学位論文要旨



No 111063
著者(漢字) 石渡,博
著者(英字)
著者(カナ) イシワタリ,ヒロシ
標題(和) 集合住宅における給湯負荷・システム容量算定に関する基礎研究
標題(洋)
報告番号 111063
報告番号 甲11063
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3307号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 教授 松尾,陽
 東京大学 教授 安岡,正人
 東京大学 助教授 坂本,雄三
 東京大学 助教授 平手,小太郎
内容要旨

 高層高密度集合住宅における給湯システムとしては、その構造的な制約とエネルギーの有効利用が可能などの理由から、戸建て住宅や中低層集合住宅に普及している住戸セントラル方式に代わって住棟セントラル方式が採用される例が多くなってきた。住戸セントラル方式のシステム容量の算定方法はほぼ明らかにされたものの、住棟セントラル方式のシステム容量を決定するに必要な給湯負荷の原単位や算定方法については十分な資料がなく、現に計画されているものは必ずしも適正な規模となっていない。

 住棟セントラル方式のシステム容量算定に必要な原単位は瞬時最大負荷、加熱量、貯湯量などであるが、そのどれも給湯負荷特性に深い関わりを持っており、その検討には先ず現状での給湯負荷を把握する必要がある。給湯負荷は湯使用行為(生活活動の一部)により発生するものであるから、その特性は生活活動を反映したものと見ることができ、その生活活動は住戸特性、住棟特性、地域特性などにより特徴付けられていると予想される。

 そこで本論文は、現状での給湯負荷実態を明らかにすると共に、給湯負荷特性について検討して、システム容量の主要原単位である瞬時最大負荷、加熱量、貯湯量の算定法について検討提案するものである。図-1に研究フローを示す。

給湯負荷

 給湯負荷の実態調査では、現状での給湯負荷実態を明らかにするために、いくつかの集合住宅を対象にしてアンケート調査(第2章)と実測調査(第3章)を行った。給湯負荷要因の把握を目的としたアンケート調査では、関東、中部、関西地域から4地区を選定して調査を行い、湯使用状況、湯使用意識などを明らかにしたが、同時に地区別の解析から地域特性についても検討した。給湯負荷の実測調査では、これまで報告例の少ない器具単位の詳細測定、先の4地区の集合住宅を対象にした住戸単位の測定、住戸数の異なるいくつかの住棟を対象にした規模別測定、負荷が特異な年末年始の測定、ほぼ1年にわたる住戸単位の長期測定などを行い、使用時間、吐水量、使用湯温など様々な条件下での原単位を示すことができた。器具単位の測定は夏期と冬期に行っており、各々の調査結果を報告したが、使用湯温(平均値)は冬期より夏期の方が高いなど予想に反した結果であったが、これは夏期には低温での湯使用回数が減少しているためと分かった。

 給湯負荷の実態調査の結果、住宅での湯使用はほぼ定着したものの消費量はなおも増える傾向にあると予想される。給湯負荷特性については、1日の負荷変動がふた山形のピークを示すことや休日、特異日などは平日と異なった傾向を示し、消費量も多くなるなど住宅用途の特徴を確認できたが、住戸特性、住棟特性など(以降、これらを制御変数を称す)が変わればその特性は多少なりとも異なったものになることが予想される。

システム容量の算定法

 ここでは給湯システム容量の主要原単位である瞬時最大負荷、加熱量、貯湯量の算定方法を検討する。瞬時最大負荷については水(湯)使用率と制御変数の関係に着目(第4章前半)し、給湯負荷特性の検討から加熱量と貯湯量の関係について検討(第4章後半)する。図-2に給湯システム容量と制御変数の関係を示す。

 瞬時最大負荷の算定法 現状の算定法のほとんどは器具数をもとに計算する方法であるが、住宅の器具数は一般に住戸単位で決まっており、家族人数の違いなどが考慮されにくいこれまでの算定法では集合住宅の瞬時負荷は予測しにくい。

図表図-1 研究フロー / 図-2 給湯システム容量と制御変数

 瞬時負荷の検討では湯使用行為の時刻に着目する必要があり、湯使用が生活行動の一部であることから、生活行動がそのまま負荷要因となる。生活行動の様式がライフスタイルであり、このライフスタイルは年齢、性別、職業その他諸々の条件(先の制御変数と同義)を要素として決まると予想される。瞬時流量(負荷)は同時使用器具数と平均流量から求められるが、同時使用器具数については、水(湯)使用確率に住戸数を掛け合わせることによって求めることができる。水(湯)使用確率は単位時間当たりの水(湯)使用時間である水(湯)使用率から待ち行列理論によって計算されるが、これは先の湯使用に関する生活行動を数値化したものと解釈できる。

 器具別詳細測定の対象住戸については、住戸特性を調査しており、これをもとに本論文では、数量化法による解析によって水(湯)使用率が制御変数に関わりが深いことを示し、数量化された制御変数から水(湯)使用率を計算する方法を試みた。瞬時最大負荷は、この水(湯)使用率をもとに、給水システムの瞬時最大負荷算定法として提案されている確率法によって計算できる。ここで提案する瞬時最大負荷算定法は制御変数の数量化と確率法を併用した混合モデルであり、その性格上更に種々の制御変数での検討によって予測精度が向上すると考えられる。器具別詳細測定の対象住戸のある住棟については住棟負荷を測定しているので、この住棟に本モデルを適用し、これより得た予測値と実測値との比較を行って本モデルを検証した。

 システム容量の算定法 ここでは、給湯システム容量としてシステムの主要機器である加熱器と貯湯槽の各容量について検討を行った。貯湯量は負荷が加熱量を上回る場合の不足分を補うものと解釈されるが、これが十分に機能するためには、次に備えて適当な時期に回復できるシステムでなければならない。この関係から、これらのシステム容量は給湯負荷の変動特性に密接に関わっていることが明らかであるが、ここではその事実関係を明確に表す累積値に着目した。ある時点での累積加熱量は、その時点までの累積負荷にその時点での貯湯量を加えたものであるという関係から、累積加熱量は常に累積負荷より多くなければならない。この関係の解析から加熱量と最小貯湯量の関係が明らかになり、その理論の展開から移動平均法を用いた算定法を考案した。この算定法を用いていくつかの実測値(住棟負荷)について計算を行ったが、そのどれも加熱量と貯湯量との間には似た関係(貯湯加熱曲線)があることが分かった。

 貯湯加熱曲線上の各点はどれも機能を満足する組み合わせを示しているが、場合によっては瞬時最大値が加熱量になるなど、一方が過大容量となる組み合わせもあり、最適な組み合わせを求めるためには何らかのパラメータを導入する必要がある。このような場合にパラメーターとしてよく用いられるのはシステムコストであり、本論文においてもシステムコストをパラメータとした最適化について検討した。コストの実態調査からシステム容量関係の主要機器である加熱器(ボイラー)と貯湯槽コストが各容量に対してほぼ線形の関係にあることが分かった。このシステムコストをパラメーターとすれば、最適値を求める問題は貯湯加熱曲線を制約条件とし、システムコストを目的関数とした最小計画問題となる。

 システムコストは各コストを軸としたグラフ上では直線となり、その勾配はコスト比率を示している。貯湯加熱曲線はほぼ対数曲線となることから、最適値はコスト比率を要素とする行列の表す座標変換(回転)により求められることになる。したがって、コスト比率を新たなパラメータとして導入すれば、一意的に最適加熱量と最適貯湯量の容量決定が行えることになる。本算定法に基づき測定結果の一例について計算を行い、コスト比率と最適加熱量、コスト比率と最適貯湯量の関係を明らかにした。

 以上のように、本論文はまずアンケート調査により使用者の意識を明らかにするとともに、長期間かつ詳細な実測調査により給湯負荷の基礎データを整備を行い、次にこれら給湯負荷特性の検討によって従来無視されてきた住戸特性を考慮した瞬時最大負荷算定法を提案するとともに、加熱器と貯湯槽を例にして、新たな観点からのシステム容量の最適化法を検討したものである。

審査要旨

 本論文は、「集合住宅における給湯負荷・システム容量算定に関する基礎研究」と題し、いわゆる住棟セントラル給湯方式の給湯負荷の算定方法および貯湯槽・加熱器(ボイラー)の容量算定方法に関し、詳細な実測および理論解析から検討を加えたものである。論文提出者は、まず文献調査などの結果から、従来、これらの算定が、およそ半世紀前の、しかも生活習慣・使用器具も異なるアメリカのデータを多少修正して行っていたこと、給湯負荷には、住戸規模、居住者人数、居住者の年齢・性別といった属性、使用器具など(住戸特性と称する)が大きく影響するにもかかわらず、それら要因に対する配慮に欠けていたことなどの指摘を行い、研究目的・研究方針をまとめている。その上で、アンケート調査、十数戸についての用途別かつ1秒間隔での給水・給湯流量測定という極めて詳細な測定を含む給湯負荷の実測を行い、それらデータを用い、住戸特性と給湯負荷の詳細な解析を行い、住戸特性を加味した瞬時最大負荷の算定方法を提案するとともに、住棟全体の実測データを用いて検証を行っている。さらに、給湯負荷の日変動とシステム容量の関係に関する検討および貯湯槽と加熱器のコスト分析を行い、貯湯量と加熱量の最適な組合せを求める方法を提案している。

 本論文は、以下の5章からなっている。

 第1章では、本研究に関連する文献調査を行うとともに、現状での問題点を整理し、研究目的・研究方針を明示している。

 第2章では、関西・中部および関東の2地域、計4地域での集合住宅を対象としたアンケート調査結果から、給湯に対する使用者意識や地域特性などをまとめている。

 第3章では、住棟単位、住戸単位および器具単位での実測調査結果をまとめ、給湯負荷算定法検討のための基礎資料を整備している。この中には、従来特異日として知られながら、その実態が明確でなかった大晦日などのデータも含まれている。また、十数戸に及ぶ住宅での用途別、すなわち器具単位での測定は、1秒間隔のものであり、使用時間・使用湯温などに関する詳細な値が示されており、過去に得られたことのない貴重なデータとなっている。

 第4章は、本論文の中心をなす章であり、瞬時最大負荷算定方法の検討およびシステム容量算定法の検討の2つの項目からなっている。

 瞬時最大負荷の検討では、まず、実測調査に基づく給湯負荷とアンケート調査などによる住戸特性の関係を詳細に解析している。その上で、住戸特性の数量化によって得られる器具単位の水使用率から確率法を用いて瞬時最大負荷を計算する方法、つまり住戸特性にも配慮した瞬時最大負荷算定方法を提案するとともに、住棟単位の実測値を用いて検証している。

 システム容量の算定法の検討では、貯湯槽と加熱器を例に取り上げている。まず、給湯の消費量と供給量の関係の解析から、それらの累積値を用いることが有効であることを示し、貯湯量と加熱量の関係を示す曲線を提示している。さらに、貯湯量と加熱量の最適な組合せを求める方法として、コストに着目し、コスト比率を用いたシステム容量の最適化法について検討している。

 第5章では、以上のまとめを行うとともに、今後の課題を明示している。

 以上のように本論文は、不明な点の多かった住棟セントラル給湯設備の設計法に関し検討を加えたものである。まず、アンケート調査により、使用者の意識や地域特性を明確にするとともに、長期間かつ詳細な実測調査から、各種算定方法に必要な基礎データを整備している。その上で、従来無視されてきた住戸特性に関して、十分考慮した瞬時最大負荷算定方法を提案し検証を行うとともに、貯湯槽と加熱器を例に、新たな観点からのシステム容量の最適化法を検討しており、給湯設備設計の今後の発展に対し、多大な寄与をするものと評価できる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/53842