学位論文要旨



No 111059
著者(漢字) 吉田,輝
著者(英字)
著者(カナ) ヨシダ,テル
標題(和) 砂の破壊に伴うひずみの局所化とせん断層の発生
標題(洋)
報告番号 111059
報告番号 甲11059
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3303号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 石原,研而
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 堀井,秀之
 東京大学 助教授 古関,潤一
内容要旨

 地盤の支持力を評価する際に必要となる、せん断層における「応力〜変形」関係の法則性を、粒度の比較的揃った各種の砂、礫およびガラスビーズの密詰め供試体を用いて調べた。せん断層の「応力〜変形」関係に影響を及ぼす重要な要因と考えられる、(1)粒径、(2)材料の破砕・圧縮特性、(3)粒子形状、の3つに対して定量的な議論を展開した。

 平面ひずみ圧縮試験は、姫礫(平均粒径D50=2.01mm)では供試体寸法が高さ57cm、幅21cm、長さ24cmの直方体である大型平面ひずみ圧縮試験装置により実施した。なお、董ら1)が同様の装置を用いて行った姫礫および磯美礫(D50=6.80mm)各1本の試験についてもあわせて解析した。それ以外の材料、すなわち豊浦標準砂(日本、平均粒径D50=0.206mm)、シルバー・レイトン・バザード砂(英国、同0.681mm)、ティチノ砂(イタリア、同0.527mm)、ホストン砂(フランス、同0.408mm)、カールスルーエ砂(ドイツ、同0.46mm)、オタワ砂(米国、同0.174mm)、モントレー砂(米国、同0.484mm)、ガラスビーズ(日本、同0.499mm)および他の若干の砂では供試体寸法高さ20cm、幅8cm、長さ16cmの中型平面ひずみ圧縮試験装置を用いた。空中落下法により作製した相対密度70〜80%程度の比較的密な乾燥供試体を使用し、拘束圧一定、軸ひずみ速度一定(大型:0.0625%/分、中型:0.125%/分)で上下方向に圧縮破壊させた。各材料につき、原則として拘束圧0.8kgf/cm2、4.0kgf/cm2の2通りの試験を行った。ゴム製メンブレン(大型:0.8mm厚、中型:0.3mm厚)の表面には、5mmの方眼を印刷した。2枚の拘束板のうち片側の透明なアクリル製拘束板に垂直な方向から、載荷前および載荷中に適宜写真撮影した。ピーク荷重直前から残留状態に至るまでの間は、軸ひずみ0.1〜0.2%毎の密な間隔で撮影した。そのような写真から、方眼線の交点(格子点)の位置を写真読取り装置2)を用いて精度よく読み取った。

 拘束圧0.8および4.0kgf/cm2のいくつかの試験について、最大せん断ひずみ1-3の等値線図からせん断層の発生・進展の様子を観察したところ、以下のような共通の現象が観察された。応力レベルがピークに達する直前に、すでにひずみの集中した層状の領域が供試体の内部に2本から数本現れた。このうちの1本だけが、荷重がピークに達するのとほぼ同時に急激に進展し、供試体を貫通し、せん断層となった。ピーク以後は、せん断変形はせん断層内でのみ生じ、またせん断層内では残留状態に到るまでの間、体積が増加するのに対し、それ以外の部分では逆に体積が収縮することが分かった。せん断層の方向即ち「3方向(水平方向)に対するせん断層の傾斜角」は、粒径が大きいほど、拘束圧が高いほど、横に寝る傾向があった。このことは、Vermeer3)によって理論的に説明されている通りである。

 せん断層の発達は、特にその初期において、せん断層全体にわたって同時進行的でなく、またせん断層上のある地点における局所的な応力を測定することも困難である。しかし、せん断層がはっきりと形成された後は、せん断層の外側の部分はほぼ剛体的に相対移動することから、せん断層における「応力〜変形」関係として供試体全体で平均したものを用いても問題ないと考えられる。そこで、供試体平均の主応力比R=1/3をピークで1、残留状態で0となるように正規化した指標Rnと、格子点の変位から求めた「せん断層を挟んでの相対的横ズレ量us」、「せん断層の膨張量un」の関係をそれぞれの試験ごとに求めた。残留状態に到るまでに生じるus、unは、D50が大きいものほど大きくなっていたが、D50以外の2次的支配要因もあるようであった。そのうち、最も重要と思われる、粒子の破砕性、粒子形状の2点に注目し、まず、これらの定量的な評価をおこなった。

 粒子の破砕性を調べるため、一次元高圧圧縮試験装置を製作し、平面ひずみ圧縮試験を実施したすべての材料を対象に、一連の一次元圧縮試験を実施した。供試体は直径4cm、高さ2.5cmの円柱形であり、一定の軸ひずみ速度0.2%/分で50、100、200、400、750kgf/cm2のいずれかまで圧縮応力を与えた後、除荷・解体し、試料をふるい分けした。試料はゆる詰め・密詰めの両方を用いた。大部分の材料で、密詰め・ゆる詰め両方の場合で、軸応力の増加に対する軸ひずみの変化率(da/da)はある応力レベル(破砕応力pc)まではほぼ一定であるが、それを越えると、粒子破砕が起こるために一時的に大きくなり、その後ゼロに漸近した。「軸応力〜間隙比」曲線について見ると、供試体の初期密度に関係なく最終的には同じ曲線上に到達していた。「軸応力〜塑性軸ひずみ」曲線に現れる、載荷の比較的初期の直線部分の傾きを初期塑性圧縮係数mi、一度カーブした後再び現れる直線部分の傾きを最大塑性圧縮係数mcと定義した。塑性軸ひずみは全軸ひずみから繰り返し載荷によって調べた弾性成分を差し引いて求め、「軸応力〜塑性軸ひずみ」曲線における2つの直線部分における接線の延長の交点での応力を破砕応力pcとした。破砕応力pcは材料によって異なるほか、供試体が密になるほど大きくなる傾向があった。ふるい分け試験の結果、最大圧縮応力が大きかったものほど粒子破砕を起こしていた。また、ゆる詰め試料のほうが、密詰め試料よりも粒子破砕が著しかった。最大圧縮応力が破砕応力以下の試料では、粒子破砕はほとんど生じていなかったが、破砕応力を越えて載荷した試料では粒子破砕が目立った。

 各材料で平面ひずみ圧縮試験を実施した時の供試体密度における初期塑性圧縮係数miを、一次元圧縮試験から求めた「mi〜供試体密度」曲線を使い内挿によって求めた。miは、破砕応力が高いほど小さくなっていたことから、破砕性の指標として使用した。

 粒子形状については、客観的な指標の導入が必要である。従来しばしば用いられてきたWadellのRoundness、LeedsのTotal degree of angurarityなどの指標は元々堆積学的視点に基づいており、工学的有用性が疑問視されるのみならず、測定者のクセ・熱練度の違いなどによる誤差が生じやすく、また測定が煩雑である。これに代えて、コントラストのはっきりした粒子の画像をパーソナル・コンピュータで処理することにより、各種の粒子形状指標が迅速かつ客観的に求められる。本研究では、平面に投影された粒子の輪郭線の形状を周期関数(偏角関数)として表し、そのフーリエ・スペクトルを利用して、簡単な指標F20を定義した。F20は、円(球)の場合に最小値0をとり、形状が円からはずれるに従って大きい値をとる。

 粒径D50、初期塑性圧縮係数mi、形状の指標F20を用いてせん断層における変形を整理してみたところ、以下のような結果が最終的に得られた。

 せん断層の幅は、D50のおよそ7〜20倍の範囲に収まっており、従って、粒径が大きいほど、厚かった。さらに、粒子形状が球形に近いほど、拘束圧が高いほど、薄くなる傾向が見られた。拘束圧の増加に伴うせん断層幅の減少率は、圧縮性が大きい材料ほど大きかったが、粒子形状の影響は認められなかった。

 残留状態に到るまでの間に生じる「せん断層での横ズレ」量は、D50が大きい材料ほど、大きかった。この「横ズレ」は、同時に、粒子形状が球に近いほど、かつ、拘束圧が高いほど、小さいようであった。拘束圧の増加に伴う上記の「横ズレ」量の減少は、圧縮性が大きい材料において、より顕著に観察された。

 残留状態に到るまでに生じるせん断層内のせん断ひずみは、粒径に関わらず、ほぼ40〜90%の範囲に収まっていた。粒子形状との相関は明確ではなかったが、拘束圧の増加に従って、圧縮・破砕特性の影響が現れてきていた。即ち、圧縮性の大きい材料ほど、上記のせん断ひずみが大きかった。

 以上のように、拘束圧0.8〜4.0kgf/cm2の範囲内で、密な供試体におけるせん断層の構成関係に及ぼす、主要な要因、即ち、粒径、材料の粒子形状、材料の破砕性の影響が、拘束圧の影響とともに、明らかにされた。他の条件、即ち粒度分布(配合の良し悪し)、供試体の初期密度等の影響、あるいはより高圧のもとでの特性については、さらなる研究が必要である。

参考文献1)董軍・中村和之・佐藤剛司・龍岡文夫(1993):"大型平面ひずみ圧縮試験における粒状体のせん断層と粒子寸法の影響"、粒状体の力学シンポジウム発表論文集。2)吉田輝(1992):"砂の平面ひずみ圧縮試験におけるせん断層の観察"、東京大学修士論文。3)Vermeer P.A.(1990):"The orientation of shear bands in biaxial tests",Geotechnique,Vol.40,No.2,223-236.
審査要旨

 砂・礫のような粒状体は、盛土・地盤の主要な構成材料である。斜面のすべり破壊や基礎の荷重による地盤破壊の安定解析の従来の方法では、厚さの無い破壊面を想定し、その面における極限釣合いの検討を行い、最も安全率が小さい臨界破壊面を捜し出す方法がとられる。一方、より高度な有限要素法などの数値解析では、地盤を連続体と仮定する。何れの方法でも、粒状体が本来、粒の集合体であるために有する不連続体の性質を無視しているために、様々な破壊現象が説明出来ないことが判明してきている。例えば、地盤の破壊に伴って生じる破壊面は厚さがあり、その発達は極限釣合法による古典的安定解析法で仮定しているように瞬時ではなく、進行的である。

 厚さを有する破壊面は、せん断層と呼ばれている。その厚さと物性、即ちせん断応力〜せん断変形〜体積変化特性(ダイレイタンシー特性)関係が、地盤の破壊メカニズムに影響を与えることや、せん断層の厚さとその変形特性が、粒子径等の粒子特性に強く影響されていることは、想像に難くない。しかし、そのことを詳細にかつ系統的に検討した研究は、これまでにない。本研究は、広い範囲の粒子径を持つ多くの種類の貧配合の砂・礫を用いて、上記のことを研究したものであり、せん断層に関するいくつかの重要な法則性を見いだしている。

 第1章では、せん断層の力学的特性と幾何学特性が、土質力学の安定解析において持つ意味を説明するとともに、この点に関する従来の研究のまとめを行っている。

 第2章では、本研究で用いた平均粒径が0.176mm-6.80mmの範囲にあり、粒子形状がかなり異なり、均等係数が1.36-2.13の範囲にある貧配合の12種の砂・礫の物理特性を示している。これらの試料を用いて行った平面ひずみ圧縮試験に用いた試験装置、試験方法を詳細に説明している。

 第3章では、平面ひずみ圧縮試験における供試体の局所的ひずみ分布とせん断層の発生・発達の観察方法、その変形特性の測定法を説明している。その目的のために、平面ひずみ圧縮試験の載荷開始前から残留状態に至るまで、供試体の中間主応力面を多数写真撮影している。試験後、その写真を用いて供試体の局所的変形を、供試体を被った薄いメンブレン上に印刷してある特別なラテックスゴム製の格子の変位を30ミクロンの精度で読み取ることで求めている。そのために開発した特別の写真読み取り装置と自動解析システムを、説明している。

 第4章では、測定した供試体の中間主応力面でのひずみ分布から、平面ひずみ圧縮試験におけるひずみの局所化を議論している。すなわち、ピーク直前に供試体にいくつかのひずみが局所化した帯が発生するが、ピーク強度発揮直後からその中の一つの帯にひずみが集中し明確なせん断層に発達して行く。その一方で、他の部分は除荷変形する。また、それぞれの試験試料を用いて拘束圧0.8kgf/cm2、2.0kgf/cm2,4.0kgf/cm2で求めたせん断層の変形特性(せん断応力レベル〜せん断変形量〜ダイレイタンシー量関係)を示している。正規化の方法として、まず変形量を試料の平均粒径で除すると、大幅に異なった粒径を持つ多種の試料に対して、かなり一義的なせん断層の変形特性が得られることを示している。しかし、粒子特性と拘束圧の相違により、この正規化法だけでは一義的な結果とならないことを指摘している。また、せん断層の厚さもほぼ平均粒径に比例するが、広い範囲の試料に対して非常に良い比例関係にはないことを指摘している。

 第5章は、せん断層の変形特性に影響を与える要因として、平均粒径についで重要なのは粒子の破砕特性であろう、と言う予測を立てて、その定量化のために、各試料の高圧までの一次元圧縮試験を行っている。この目的のために、新たに開発した試験法を説明している。その得られた圧縮曲線と試験後に求めた粒径加積曲線を示している。その結果、粒子破砕が開始する圧力で粒子破砕性を定量的に表現できるが、その圧力以下での塑性軸ひずみ〜圧力関係から求めた初期圧縮性に相関があることを示している。

 第6章では、粒子形状も、せん断層の変形特性に影響を与える重要な要因であろうと言う予測を立てて、その定量化を試みた結果を説明している。この目的のために、粒子のCCDカメラを用いた拡大撮影をし、粒子輪郭線とその接線方向の勾配の半径方向に沿う微係数(偏角関数)のフーリエ係数の分布を自動的に求めるシステムを開発した。この係数の20次までの合計が、粒子が角ばっているほど大きくなることを見いだし、粒子凹凸度と定義していて、その数値を定量的に求め、その客観性を検討している。

 第7章は、4,5,6章で述べた成果を総括している。まず、せん断層のせん断応力レベル〜せん断変形/せん断層幅関係を求めると、せん断層のせん断応力レベル〜せん断変形/平均粒径関係よりもはるかに一義的な関係が得られ、結局40%-85%程度のせん断ひずみがせん断層内に生じると応力状態がピークから残留状態になることを示している。また、粒子凹凸度が大きいほど、低圧における残留状態に至るまでのせん断層のせん断変形/平均粒径の比が大きくなること、粒子破砕性が高いほど、拘束圧の増加による残留状態に至るまでのせん断層のせん断変形/平均粒径の比の減少度が大きいことを示している。

 第8章は、結論である。

 以上要するに、本研究はこれまで従来ほとんど不明であった粒状体の破壊の伴うひずみの局所化とせん断層の発生・発達とその幾何学的力学的特性について多くの点を明らかにしていて、土質工学の分野の研究と技術の進展に貢献する所が大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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