本論文は「地震エネルギー入力に及ぼす地盤の影響に関する研究」と題し、序ならびに4章より成る。 「序」においては、地震エネルギー入力と構造物のエネルギー吸収能力を対比させて耐震性を評価するエネルギー論的耐震設計における地震エネルギー入力に着目し、地震地動の地盤による増幅特性、構造物に入力されたエネルギーの地盤への逸散を定量化することにより、耐震設計の基礎となるエネルギースペクトルをもとめることが論文の目的であることが述べられる。 第1章「地震動エネルギー入力」では、地震エネルギー入力に関する既往の研究を要約すると共に、地震入力エネルギーを求めることの意義について考察し、構造物に対する地震動の荷重効果として地震エネルギー入力が本質的に重要であることを論証し、論文を通して一貫して用いられるエネルギースペクトルを地震エネルギー入力の速度換算値と構造物の1次固有周期との関係として定義し、地震動とエネルギースペクトルの対応関係を明らかにし、論文中に一貫して用いられる、エネルギースペクトルに適合した人工地震波の作成方法を示している。 第2章「地盤増幅」では、地盤による地震動の増幅特性を定量化し、地盤特性に応じたエネルギースペクトルの推定方法を提案している。 先ず、地盤増幅に関する既往の研究を概観し、地盤の増幅特性を求める上での重複反射理論の有効性について述べ、次いで地盤増幅を定量化するための方法論を明らかにしている。即ち、地盤の最上層部の花こう岩層を地震基盤として設定し、地震基盤に到達した地震動が、地震基盤から直上の構造物設置点である地表面に到る迄の地震動の増幅特性を一次元波動理論により求めんとするものである。その際、水平地震動はせん断波の伝播として、また、鉛直動は縦波の伝播としてとらえられる。 地震基盤における地震動は、既往の研究及び、硬質岩盤で得られた地震記録に基づき、一定のエネルギースペクトルを有するものと仮定され、このスペクトルに適合する時刻歴加速度波形が人工地震波として作成される。地盤特性は岩盤と表層地盤に大別して設定され、せん断波速度、縦波速度、減衰定数等が地盤深さに応じて与えられる。増幅特性は、人工地震波を地震基盤に入力し、1次元波動理論により得られる地盤表面、ならびに地表面の地震動のエネルギースペクトル値を基盤入力波のエネルギースペクトル値で除して得られる。即ち、地盤増幅は岩盤、表層地盤により2段階で増幅される。解析は、地盤構成を多様に変化させて行われ、岩盤による増幅特性、表層地盤による増幅特性が各種パラメータと関連づけて詳細に論じられ、各周期に対応する増幅係数の簡易予測式が数値実験式として提案される。 用いられた手法の妥当性は、過去に得られた三つの地震動記録と、記録が得られた地点における地盤の調査記録に対して、本論文で用いられた手法を適用し、地震動記録のエネルギースペクトルを解析により予測できることを確かめることによって検証している。 第3章「相互作用」においては、構造物と表層地盤の振動連成による相互作用により、構造物に入力されたエネルギーの一部が地盤に逸散する現象を定量化し、地盤が剛である場合のエネルギー入力と対比することによってエネルギーの逸散効果を地盤特性、構造物の力学的諸元との関係において明らかにしている。 地盤の特性はせん断波速度で代表させ、構造特性は地盤が剛である場合の周期、形状(高さの幅に対する比)、減衰定数、構造物の地盤への埋込みの有無で代表させている。先ず、文献調査に基づき、相互作用を求めるための手法を概観し、各種解析モデルの中から、質点系モデルであるsway-rocking modelを選び、複素数解析に基づく数値解析により、相互作用を定量化している。 地表面地動としては、bi-liner型のエネルギースペクトルを設定して、それに適合する人工地震波を作成する。設定したエネルギースペクトルは地盤が剛である場合のエネルギー入力を表現する。地盤特性はせん断波速度に応じて複素バネで表現される。地盤・構造連成系の応答は、人工地震波を構成する各調和波に対する応答の和として求められる。地盤・構造連成系の周期は、地盤が剛な場合の固有周期より長くなり、両者の周期比が相互作用を定量化する際の主要パラメータとなる。一方、エネルギー入力における相互作用の影響は、地盤逸散エネルギーを除いた構造物への実質のエネルギー入力を地盤逸散がない場合のエネルギー入力に対する比である有効エネルギー入力率によってとらえられる。周期比と有効エネルギー入力率との関係が相互作用を端的に表現するものとして定量化され、構造諸元との関係において明確に表現されると共に、周期比の簡易評価式が提案されている。 第4章「結論」では、3、4章の結論を総合し、基盤における地震動のエネルギースペクトルに地盤による増幅率と、相互作用による有効エネルギー入力率を乗ずることにより、耐震設計用エネルギースペクトルが設定できることを結論づけている。 以上本論文は耐震設計において基本となる設計用エネルギースペクトルに及ぼす地盤の影響を一貫した解析手法により定量化し、地盤、構造物の主要パラメータとの関係において極めて簡潔な形で設計用エネルギースペクトルの設定を可能とする途を開いたものであり、よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |