミート行列を2個含む2行列模型で表されるが、これも同様に2個の行列の空間でラプラシアンをつくり、弦の場の表現を考えればよい。しかし、ループ上のスピン配位の空間は無限に大きいので、弦の場として無限個の成分を導入して行つた。 ループ上のスピンが一定値をとる領域(島)のことをドメインと呼ぶことにすると、連続極限をとる前のハミルトニアンには相互作用は必ずドメインについてローカルに起こるという事情がある。 我々は弦の場の成分について最初の4、5成分についてハミルトニアンの連続極限をとることができ、これに基づき連続理論のハミルトニアンの形を示した。我々は、技術的困難から全ての成分について議論できないが、相互作用がドメインについてローカルであるということから、一般的な成分でもうまくいつていることは十分期待できる。 だが、c=0のときとは異なり出来上がつたハミルトニアンからは相関関数を一意的に決めることはできない。これにはハミルトニアンの連続極限をとるときにsubleading以下の項からもnon-trivialな情報があって、それを落としているためであるが、あるいは行列模型のポテンシャルが下に有界でないことから、連続極限をとる前でも相関関数を一意的に決めるには、ハミルトニアンの他に何らかの拘束条件の情報が必要であると思われる。しかし、この情報をいかに引き出すかは今後の課題である。 また、実際にこうして得られた弦の場の理論において非摂動効果がいかにして導かれるかを調べるのも課題である。 | |
審査要旨 | 本論文は、行列模型の確率過程量子化によって非臨界弦理論のある種の場の理論を構成しようと試みたものである。 現在、二次元の量子重力が盛んに研究されているが、これは摂動論的にはうまく定義出来ていない量子重力を非摂動論的に構成しようとするための実験場としての役割と、これとは別の方法で量子重力を定義しようとする弦理論の研究としての二重の意味で興味が持たれているからである。中でも最近の成果として注目されているのは、行列模型に基づく非摂動論的な定式化で、本論文の出発点もこの行列模型にある。 Central charge cが1以下の場合について行列模型は非摂動的な解を与えてくれるが、その物理的な解釈には場の理論的な理解が必要である。このため行列模型の結果を再現してくれる場の理論を構成する事が重要な問題となる。その候補として最近石橋-川合による一つのproposalがなされた。しかし、彼らの議論においては行列模型との直接的な対応関係が明らかでなく、また構成上いくつかの不定な部分を含んでいた。 これに対してJevicki-Rodriguesによって行列模型の確率過程量子化から石橋-川合流の場の理論が得られる可能性が指摘されたが、そこでも連続極限の取り方について不明確な点が残されていた。 本論文は、これらの不明確な点を克服し、行列模型を確率過程量子化した上で直接的に連続極限を取ることによってあいまいさなく場の理論を導く事に成功した。 特にc=0及びc=1/2について具体的に場の理論を構成しているが、前者については初めて明確な基礎付けを、後者については二行列模型に対応する場の理論の構成に関わる問題点を行列模型の立場から初めて明らかにした。 本論文の構成と内容は以下の通りである。まず、第1章において研究の動機付けと結果の概要を述べた後、第2章で一行列模型及び二行列模型の定義と非摂動的な解についての簡単なレヴューをしている。 続く二つの章がメインパートである。第3章では、一行列模型から出発してc=0の場の理論を確率過程量子化及び二重スケーリング極限によって導出する。特に、Jevicki-Rodriguesの議論で不明確であった連続極限の取り方をはっきりさせ所謂tadpole項の起源を明らかにしている。第4章では、二行列模型から出発し前章と同様な操作によってc=1/2の場合について無限成分の場の理論を構成している。そこでは、一行列模型の場合と違ってtadpole項は非自明な相殺を起こして消えてしまう。このことは、二行列模型の場合について付加的な条件を課さねばならないという問題点をはっきりさせる事になった。 最後の第5章では、まとめと問題点、ループ長と固有時の間の関係に対するconjectureを含むいくつかの示唆的な議論が述べられている。四つの部分からなるAppendixには、連続極限の取り方に関する詳細な議論を含む技術的な補遺が与えられている。特にappendix Aに与えられた二行列模型のディスク振幅は他に明示的に与えられた文献は無くその利用価値は高い。 今後、付加条件の問題、ユニタリー性の問題と並んで、場の理論的立場から]行列模型による非摂動的解の物理的意味を解明して行く事が重要な問題となるが、構成の基礎付けを与えた本論文がそのベースとなる事は明白であり、当該研究テーマの進展状況から考えて十分な成果が得られたと判断出来る。 なお、本論文第3・4章は、指導教官である米谷民明教授との共同研究であるが、論文提出者が主体となって具体的計算及び分析を行ったものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 よって審査員一同は、本論文が博士論文として合格の評価をされるべき業績と判定した。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54437 |