地盤の支持力を評価する際に必要となる、せん断層における「応力〜変形」関係の法則性を、粒度の比較的揃った各種の砂、礫およびガラスビーズの密詰め供試体を用いて調べた。せん断層の「応力〜変形」関係に影響を及ぼす重要な要因と考えられる、(1)粒径、(2)材料の破砕・圧縮特性、(3)粒子形状、の3つに対して定量的な議論を展開した。 平面ひずみ圧縮試験は、姫礫(平均粒径D50=2.01mm)では供試体寸法が高さ57cm、幅21cm、長さ24cmの直方体である大型平面ひずみ圧縮試験装置により実施した。なお、董ら1)が同様の装置を用いて行った姫礫および磯美礫(D50=6.80mm)各1本の試験についてもあわせて解析した。それ以外の材料、すなわち豊浦標準砂(日本、平均粒径D50=0.206mm)、シルバー・レイトン・バザード砂(英国、同0.681mm)、ティチノ砂(イタリア、同0.527mm)、ホストン砂(フランス、同0.408mm)、カールスルーエ砂(ドイツ、同0.46mm)、オタワ砂(米国、同0.174mm)、モントレー砂(米国、同0.484mm)、ガラスビーズ(日本、同0.499mm)および他の若干の砂では供試体寸法高さ20cm、幅8cm、長さ16cmの中型平面ひずみ圧縮試験装置を用いた。空中落下法により作製した相対密度70〜80%程度の比較的密な乾燥供試体を使用し、拘束圧一定、軸ひずみ速度一定(大型:0.0625%/分、中型:0.125%/分)で上下方向に圧縮破壊させた。各材料につき、原則として拘束圧0.8kgf/cm2、4.0kgf/cm2の2通りの試験を行った。ゴム製メンブレン(大型:0.8mm厚、中型:0.3mm厚)の表面には、5mmの方眼を印刷した。2枚の拘束板のうち片側の透明なアクリル製拘束板に垂直な方向から、載荷前および載荷中に適宜写真撮影した。ピーク荷重直前から残留状態に至るまでの間は、軸ひずみ0.1〜0.2%毎の密な間隔で撮影した。そのような写真から、方眼線の交点(格子点)の位置を写真読取り装置2)を用いて精度よく読み取った。 拘束圧0.8および4.0kgf/cm2のいくつかの試験について、最大せん断ひずみ1-3の等値線図からせん断層の発生・進展の様子を観察したところ、以下のような共通の現象が観察された。応力レベルがピークに達する直前に、すでにひずみの集中した層状の領域が供試体の内部に2本から数本現れた。このうちの1本だけが、荷重がピークに達するのとほぼ同時に急激に進展し、供試体を貫通し、せん断層となった。ピーク以後は、せん断変形はせん断層内でのみ生じ、またせん断層内では残留状態に到るまでの間、体積が増加するのに対し、それ以外の部分では逆に体積が収縮することが分かった。せん断層の方向即ち「3方向(水平方向)に対するせん断層の傾斜角」は、粒径が大きいほど、拘束圧が高いほど、横に寝る傾向があった。このことは、Vermeer3)によって理論的に説明されている通りである。 せん断層の発達は、特にその初期において、せん断層全体にわたって同時進行的でなく、またせん断層上のある地点における局所的な応力を測定することも困難である。しかし、せん断層がはっきりと形成された後は、せん断層の外側の部分はほぼ剛体的に相対移動することから、せん断層における「応力〜変形」関係として供試体全体で平均したものを用いても問題ないと考えられる。そこで、供試体平均の主応力比R=1/3をピークで1、残留状態で0となるように正規化した指標Rnと、格子点の変位から求めた「せん断層を挟んでの相対的横ズレ量us」、「せん断層の膨張量un」の関係をそれぞれの試験ごとに求めた。残留状態に到るまでに生じるus、unは、D50が大きいものほど大きくなっていたが、D50以外の2次的支配要因もあるようであった。そのうち、最も重要と思われる、粒子の破砕性、粒子形状の2点に注目し、まず、これらの定量的な評価をおこなった。 粒子の破砕性を調べるため、一次元高圧圧縮試験装置を製作し、平面ひずみ圧縮試験を実施したすべての材料を対象に、一連の一次元圧縮試験を実施した。供試体は直径4cm、高さ2.5cmの円柱形であり、一定の軸ひずみ速度0.2%/分で50、100、200、400、750kgf/cm2のいずれかまで圧縮応力を与えた後、除荷・解体し、試料をふるい分けした。試料はゆる詰め・密詰めの両方を用いた。大部分の材料で、密詰め・ゆる詰め両方の場合で、軸応力の増加に対する軸ひずみの変化率(da/da)はある応力レベル(破砕応力pc)まではほぼ一定であるが、それを越えると、粒子破砕が起こるために一時的に大きくなり、その後ゼロに漸近した。「軸応力〜間隙比」曲線について見ると、供試体の初期密度に関係なく最終的には同じ曲線上に到達していた。「軸応力〜塑性軸ひずみ」曲線に現れる、載荷の比較的初期の直線部分の傾きを初期塑性圧縮係数mi、一度カーブした後再び現れる直線部分の傾きを最大塑性圧縮係数mcと定義した。塑性軸ひずみは全軸ひずみから繰り返し載荷によって調べた弾性成分を差し引いて求め、「軸応力〜塑性軸ひずみ」曲線における2つの直線部分における接線の延長の交点での応力を破砕応力pcとした。破砕応力pcは材料によって異なるほか、供試体が密になるほど大きくなる傾向があった。ふるい分け試験の結果、最大圧縮応力が大きかったものほど粒子破砕を起こしていた。また、ゆる詰め試料のほうが、密詰め試料よりも粒子破砕が著しかった。最大圧縮応力が破砕応力以下の試料では、粒子破砕はほとんど生じていなかったが、破砕応力を越えて載荷した試料では粒子破砕が目立った。 各材料で平面ひずみ圧縮試験を実施した時の供試体密度における初期塑性圧縮係数miを、一次元圧縮試験から求めた「mi〜供試体密度」曲線を使い内挿によって求めた。miは、破砕応力が高いほど小さくなっていたことから、破砕性の指標として使用した。 粒子形状については、客観的な指標の導入が必要である。従来しばしば用いられてきたWadellのRoundness、LeedsのTotal degree of angurarityなどの指標は元々堆積学的視点に基づいており、工学的有用性が疑問視されるのみならず、測定者のクセ・熱練度の違いなどによる誤差が生じやすく、また測定が煩雑である。これに代えて、コントラストのはっきりした粒子の画像をパーソナル・コンピュータで処理することにより、各種の粒子形状指標が迅速かつ客観的に求められる。本研究では、平面に投影された粒子の輪郭線の形状を周期関数(偏角関数)として表し、そのフーリエ・スペクトルを利用して、簡単な指標F20を定義した。F20は、円(球)の場合に最小値0をとり、形状が円からはずれるに従って大きい値をとる。 粒径D50、初期塑性圧縮係数mi、形状の指標F20を用いてせん断層における変形を整理してみたところ、以下のような結果が最終的に得られた。 せん断層の幅は、D50のおよそ7〜20倍の範囲に収まっており、従って、粒径が大きいほど、厚かった。さらに、粒子形状が球形に近いほど、拘束圧が高いほど、薄くなる傾向が見られた。拘束圧の増加に伴うせん断層幅の減少率は、圧縮性が大きい材料ほど大きかったが、粒子形状の影響は認められなかった。 残留状態に到るまでの間に生じる「せん断層での横ズレ」量は、D50が大きい材料ほど、大きかった。この「横ズレ」は、同時に、粒子形状が球に近いほど、かつ、拘束圧が高いほど、小さいようであった。拘束圧の増加に伴う上記の「横ズレ」量の減少は、圧縮性が大きい材料において、より顕著に観察された。 残留状態に到るまでに生じるせん断層内のせん断ひずみは、粒径に関わらず、ほぼ40〜90%の範囲に収まっていた。粒子形状との相関は明確ではなかったが、拘束圧の増加に従って、圧縮・破砕特性の影響が現れてきていた。即ち、圧縮性の大きい材料ほど、上記のせん断ひずみが大きかった。 以上のように、拘束圧0.8〜4.0kgf/cm2の範囲内で、密な供試体におけるせん断層の構成関係に及ぼす、主要な要因、即ち、粒径、材料の粒子形状、材料の破砕性の影響が、拘束圧の影響とともに、明らかにされた。他の条件、即ち粒度分布(配合の良し悪し)、供試体の初期密度等の影響、あるいはより高圧のもとでの特性については、さらなる研究が必要である。 参考文献1)董軍・中村和之・佐藤剛司・龍岡文夫(1993):"大型平面ひずみ圧縮試験における粒状体のせん断層と粒子寸法の影響"、粒状体の力学シンポジウム発表論文集。2)吉田輝(1992):"砂の平面ひずみ圧縮試験におけるせん断層の観察"、東京大学修士論文。3)Vermeer P.A.(1990):"The orientation of shear bands in biaxial tests",Geotechnique,Vol.40,No.2,223-236. |