学位論文要旨



No 111012
著者(漢字) 一色,孝子
著者(英字)
著者(カナ) イッシキ,タカコ
標題(和) 分裂酵母の栄養源認識に関与する三量体Gタンパク質遺伝子の解析
標題(洋)
報告番号 111012
報告番号 甲11012
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第2925号
研究科 理学系研究科
専攻 生物化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,正幸
 東京大学 教授 池田,日出男
 東京大学 教授 芳賀,達也
 東京大学 教授 竹縄,忠臣
 東京大学 助教授 菊池,淑子
内容要旨

 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)は、富栄養条件下では一倍体で栄養増殖するが、栄養源が枯渇すると増殖を停止し、異なる接合型細胞(h+とh-)どうしで接合し、減数分裂および胞子形成を行う。つまり、分裂酵母では、相手方細胞の存在と栄養源の枯渇という二つの外界シグナルが細胞内に伝達されて、栄養細胞から生殖細胞への分化が決定される。このうち、栄養源枯渇の情報の一部は、細胞内cAMPレベルの低下というかたちで伝達される。本研究では、分裂酵母の分化における栄養源認識機構を明らかにする目的で、まず、新たなGタンパク質サブユニットの遺伝子gpa2を単離して解析を行い、このGタンパク質サブユニット(Gpa2)がcAMPの合成を制御すると考えられること、およびグルコースがGpa2の上流でシグナル分子として働くことを示した。ついで、分裂酵母GサブユニットGpb1がGpa2と相互作用して機能することを示した。さらに、cAMP依存性プロテインキナーゼ(Aキナーゼ)の下流で働く新規の遺伝子sag1を単離して性格付けを行い、有性生殖以外におけるcAMP-Aキナーゼカスケードの働きについて考察した。これらの結果は3章に分けて述べられている。

(1)分裂酵母Gサブユニット遺伝子gpa2の単離と機能解析

 細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)G1のcDNAを用いて、分裂酵母ゲノムDNAに対するクロスハイブリダーゼーションを行った。その結果、先に解析されていた接合因子受容認識に関与するGサブユニット遺伝子gpa1とは異なる、新たなGサブユニット遺伝子が単離された。後にgpa2と名付けたこの遺伝子は、354アミノ酸、分子量40.5kdのタンバク質をコードしていた。

 gpa2遺伝子を破壊した株を栄養源を豊富に含む合成培地中で培養したところ、ヘテロタリック株(片方の接合型細胞のみを含む)の場合は、細胞が短くなり、増殖速度は遅いものの、増殖は可能であった。一方、ホモタリック株(接合型変換によりh+とh-の両型が混在する)の場合は、栄養源が十分にあっても容易に接合・胞子形成し、ほとんど増殖ができなかった。すなわち、gpa2遺伝子が破壊されると、細胞は栄養源枯渇の条件なしに栄養増殖から有性生殖への切り替えをおこすことがわかった。gpa2遺伝子破壊株の示したこのような表現型は、cAMP合成酵素であるアデニル酸シクラーゼ遺伝子cyr1を破壊した株の表現型とよく似ていた。そこで、gpa2遺伝子破壊株の細胞内cAMPレベルを測定したところ、そのレベルは野生型株の三分の一程度でしかなかった。

 哺乳類のGs及びGiでは、一アミノ酸の置換によってGTPase活性が低下し、エフェクターを恒常的に活性化する活性型変異が細胞のがん化を引き起こすことが報告されている。それと相同な点変異を部位特異的変異導入法を用いてgpa2遺伝子に導入した。この変異型Gpa2を発現すると、有性生殖過程への移行が著しく阻害され、cAMP濃度の高い株に特有な細胞形態(細胞が長い、液胞が多いなど)が観察された。また、小幅ではあるがcAMPレベルの上昇が認められた。

 以上に述べた結果から、Gpa2が、cAMPの分解を阻害するかあるいはcAMPの生産を促進するかのどちらかの機構によって、細胞内cAMPレベルの制御に関与していることが示唆された。Gpa2がこれらのどちらの機構で働いているかを検証するために、cAMP依存性ホスホジエステラーゼをコードするpde1/cgs2遺伝子の破壊株における、Gpa2の活性によるcAMPレベルの変化を観察した。pde1遺伝子を破壊するとcAMPレベルは野生型株の3〜5倍に上昇する。この株にさらに活性型gpa2変異を導入するとレベルは野生型株の20倍まで上昇した。また、gpa2-pde1-株の細胞内cAMPレベルは、pde1-株より低く、野生型株と同じ程度であった。このように、pde1遺伝子破壊株のcAMPレベルがGpa2の活性に依存して激しく変化したことから、Gpa2はPde1を介してcAMPレベルを制御していないことが結論され、Gpa2はアデニル酸ジクラーゼをエフェクターとして、cAMPの合成を制御していると考えられた。

 静止期にある野生型細胞をグルコースで刺激すると一過的に細胞内cAMPレベルが上昇する。Gpa2がこのようなグルコースに対する反応に関与しているかどうかを検討するため、活性型gpa2変異株、gpa2遺伝子破壊株及び野生型株についてグルコースで刺激した後のcAMPレベルの変化を経時的に測定した。その結果、野生型株ではグルコースで刺激した後約4分で一過的なcAMPレベルの上昇が見られたのに対し、gpa2遺伝子破壊株ではそのような一過的な上昇は全く認められず、活性型変異株ではcAMPレベルは一気に上昇したまま高いレベルに維持されていた。このことから、Gpa2が外界のグルコースを認識する役割があることが示された。しかし、グルコースの類縁体を用いた実験から、グルコースそのものが細胞外シグナル分子として働く可能性は低く、グルコースの代謝が必要であることが示唆された。

(2)分裂酵母Gサブユニット遺伝子gpb1の栄養源認識機構への関与

 韓国のYooらのPCRを用いた実験によって、分裂酵母から初めてGタンパク質サブユニット遺伝子が単離され、gpb1と名付けられた。gpb1は、317アミノ酸からなるタンパク質をコードし、ヒトG1、G2および出芽酵母STE4とアミノ酸レベルで40〜50%の相同性を持つ。私は、彼女らから材料の供与を受け、gpb1遺伝子破壊株がgpa2遺伝子破壊株と同様に富栄養条件下で接合・胞子形成すること、およびその表現型はgpa2あるいはcyr1を過剰発現することによって抑圧されることを示した。これらの事実から、gpb1遺伝子破壊株の細胞内cAMPレベルが低下していることが示唆されたため、この株の細胞内cAMPレベルを測定した。その結果、gpb1遺伝子破壊株の細胞内cAMPレベルは、gpa2遺伝子破壊株よりは高いが、野生型株より有意に低いことを明らかにした。ついで、Gpa2とGpb1が同じ経路でcAMPレベルの調節に関与しているか否かを調べるために、gpa2-gpb1-株の細胞内cAMPレベルを測定したところ、この株の細胞内cAMPレベルはgpa2-株と同程度までしか低下していなかった。以上のことから、Gpb1はGpa2と同じ経路で、おそらくGpa2と直接結合するGサブユニットとして細胞内cAMPレベルの制御に関与していることが示唆された。そこで、gpb1とgpa2を過剰発現させた細胞から調製した抽出液に対して抗Gpa2抗体を用いた免疫沈降を行ったところ、Gpb1がGpa2と直接結合する可能性が高いことを示す結果を得た。

 gpb1遺伝子は細胞の接合型や倍数性に関係なく窒素源枯渇によって転写誘導を受けていた。このとき、窒素源枯渇の情報は、細胞内cAMPレベルを介さない経路によって伝達されていることが、cAMPが検出できないcyr1遺伝子破壊株においても窒素源飢餓によってgpb1が転写誘導を受けることから明らかになった。従って、窒素源の情報の一部がGpb1の転写制御を介してcAMP合成機構に伝達されることで、グルコースの情報と窒素源の情報が統合されていると考えられる。

(3)分裂酵母sag1遺伝子の単離と機能解析

 活性型gpa2過剰発現による接合不能を多コピーで抑圧する遺伝子として、A-キナーゼより下流で有性生殖の誘導に関与する新規の遺伝子を単離し、sag1(supressor of activated Gpa2)と名付けた。有性生殖に特異的な遺伝子の多くは、Ste11という転写因子によって栄養源飢餓下で転写誘導を受ける。ste11自身も栄養源飢餓によって転写誘導を受ける。sag1遺伝子を破壊すると、ste11遺伝子の転写が抑制され、反対にsag1遺伝子を過剰発現すると富栄養条件下でも高いレベルのste11の転写が認められた。このことから、sag1はste11より上流で栄養源枯渇による有性生殖の開始に促進的に働いていることが示唆された。

 sag1は有性生殖への移行過程だけでなく、栄養増殖においても機能していることがわかった。分裂酵母は栄養源の量やcAMPレベルに応じて細胞長を変化させる。sag1遺伝子を破壊すると、細胞が伸長し、反対にsag1遺伝子を過剰発現すると細胞が短くなって形態が球形に変化するほどであったことから、Sag1は栄養源による細胞長の制御に関与していることが示唆された。その他にも、細胞質分裂などにSag1が関与していることを示唆する結果が得られ、sag1はA-キナーゼの下流で多面的な機能を担っていると考えられる。

 以上の研究から、細胞が栄養源情報を認識、統合して細胞内cAMPレベルに変換する機構において、Gpa2とGpb1は中心的な役割を担っていると結論した。しかし、栄養源によるGpa2とGpb1の制御は、本研究によってようやくその一部が明らかにされたに過ぎない。栄養源は、かなり複雑で漠然とした情報であるので、栄養源によって三量体Gタンパク質がどのような分子機構で制御されているかということは、環境情報の処理及び統合という問題をはらんでおり、今後最も興味が持たれるところである。また、Aキナーゼカスケードの働きについての研究はこれまで、有性生殖を中心に行われていたが、sag1の解析によって、栄養源による細胞長の制御にもAキナーゼカスケードが関与していることが強く示唆された。今後、有性生殖以外のcAMP-Aキナーゼカスケードの役割について解析を進めることで、分裂酵母における栄養源の認識とそれに対する応答についての理解をより深めることができると期待される。

審査要旨

 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)は、富栄養条件下では一倍体で栄養増殖するが、栄養源が枯渇すると増殖を停止し、異なる接合型細胞(h+とh-)どうしで接合し、減数分裂および胞子形成を行う。すなわち、分裂酵母では相手方細胞の存在と栄養源の枯渇という二つの外界シグナルが細胞内に伝達されて、栄養細胞から生殖細胞への分化が決定される。このうち、栄養源枯渇の情報の一部は、細胞内cAMPレベルの低下というかたちで伝達されることが知られている。本研究は、分裂酵母の分化における栄養源認識機構を明らかにする目的で、まず新たなGタンパク質サブユニットの遺伝子gpa2を単離して解析を行い、このGタンパク質サブユニット(Gpa2)がcAMPの合成を制御すると考えられること、およびグルコースがGpa2の上流でシグナル分子として働くことを示した。ついで、分裂酵母GサブユニットGpb1がGpa2と相互作用して機能することを示し、さらに、cAMP依存性プロテインキナーゼ(Aキナーゼ)の下流で働く新規の遺伝子sag1を単離して性格付けを行って、有性生殖以外におけるcAMP-Aキナーゼカスケードの働きについて考察している。得られた結果は3章に分けて述べられている。

 第1章で申請者は、分裂酵母Gサブユニット遺伝子gpa2の単離と機能解析を述べている。申請者は細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)G1のcDNAを用いて、分裂酵母ゲノムDNAに対するクロスハイブリダーゼーションを行い、その結果、先に解析されていた接合因子受容認識に関与するGサブユニット遺伝子gpa1とは異なる、新たなGサブユニット遺伝子を単離した。gpa2と名付けたこの遺伝子は、354アミノ酸、分子量40.5kdのタンパク質をコードしていた。gpa2遺伝子を破壊した株を栄養源を豊富に含む合成培地中で培養したところ、ヘテロタリック株(片方の接合型細胞のみを含む)の場合は、細胞が短くなり、増殖速度は遅いものの、増殖は可能であった。一方、ホモタリック株(接合型変換によりh+とh-の両型が混在する)の場合は、栄養源が十分にあっても容易に接合・胞子形成し、ほとんど増殖ができなかった。すなわち、gpa2遺伝子が破壊されると、細胞は栄養源枯渇の条件なしに栄養増殖から有性生殖への切り替えをおこすことがわかった。gpa2遺伝子破壊株の示したこのような表現型は、cAMP合成酵素であるアデニル酸シクラーゼ遺伝子cyr1を破壊した株の表現型とよく似ていた。そこで、gpa2遺伝子破壊株の細胞内cAMPレベルを測定したところ、そのレベルは野生型株の三分の一程度でしかないことが判明した。

 哺乳類のGs及びGiでは、一アミノ酸の置換によってGTPase活性が低下し、エフェクターを恒常的に活性化する活性型変異が細胞のがん化を引き起こすことが報告されている。申請者はそれと相同な点変異を、部位特異的変異導入法を用いてgpa2遺伝子に導入した。この変異型Gpa2を発現すると、有性生殖過程への移行が著しく阻害され、cAMP濃度の高い株に特有な細胞形態(細胞が長い、液胞が多いなど)が観察された。また、小幅ではあるがcAMPレベルの上昇が認められた。

 以上の結果から、Gpa2が、cAMPの分解を阻害するか、あるいはcAMPの生産を促進するかのどちらかの機構によって、細胞内cAMPレベルを制御していることが示唆された。どちらの機構が働いているかを検証するために、cAMP依存性ホスホジエステラーゼを欠くpde1/cgs2遺伝子破壊株において、Gpa2の活性によるcAMPレベルの変化を観察した。pde1遺伝子を破壊するとcAMPレベルは野生型株の3〜5倍に上昇する。この株にさらに活性型gpa2変異を導入すると、そのレベルは野生型株の20倍まで上昇した。一方、gpa2-pde1-株の細胞内cAMPレベルは、pde1-株より低く、野生型株と同じ程度であった。pde1遺伝子破壊株のcAMPレベルがGpa2の活性に依存して大きく変化したことから、Gpa2はPde1を介してcAMPレベルを制御するのではなく、アデニル酸シクラーゼをエフェクターとしてcAMPの合成を制御しているものと考えられた。

 静止期にある野生型細胞をグルコースで刺激すると一過的に細胞内cAMPレベルが上昇する。Gpa2がこのようなグルコースに対する反応に関与しているかどうかを申請者は検討した。活性型gpa2変異株、gpa2遺伝子破壊株及び野生型株についてグルコースで刺激した後のcAMPレベルの変化を経時的に測定したところ、野生型株ではグルコース刺激後約4分で一過的なcAMPレベルの上昇が見られたのに対し、gpa2遺伝子破壊株ではそのような上昇は全く認められず、活性型変異株ではcAMPレベルは一気に上昇したまま高いレベルに維持されていた。このことから、Gpa2が外界のグルコースを認識する役割があることが示された。しかし、グルコースの類縁体を用いた実験から、グルコースそのものが細胞外シグナル分子として働く可能性は低く、グルコースの代謝が必要であることが示唆された。

 第2章において申請者は、分裂酵母Gサブユニット遺伝子であるgpb1の栄養源認識機構への関与を解析した。韓国のYooらは、PCRを用いた実験によって分裂酵母から初めてGタンパク質サブユニット遺伝子を単離し、gpb1と名付けている。gpb1は、317アミノ酸からなるタンパク質をコードし、ヒトG1、G2および出芽酵母STE4とアミノ酸レベルで40〜50%の相同性を持つ。申請者は、Yooらから材料の供与を受け、gpb1遺伝子破壊株がgpa2遺伝子破壊株と同様に富栄養条件下で接合・胞子形成すること、およびその表現型はgpa2あるいはcyr1を過剰発現することによって抑圧されることを明らかにした。これらの事実は、gpb1遺伝子破壊株の細胞内cAMPレベルが低下していることを示唆したため、申請者はこの株の細胞内cAMPレベルを測定した。その結果、gpb1遺伝子破壊株の細胞内cAMPレベルは、gpa2遺伝子破壊株よりは高いが、野生型株より有意に低いことが分かった。ついで、gpa2gpb1二重破壊株の細胞内cAMPレベルを測定したところ、この株の細胞内cAMPレベルはgpa2破壊株と同程度までしか低下していなかった。以上のことから、Gpb1はGpa2と同じ経路で、おそらくGpa2と直接結合するGサブユニットとして細胞内cAMPレベルの制御に関与していることが示唆された。そこで申請者は、gpb1とgpa2を過剰発現させた細胞から調製した抽出液に対して抗Gpa2抗体を用いた免疫沈降を行い、Gpb1がGpa2と直接結合する可能性が高いことを示す結果を得た。

 gpb1遺伝子は細胞の接合型や倍数性に関係なく窒素源枯渇によって転写誘導を受ける。申請者は、cAMPが検出できないcyr1遺伝子破壊株においても窒素源飢餓によってgpb1が転写誘導を受けることを示し、この系では窒素源枯渇の情報が細胞内cAMPレベルを介さずに伝達されていることを明らかにした。すなわち、窒素源の情報の一部がGpb1の転写制御を介してcAMP合成機構に伝達されることで、グルコースの情報と窒素源の情報が統合されることになる。

 第3章で申請者は、活性型gpa2過剰発現による接合不能を多コピーで抑圧する遺伝子としてsag1遺伝子を単離し、その機能を解析した。sag1遺伝子はA-キナーゼより下流で有性生殖の誘導に関与する新規の遺伝子である。有性生殖に必要とされる遺伝子の多くは、Ste11という転写因子によって栄養源飢餓下で転写誘導を受ける。ste11自身も栄養源飢餓によって転写誘導を受ける。sag1遺伝子を破壊すると、ste11遺伝子の転写が抑制され、反対にsag1遺伝子を過剰発現すると富栄養条件下でも高いレベルのste11の転写が認められた。このことから、sag1はste11より上流で栄養源枯渇による有性生殖の開始に促進的に働いていることが示唆された。

 sag1は有性生殖への移行過程だけでなく、栄養増殖においても機能していることが示された。分裂酵母は栄養源の量やcAMPレベルに応じて細胞長を変化させる。sag1遺伝子を破壊すると、細胞が伸長し、反対にsag1遺伝子を過剰発現すると細胞が短くなって形態が球形に変化するほどであったことから、Sag1は栄養源による細胞長の制御に関与していることが示唆された。さらに、Sag1が細胞質分裂にも関与していることを示唆する結果が得られ、sag1はA-キナーゼの下流で多面的な機能を担っていると考えられた。

 申請者が行った以上の研究から、細胞が栄養源情報を認識、統合して細胞内cAMPレベルに変換する機構において、Gpa2とGpb1は中心的な役割を担っていると結論される。栄養源は、かなり複雑で漠然とした情報であり、栄養源がどのような分子機構で認識されているかには多くの謎が残されている。本研究は、Gpa2とGpb1という三量体Gタンパク質が栄養源情報の処理に関与していることを示し、この分野に大きな橋頭堡を築いた。また、Aキナーゼカスケードの働きについては、これまで有性生殖を中心に解析されてきたが、sag1遺伝子の解析によって、栄養源による細胞長の制御にもAキナーゼカスケードが関与していることが強く示唆された。今後、有性生殖制御以外の系におけるcAMP-Aキナーゼカスケードの役割について解析を進めることで、分裂酵母における栄養源の認識とそれに対する応答についての理解の深化が期待される。

 以上、本研究で申請者が新たに見いだした知見は博士(理学)の称号を得るに値するものと委員会は全員一致で判断した。なお、共同研究としてなされた部分について、申請者が最も主要に寄与していることを確認済みである。

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