No | 111057 | |
著者(漢字) | 豊田,浩史 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | トヨタ,ヒロフミ | |
標題(和) | 液状化地盤の側方流動模型実験と動的予測手法の開発 | |
標題(洋) | Shaking Table Tests and Analytical Prediction on Lateral Flow of Liquefied Ground | |
報告番号 | 111057 | |
報告番号 | 甲11057 | |
学位授与日 | 1995.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第3301号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 土木工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | これまでに飽和したゆるい砂地盤は地震によって液状化を起こし、構造物に多大な被害を与えてきた。液状化時には構造物および地盤の沈下または軽量構造物の浮き上がりばかりでなく、近年側方流動によっても多くの被害が生じている。このような側方流動は、元々安定だった地盤が液状化することにより不安定になりわずかな載荷力で側方に大変形し、永久変位として残るものである。側方流動は地震動停止後も進行していたことが数多く報告されている。砂のような粒状材料は、ある程度密であればせん断変形とともにダイレタンシーにより強度が回復し、静的な載荷での変形は有限なものとなる。しかし非常にゆるい砂は、強度が回複せず静的な自重のみで大変形、いわゆる流動破壊を起こす。このような流動破壊を起こす地盤は稀ではあるが非常にゆるく堆積している地盤、例えば地盤改良をしていない埋立地,鉱さいダム,埋め戻し地盤などの人工地盤や水中で穏やかに堆積した地盤などでは流動破壊を起こした例が報告されている。このような側方流動について多くの研究成果が発表されているが、そのメカニズムの統一的な解明には至っていないのが現状である。本研究では、側方流動のメカニズムおよびその挙動特性を調べるため1Gのもとで模型振動台実験を行った。振動台実験では、従来から土の力学的変形特性を表すためによく用いられている応力-ひずみの関係を正確に求めるのは非常に困難であるが、ある微小要素としてでなく地盤全体の挙動をみられるという長所もある。そこでこのような長所を生かし、流動する地盤を簡潔に解析モデル化することを本研究の最終目的とする。 すでに様々な研究機関によって側方流動に関する振動台実験が試みられているが、振動停止後の流動の再現には至っていない。この理由として透水時間の問題が挙げられている。つまり模型地盤では、実地盤に比べサイズが小さいため上昇した間隙水圧が瞬時に消散してしまうというわけである。そこで模型実験では、地盤が大変形を起こすまで加振を続ける必要があると考えられている。間隙水圧が低下する、つまりは地盤流動が止まる理由を考えてみると次の2つが挙げられる。まずせん断変形に伴うダイレタンシーの作用による間隙水圧の低下、次に液状化後砂粒子が沈下を起こし砂粒子間の骨格構造が回復することによる間隙水圧の低下(消散)である。前者をダイレタンシーによる間隙水圧低下、後者を時間による間隙水圧低下と呼ぶことにする。もし時間による間隙水圧低下で側方流動が止まるというのであれば、模型地盤といえども地盤上方では、数十秒程度の液状化継続は可能でありその間は流動も継続しなければならない。しかし実際は振動停止後瞬時に側方変位も止まるという矛盾が起こっている。従って流動が止まるのにはダイレタンシーによる間隙水圧低下が重要な要因であるということがわかる。 側方流動の重要な因子の1つであるダイレタンシー特性は応力レベルに依存することが知られている。それによると大きい拘束圧の方がダイレタンシー特性は圧縮的となりせん断変形とともに間隙水圧が発生しやすい、つまりは流動しやすいということである。これより実地盤より拘束圧の低い模型地盤でダイレタンシー特性を実地盤と似せるためには、実地盤よりゆるい地盤をつくる必要がある。そこで、非常にゆるい地盤の作製が可能である湿潤堆積法(Moist placement method)とその突固め(Moist tamping method)を用いて地盤を作製した。 まず定性的考察を行う目的で小型土槽を用いて実験を行った。この実験では液状化させるために衝撃加振を用い、振動停止後の変形を観測した。その結果湿潤堆積法は水中堆積法や乾燥堆積法と比べかなりゆるく堆積でき、流動しやすい地盤をつくるのに有効であることがわかった。さらに10%程度粘着力のない細粒分を混入することにより容易に大きな変位が得られるようになった。また間隙水圧の消散を押さえるため間隙水として粘性流体を使用した実験も行ったが、粘性流体は間隙水圧の消散を押さえるのには有効であるが、流動破壊を再現するのには逆効果であり大変形は起こらなかった。 次に小型土槽実験で得た基礎知識をふまえ、流動現象を忠実に再現し定量的解析を行う目的で中型土槽での実験を実施した。ここでは静的な載荷で進行する流動(自由流動)と動的繰り返し載荷のもとでの流動(振動流動)について挙動を調べるため、衝撃加振と繰り返し加振による実験を実施して次のようなことがわかった。自由流動は地盤の傾きによるせん断応力と残留強度が等しくなったところで止まる。また非常にゆるい地盤(初期間隙比e0.99)においては、加振方法の影響を受けず流動している地盤は流体のような挙動をする。地盤が密になると加振の種類により流動地盤も影響を受け、自重のみによる流動は起こらなくなり振動が止まると流動も止まる。また強い加振を与えるほど地盤の軟化が進み、速い速度で流動するようになるが入力波の周波数の影響は受けない。 このような実験結果に忠実に基づいた数値計算モデルの開発を行った。まず変位量予測であるが、実験結果より水平変位は深さ方向に正弦曲線分布をすると仮定した。この仮定により流動地盤の解析がかなり簡潔に行えるようになった。次に地盤の全ポテンシャルエネルギー(ひずみエネルギーと位置エネルギー)を計算し、これが最小となる傾きで変形が止まるとした。入力データとしては、解析する地盤形状(境界条件を含む)とその地盤が液状化したときのせん断剛性G、残留強度のみでよい。この方法により地盤のあらゆる場所で変位量が求められる。 次に地盤流動が時間とともに進展する様子を数値計算モデルで追跡することを試みた。すでに最終変位U(x,z)は上記の方法で計算可能になっているので、変位uはu(x,z,t)=(t)U(x,z)と時間の項を変数分離できると仮定した。ここで(t)は時間とともに変動するパラメータであり0〜1の値をとる。流動する地盤の運動エネルギー、ポテンシャルエネルギーを計算し、Lagrangeの運動方程式に代入すると、(t)に関する微分方程式が得られる。しかしこのままでは、流動が止まった釣合の位置を中心に振動が起こる。なるほど水のように粘性の小さなものは振動を起こすが、流動する地盤は振動は起こさずに止まることが実験結果より示されている。そこでこの微分方程式に散逸関数として粘性項を追加した。つまり砂粒子の衝突や摩擦でエネルギーが消耗されることを粘性減衰を使って表現したわけである。実験結果にあうように粘性を求めると、自由流動(流動中に振動は作用していない)では減衰定数h=0.63という値が得られた。この数値計算モデルにより自由流動についてはほぼ問題なく、振動流動についても地盤密度と振動の強さにより減衰定数を算定すればこのモデルの適用が可能であることがわかった。 実地盤への適用であるが、実験においてはサイズの違いによる力学的変形特性の差異(相似則)は考慮に入れており実地盤と同じ流動現象が再現できている。また数値モデル化の際、物理法則を用いているためこれもサイズに依存されない。ただし散逸関数はそのメカニズムがよくわからないため注意を要する。そこで本研究では実験結果との対応に基づき、減衰定数hで整理することでサイズに影響されずにパラメータを決定でき、実験結果をうまく説明できるということを示す。 | |
審査要旨 | 地震によって砂質地盤が液状化したときの被害形態の一つとして、地盤が水平方向に移動するものがある。その結果埋設物、ライフライン、護岸構造などが著しい変状を被り、機能喪失や破壊に至る。本論文では模型実験を通じてこの地盤流動現象を観察し、流動機構を詳細に検討するとともに、変位の時刻歴予測法の開発をも試みた。 第一章は序論であり、研究の意義を述べている。ゆるい砂質地盤が液状化するとせん断剛性や強度を減少あるいは喪失し、支持力不足から構造物が沈下したり、あるいは埋設物が浮き上がったりすることが、従来問題とされてきた。また、地中から砂や水が噴出したあとで地盤沈下が残ることも、問題視されてきた。これらに加えて近年、せん断剛性の減少から地盤が水平方向へ移動し、埋設物などに変形、被害を生じさせることが重要視されるようになってきた。 第二章で既往の研究を振り返った。過去の研究によれば、地盤の流動は重力の作用方向と密接な関係があること、つまり斜面ならその下り勾配方向に地盤が動くこと、変位の深さ方向分布が正弦曲線で近似できることなどがわかっていた。それに基づき、ポテンシャルエネルギー最小原理を利用して、起こりうる変位の上限値(最大値)を推定することができるようになっていた。しかしこれは地盤の流動状態が十分長い時間続くことを仮定しており、現実の変位より大きい過大評価となる恨みがあった。振動台模型実験によれば、超ゆる詰め砂を除き、振動終了とともに地盤の流動も停止し、仮定は満足されない。予測を現実の変位と一致させるためにも、振動の継続とともに地盤が動く様子を追跡し、変位の時刻歴を予測する必要があった。 第三章で、振動台模型実験の手法について検討した。液状化の振動台模型実験では、原地盤にあわせて相対密度40%程度のゆる詰め砂地盤を振動させることが多い。しかし砂の応力ひずみ、ダイレイタンシー関係は拘束圧の影響を強く受け、密度だけを原地盤と模型とで合わせればよい、というものではない。流動しやすい地盤では、応力ひずみ関係がピーク強度ののち軟化、残留強度状態をしめす。このようなふるまいは、原地盤の比較的高い拘束圧の下では相対密度40%程度の砂に見られる。しかし振動台模型実験のような低拘束圧の下では、密度をはるかに小さくしなければ、軟化、残留強度状態は見られない。そこで本研究では、湿らせた砂を土槽の中に静かに置いて行く方法(湿潤堆積法)を新たに採用し、相対密度が-20%に至るきわめてゆるい砂地盤を作成することができた。 はじめに、長さ1メートルの小型土槽を用い、定性的な研究を行なった(第四章)。土槽の中に斜面模型を造成し、勾配方向に一瞬の衝撃を与えて液状化を起こした。その後地盤は自重の下で斜面下り方向へ動いた。この小型実験は、その後のより大きな土槽による実験方法の方法を決定するためのもので、湿潤堆積法で流動しやすい模型地盤を造れることが示された。砂をミルで砕いた細粒分を10%ほど混入すると、地盤が流動しやすくなることも判った。過剰間隙水圧の消散を遅らせ、液状化状態を長く続けるためにセルロースを水に溶かした粘性流体を間隙流体として使った実験も試みた。しかし粘性のため地盤が流動しにくくなり、不適当であることがわかった。 次に、長さ2メートルの土槽を用いた実験を行なった。第5章は装置性能の検証を、第6章は実験結果を報告している。地盤の変位を測定するために巻取り式変位計を埋め込むとともに、地盤側面に染め砂で格子模様をつけ、透明な土槽側面を通してその動きを観察し、変位を記録した。変位計は精密だが地盤中の一点の変位しか観測できないのに対し、染め砂の観察は粗いながらも、地盤全体の変位/変形を明確に示す特長がある。加振には模型斜面勾配方向に衝撃を与え、その後自重で流動させる自由流動タイプと、同方向に一定周波数で振動を続ける振動流動タイプとがある。砂の密度を変化させて自出流動試験を繰り返した。きわめてゆるい砂地盤は自重で流動し、表面が水平になって動きを停止した。それに対し、やや密度を高めると流動しにくくなり、変位がまだ小さく表面が傾いたままで、動きを停止した。 第七章では実験結果を詳細に検討した。自由流動試験で運動が停止したときの勾配から砂の残留せん断強度を決定し、これと砂密度との関係を得た。砂の密度は最終変位に強く影響はするものの、運動停止までの時間は密度によらず一定であることもわかった。これから、流動時間、引いては流動速度を説明するには、残留強度ではなく、たとえば粘性の概念を導入しなければならないことがうかがわれた。次に振動流動試験では、加振を継続すると流動は長時間続き、地表が水平になって始めて運動が停止した。過去に他で行なった実験と併せ、加振中の砂の残留強度が自由流動中の強度よりかなり小さいことが判明した。したがって、強度の小さい地震動継続中は地盤が流動し、振動停止と共に強度が回復して地盤流動も終了する、と考えられる。加振周波数は流動現象に影響しないが、加振の強さ、すなわち加速度が大きいと、流動速度も大きくなることがわかった。 以上のような知見を元に第八章で流動予測手法を提案した。変位の上限値Uはすでに予測できるようになっている。任意の時刻tにおける変位uを(t)×Uで表わすと、ラグランジュの運動方程式を利用して、に関する一自由度系運動方程式を導くことができた。 得られた方程式を第九章で解くことにより、実験で観測された流動挙動を時間領域で追跡することができた。実地盤にもこの手法を適用し、震動終了時の変位計算値と実測値とがほぼ一致した。 第十章は全体のまとめ、結論である。 以上を要するに、ゆる詰め砂地盤の側方流動量はその重要性にもかかわらずこれまで推定困難とされてきたが、本研究によってそれを定量的に予測することが可能になった。この成果は土質工学と耐震工学の分野の発展に寄与するところが大きい、と考えられる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54446 |