本論文は、東京に住む外国人に対してアンケート調査を行ない、この調査結果を分析することによって、これまで漠然と推測されていた外国人コミュニティの存在を明示すると同時に、諸外国の都市における外国人コミュニティと比較検討しつつ、東京におけるその空間的、社会的特性を解明している。 本論文は、序文、8章及び結論からなっている。 第1章では、著者が修士論文としてまとめた東京の日本人を対象としたコミュニティに関するフィールドワークを基礎として、外国人コミュニティを把握する方法を提示している。特に、アメリカやカナダに於いては、外国人コミュニティが都市空間の中で可視的であるのに対して、日本にあっては見えにくい特質に注目し、「近隣neighbourhood」なる場所的概念をもって空間的把握を図るが、他方コミュニティは必ずしも空間的には連続していない現象として定位することによって、外国人コミュニティの所在を可視的にする研究目標を据え、他の既往研究との差異を明らかにしている。 第2章では、著者が生まれ育ったトロントにおける外国人集団の動態が都市にもたらした空間的現象、あるいは政策として採択された「多文化主義multiculturalism」とこれを実践しやすかったグリッド状の都市構造などについて、小規模な調査の結果を報告している。また、トロントにおけるポルトガル人が形成した可視的な近隣に注目し、70年代のパリには、トロントの6倍のポルトガル人集団がありながら、可視的な近隣を形成しなかった現象を比較検討して、日本における外国人コミュニティの現象と類似性を指摘している。 第3章では、日本特に東京近辺の外国人居住者に関する都市論的歴史を要約し、後述される調査研究で浮上する東京近辺のさまざまな場所の歴史的意味を明らかにしている。また、1990年における外国人居住者が、東京都及び神奈川県に比較的集中していること、エスニックな視点からすると、韓国朝鮮人、中国人、フィリピン人、アメリカ人が約88%を占めていることなどを述べて研究方針を明らかにすると同時に、日本の外国人に対するさまざまな制度や住居などの状況を要約し、これらをトロントや70年代のパリと相互比較して、東京の都市構造を描出している。 第4章では、3章で抽出した4つの人種的な集団すなわちエスニック・グループに対して、人口統計的項目、住居に関する項目、コミュニティに関する項目からなるアンケート調査を行ない、その結果を得た。469人の回答を対象とした分析を、特に居住条件の分類を基礎に展開している。居住条件の分類尺度には、建設省が2000年を目標とした住居の基準床面積を採用している。 第5章では、韓国朝鮮人のグループを、日本で生まれたグループとそうでないグループとに分けて、総計5つのグループについて人口統計的視点から、グループ内の特性及びグループ相互から導かれる特性の分析を詳細に行っている。この際、回答者の年齢、在日年数、現在の住居での居住年数等のうえで各グループ間に大きな偏りがなく、グループ間の比較が可能であることが確かめられている。クラスター分析を通して、多くの事象が解明されているが、フィリピン人グループが、他のグループとの間に差異がある傾向が指摘されている。 第6章では、住居規模からみた居住条件の検討がなされており、対象とする5つのグループには明白な差異があることが述べられている。その一例を挙げれば、第4章で述べられている尺度からすれば、「基準以下」の住居に住む回答者は、アメリカ人グループでは、5.7%であるのに対し、外国で生まれた韓国朝鮮人、フィリピン人のそれぞれのグループでは、50%を越えていることが述べられている。 第7章では、グループごとの近隣意識と行動範囲についての分析を通して、さまざまな特性が明らかにされている。行動の範囲をベクトル・マップを用いて分析した結果は、韓国朝鮮人グループで平均距離が20.5km、中国人グループで7.6km、フィリピン人で8.8km、アメリカ人で11.04kmといった数値が導かれており、それぞれの数値の意味するところが明らかにされている。 第8章では、それぞれのグループが形成するコミュニティの特性が綿密に解明されている。分析のひとつに、自らコミュニティがあると考えられる場所までの距離がベクトル・マップによって計量され、アメリカ人グループと中国人グループが想定されている場所の近くに居住していることが述べられている。一方そうした場所を性格づける建築的なレファレントと調査してみると、意外に少ないことも指摘されている。 結論では、調査分析から、東京における見えにくい外国人コミュニティの所在とその性格が要約されている。 以上要するに、本論文は、外国人居住者の住環境条件、その行動形態、日本の都市に対する見解など、これまで不明であったところを困難なアンケート調査を実践することによって明らかにし、外国人グループが形成しているコミュニティの形態を解明しており、資料作成の意義とあわせて、方法的にも貴重であり、建築計画学ならびに都市計画学に貢献するところが大きい。 よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |