本論文は「円筒座標を併用した一般座標系格子のLESによる円管・楕円管および旋回乱流の数値解析に関する研究」と題し、円管内で起こる種々の乱流場にLarge Eddy Simulation(LES)を適用した研究である。 第1章では本研究の概要および目的を述べている。LESは従来より比較的単純な流れ場に適用され、その数値解析手法の開発、Subgrid scaleモデルの改良などが行われてきており、その工学的応用例は直交座標系格子を用いた解析が中心になっている。これに対して、円管内乱流は工業上頻繁に現れ、重要であるにもかかわらず、LESによる3次元数値解析の研究はごくわずかであるのが現状である。その理由は、円管内乱流の数値解析に円筒座標系格子を用いた場合、(1)円管中心が特異点となり片側差分を用いなくてはならないこと、(2)格子のアスペクト比が円管壁に近づくほど大きくなり壁面付近の計算精度が悪くなること、(3)円管中心付近では格子が密集化し陽解法を用いた数値解析ではクーラン条件を満たすために時間刻みtを小さくしなくてはならない、という3つの間題点があるためである。そこで本研究では、上述の問題点を解決するために一般座標系格子によるLESコードを開発し、円管内で起こる種々の乱流場に適用して、それらの現象の解明を試みることを目的としている。 第2章では一般座標系格子を用いたLESコードの開発および誤差評価を行っている。誤差評値の結果、格子の歪み度が大きく直交性が良くない箇所では、速度勾配の計算誤差が乱流粘性の計算に直接反映するため乱流粘性の値が過大評価されることがわかり、またこの数値誤差は格子数を多くすることで低減できるが、実際の3次元数値解析ではこの誤差を無視できるほど格子を多くきることは困難なため、数値解析上の対策が必要であることが述べられている。 第3章では、一般座標系格子導入による数値誤差を低減させるために、乱流粘性を計算するときのみ格子の直交性を有する円筒座標系格子を使用する新しい方法を構築して、円管内乱流のLES数値解析に適用している。数値計算はまず一般座標系格子で各速度成分を計算し、それを円筒座標系格子に補間してそれらの値から乱流粘性を求めて、それを再び一般座標系格子に戻す方法で行われている。この方法で計算した円管内乱流のLESの結果は、平均速度分布、乱流強度分布およびせん断応力分布とも実験結果と比較してよく一致していることがわかり、さらに瞬時速度の円管断面分布を例示し特異点近傍で不合理な挙動が見られなかったことを確認して、本手法の有効性を検証している。 第4章では円管内乱流の応用として非円形断面流路を有する楕円管内乱流にLESを適用している。LESの結果は、楕円管内乱流の特徴である第2種2次流れおよび2次流れに起因して長軸方向の平均速度分布が短軸方向の平均速度分布より大きくなることを再現している。また楕円管内流の場合、明瞭なコーナー部がないため、第2種2次流れの渦は楕円管断面のl/4の領域に単独に1つ発生してその大きさは主流速度の数%程度であることが述べられている。 第5章では円管内旋回乱流の第1段階として、自軸まわりに回転する円管内で起こる剛体渦のみの簡明な旋回乱流の解析を行っている。この流れ場の実験的研究では、主流方向平均速度分布は円管回転が高まるにつれて層流時の分布に近づき、周方向平均速度分布はほぼ放物線上にのることが明らかにされている。本研究でのLESの結果では、主流方向平均速度分布は層流時の分布に近づき、乱流強度分布およびせん断応力分布はいずれも自軸回転の効果により減衰しており、層流化していく傾向を再現できていることが確認され、また周方向の平均速度もほぼ放物線上にのっており、実験結果を再現している。 第6章では円管内旋回乱流の第2段階として自由渦と剛体渦が共存して複雑な旋回乱流場のLES数値解析を試みている。k-モデルでは主流方向速度の管中心軸付近でのくぼんだ分布が下流で維持されず平坦な分布になることが報告されている。これに対して本研究でのLESの結果は、主流方向速度の中心のくぼみが実験結果と比較すると下流域でやや減衰傾向にあるものの、k-モデルによる解析結果より大幅に改善されており、また周方向速度も外周部は自由渦、中心部では剛体渦になっており実験の傾向を定性的に再現している。 第7章では、本研究の結論を述べている。 以上を要約するに、円筒座標系格子と一般座標系格子とを組み合わせる新しいLES数値解析手法を構築し、その手法を円管内・楕円管内乱流および円管内旋回乱流場に適用して、それらの現象を再現することに成功している。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |