本論文は142の活動銀河中心核を高周波数の超長基線干渉計(VLBI)で観測し、天体の角サイズ・輝度温度などを求め、その統計的性質およびX線との相関関係を調べて放射機構や宇宙論的進化効果などを明らかにしたものである。 提出論文の意義および審査結果を以下に述べる。 活動銀河中心核(AGN)は低周波数の観測では外側の薄い密度のプラズマの影響を多く受けて、活動的な中心核の深部を調べることが困難である。一方高周波数のVLBI観測では深部まで見通しその構造を知ることが可能となるが、大気や受信機の位相の揺らぎなどによって観測が困難である。申請者はこれまで25天体の観測しかなく系統的に行なわれていなかった高周波数22GHzのVLBIサーベイを初めて行なった。観測は日本・アメリカ・オーストラリアの太平洋を鋏む3カ国6局、基線長は最大10,000kmを越える国際共同観測によって行なわれた。観測天体は公表されている各種カタログから、(1)22GHz付近のスペクトル指数>-0.5(S〜;Sはフラックス密度、は周波数)、(2)22GHz付近のフラックス密度S>1Jy、(3)赤緯>-45度、という条件で選ばれた。これらの条件を満たす174天体のうち、142天体(81%)の観測が実施され、そのうち95%に相当する135天体が検出された。申請者は観測天体選択の3条件を研究目的に合致するように設定して必要な天体を選択すると共に、使用したアンテナの配置を考慮して最適な観測スケジュールを作成した。この観測によって、以下のような統計的研究が可能となった。以下のデータのデータ処理およびその解析・検討はすべて申請者が独自に行なったものである。 個々の天体について、基線長と相関フラックス密度から円形ガウス型の輝度分布を仮定したモデルフィットを行ない天体の角サイズの分布を0.5ミリ秒角(mas)から上限値0.05masまでと決定した。また角サイズと相関フラックス密度から輝度温度は1010.3〜1012.6Kに広く分布することを明らかにした。また角サイズは赤方偏移z〜1の遠方では小さくなり上限値しか与えられないものが多くなる傾向を指摘した。 放射機構について、シンクロトロン・セルフコンプトン(SSC)過程の検討を、(X線光度/電波光度)比と輝度温度の相関関係を調べることによって行なった。X線のデータはEinstein衛星の観測結果を用い、輝度温度が1010.5Kから1012Kに増大するにつれ(X線光度/電波光度)比は2桁低下することを示した。さらに輝度温度が1011.5Kから1012K以上になっても理論的予想値の1/10〜1/100以下という結果を得た。SSC過程では(X線光度/電波光度)比はドップラー効果の影響を受けない。したがってこれらの結果からSSC遇程は22GHzで観測される電波コアでは卓越的には作用していないと結論した。 輝度温度が1012Kを超える天体ではドップラー増幅効果が作用していることを次の議論にしたがって示した。(電波光度/X線光度)比は、赤方偏移zが0.03から3まで増大する間に約3桁増大する。輝度温度が1012Kを超える天体はほとんどzが1前後の遠方天体である。したがって遠方の天体ほど輝度温度、(電波光度/X線光度)比がともに大きい。この(電波光度/X線光度)比のz依存性は、遠方の天体ほどドップラー増幅効果が強く作用していると解釈すると理解でき、天体の選択基準(2)により、遠方の天体ほどドップラー増幅された天体を選択的に観測している選択効果の影響であるとした。 フラックス密度Sに対する角サイズの分布から、等エネルギー分配から理論的に予想される角サイズeqに対して観測値は1〜1/10以下に分布していることを示し、フラックス密度が理論値より1〜100倍以上に分布していると解釈した。これをドップラー増幅効果によるとし、(観測フラックス密度/理論フラックス密度)比のzに対する分布から、(電波光度/X線光度)比のz依存性と同じく、遠方の天体ではより(観測フラックス密度/理論フラックス密度)比が大きくなり、100倍程度まで分布することを示した。 SSC過程では輝度温度分布の上限値は1012KであるがX線光度との相関が見られないことから、SSCモデルを排除した。一方、等エネルギー分配モデルでは輝度温度分布が1010.5Kという上限値を持つことからドップラー増幅効果が作用し輝度温度が上昇しているとした。 以上から、22GHzで観測される電波コアではSSC過程が支配的ではなく、等エネルギー分配とドップラー係数D=30〜100のドップラー増幅効果によってその放射機構が説明できると結論した。これらの成果は活動銀河中心核の放射機構や銀河の進化に重要な知見を与えるものである。 審査会における発表もよく整理されており全般的な理解の深さも伺え、また、その後の質疑においても的確な応答であった。よって申請者は博士(理学)の学位を受けるにふさわしいものと認め、審査員全員により合格と判定した。 |