建築構造系内に設置された機器、配管などは地震時に直接地動にさらされるのではなく、主構造物により増幅された振動の下に置かれる。本論文ではこの種の構造物を、地震動を間接的に受けるという意味で2次構造物と呼ぶ。 五十年代より原子力発電所の建設が行われるようになり、それを契機に機器、配管系の被害例調査が始まって、構造動力学の分野の成果が産業構造物の耐震設計に導入されるようになる。近年、マイクロウェーブ塔、ラジオ塔など、せいが高かったり、重量が大きかったり、あるいは極めて高い場所とか高層建築の屋上に設けられる鉄塔が多くなる。このような現状を背景としてより実際の姿に近いと思われ地震の動的な作用の本質を反映する2次構造物の耐震設計を行う必要性が高まっている。現行の産業構造物の耐震設計は、基本的な方法として建築物の耐震設計法を踏襲し、最大応答を指標として地震の荷重効果を評価している。2次構造物の最大応答は、一様分布に従う地震の位相特性に左右される。それを原因として、2次構造物に対する地震の荷重効果について様々の提案をなさっているが、共通の認識が得られなかった。 一方、すでに一般建築構造物に対しては、地震によりもたらされるエネルギー入力と構造物のエネルギー吸収能力とを対置させて耐震性を判定する手法は確立されつつある。この手法を2次構造物一般に適用可能なものとすることと、2次構造物の極限耐震設計法を構築することが本研究の目的である。 本論文は、本文(全5章)と付録(全3項)より構成されている。 第1章は序論であり、本論文で行った研究の目的及びエネルギー論的耐震設計法の概要を述べるとともに、研究対象とした2次構造物と関連のある主な既往の研究をまとめた。既往の研究については、主に発表された日付の順に従って概論を展開するが、モデルの合理性、実地震記録ないしは人工地震波を用いた時刻歴応答解析法と統計・確立論に基づく直接的なスペクトル解析法の欠点、及び2次構造物に関する研究の新たな動向を論じた。 第2章では、地震はよる構造系へのエネルギー入力を理論的に誘導することを通じて、弾性振動系のエネルギースペクトルを定式化し、主構造物のエネルギー入力の換算速度スペクトルと2次構造物の換算速度スペクトルとの間に存在する一義的な対応関係を明らかにした。それにより、2次構造物が置かれた主構造物の動的特性(各振動モードの固有周期と刺激係数とモード・ベクトルなど)がわかると、建設用地における設計用地震スペクトルに基づき直接的に2次構造物のエネルギースペクトルを求めることができるようになった。 また、第2章では、入力地震動の継続時間が卓越周期に比べて十分長い場合には、地震波の位相特性はその地震による非線形性のある構造系へのエネルギー入力に影響を与えないということを指摘し、数学的に証明した。 尚、理論的に定式化したエネルギー入力スペクトルは弾性振動系に対応するが、塑性化した主構造物に対しては、塑性化の程度を適当な等価減衰に換算すれば、塑性化しない弾性系の場合と同様な方法で2次構造物のエネルギースペクトルを予測することができる。 第3章では塑性化した2次構造物のエネルギースペクトルと題し、弾性系についてのエネルギースペクトルにより塑性化した2次構造物のエネルギースペクトルを評価することを試みた。扱った復元力特性は、完全弾塑性系とスリップ系と原点指向型の復元力特性の3種類がある。塑性化した2次構造物へのエネルギー入力は、塑性変形の進展に伴って短周期領域において増大し弾性系のエネルギー入力の値を上回ることと、共振領域において単調に減少するということの2点が特徴である。それに応じて、塑性化した系の実質的な振動周期を反映する有効周期、及び共振領域におけるエネルギー入力のレベルについて弾塑性応答解析により考察を行い、評価式を提案した。その結果として、弾性系の2次構造物におけるエネルギースペクトルにより弾塑性型の2次構造物のエネルギースペクトルを定量的に評価し得ることを示した。 以上のことを踏まえて、地盤種類に対応する2次構造物の設計用標準スペクトルを提案した。 第4章では、多質点弾塑性型の2次構造物へのエネルギー入力は、剛性分布、質量分布、強度分布に依存せず、もっぱら1次固有周期及び総質量に依存する極めて安定した量であるということを検証した。また、2次構造物の最適せん断力係数分布は1次固有周期に左右されるので、1次固有周期の主構造物の固有周期に対する比T1/TMが2より小さい場合には、主構造物と異なる最適分布曲線を提案した。しかし、2次構造物におけるエネルギーの集中を建築構造物に対する損傷集中則により評価することができる。 第5章では、本論文全体のまとめとして、研究の結果を述べた上に、エネルギー論に基づく2次構造物の耐震設計法の概要を論述した。 |