本論文は全8章からなり、第1章は本論文の主題を選択するに至った動機と研究領域の背景について述べてある。第2章においては著者等が独自に開発したモザイクCCDカメラの概要について、また第3章、第4章においては観測データの解析手法について述べられている。モザイクCCDカメラを用いて著者自らが観測した近傍の四つの銀河団の解析結果について詳述してあるのが第5章であり、第6章においては得られた結果の信頼性について、また第7章では本研究の成果が銀河の形成と進化を理解する上に如何なる意味を持つかの考察が、さらに第8章では結論が述べてある。 銀河団における銀河の光度関数が暗い銀河でどのような形をとるか、銀河の空間分布は銀河の光度と形態にどのように依存しているか。これらは銀河の形成と進化を考える上での基本的な考察課題である。これらを明らかにするために本論文では著者はモザイクCCDカメラによって4つの近傍銀河団中の銀河の広域サーベイを行い、それら銀河の形態、明るさによって光度関数、及びクラスタリングのしかたがどのように異なるかを議論している。 まず、写真乾板の広視野とCCDの高感度特性を兼ね備え持つものとして著者等は1000×1018画素を持つCCDを4×7の格子状に並べたモザイクCCDカメフを開発した。このカメラはCCDを接近させて並べるのではなく、その間隔を広く開け格子状に並べ望遠鏡を動かすことでその格子の隙間となる視野を覆い尽くすという独自の設計を持っている。また著者等は同時にこの観測装置によって得られたデータをほぼ自動で整約、解析する一連のソフトウェアも開発した。これにより現在まで写真乾板でしか覆うことのできなかった近傍銀河団中の銀河について一様かつ多数のサンプルを得ることが実現した。 著者は共同研究者とともにこのカメラを木曽観測所の1mシュミット望遠鏡、及びラスカンバナス天文台の1m望遠鏡に取り付け、それぞれに於いて近傍の銀河団A1656、A1367、およびA1644、A1631を撮像観測し、中心集中度に基づいて銀河を早期型と晩期型の2種類に形態分類した。 これらの観測データをもとに、著者は銀河の形態別の光度関数をCCDの特性を生かして従来よりもはるかに暗い銀河についてまで求め、光度関数は明るい方(MR<-18)では従来までの示唆通りシェヒター関数てよく近似されることをすべての銀河団について確認した。しかし暗い銀河(-21.5<MR<-16)も含めると、A1644を除いてシェヒター関数ではフィットできない。著者はその原因が暗い早期型の銀河(MR>-18)の光度関数にあることを明らかにした。これら暗い早期型銀河は乙女座銀河団に数多く見られた早期型矮小銀河とは異なることが予想され、特にA1656、A1367においてこれらの新しい種族が多数発見された。これは銀河の形成と進化を考察する上での非常に重要な発見である。 著者は次にこれらの銀河サンプルについて角度二体相関関数を用いて非一様分布を定量化し、すべての銀河団について形態-密度関係と光度-密度関係とが存在することを明らかにした。すなわち、早期型の銀河は銀河団の中心に集中する傾向を示し、明るい銀河も同様の傾向を示す。これらの関係を形態別に見ると、早期型銀河が暗いものほどそのクラスタリングの強さを失っていく傾向を示すのに対して、晩期型銀河は明るさによらず、そのクラスタリングの強さを維持している。また形態-密度関係、すなわち早期型が晩期型に比べてクラスタリングが強いという相関は銀河が暗くなるにしたがって弱くなる。このように銀河団領域において早期型銀河の分布に光度依存性があることから著者は光度-密度関係の形態依存性、あるいは形態-密度関係の光度依存性が存在すると結論し、これまで観測されてきた光度-密度関係と形態-密度関係はお互いに相関している可能性があると結論している。著者は最後にこれらの相関の起源について銀河形成時に引き起こされたとする立場と銀河団が進化する段階で引き起こされたという立場で議論している。 以上述べたように本研究は、近傍の4銀河団についてモザイクCCDカメラを用いて、従来よりもはるかに暗い銀河までの定量的な解析をはじめて行ない、銀河の光度-密度関係と形態-密度関係の相互依存性を明らかにし、銀河の形成と進化の研究に多大な貢献をしたものと認められる。本論文は共同研究の成果ではあるが、著者は観測機器の開発、観測、データ解析を含むすべての点で中心的な寄与をした。よって審査員は全員一致で、本論文は申請者が博士(理学)の学位を受けるための要件を満たしていると判定した。 |