学位論文要旨



No 111097
著者(漢字) 劉,金橋
著者(英字)
著者(カナ) リュウ,キンキョウ
標題(和) 異材界面き裂の破壊試験と強度評価法に関する研究
標題(洋)
報告番号 111097
報告番号 甲11097
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3341号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡邊,勝彦
 東京大学 教授 朝田,泰英
 東京大学 教授 中桐,滋
 東京大学 助教授 酒井,信介
 東京大学 助教授 香川,豊
内容要旨

 近年、異材接合材・接着継手・複合材等が広く用いられるようになって来たのに伴って、界面き裂の解析やその強度評価法に関する研究が活発となってきた。しかし、まだ解析、理論面が主体の基礎段階であり、実際への応用に向けて解決されるべき多くの問題が残っている。特に界面き裂は先端近傍での応力振動性を伴なう混合モード状態という複雑な状況になるので、破壊を支配するパラメータ・クライテリオンがまだ明らかでなく、その検討が急務である。

 本研究は異材接着界面き裂の静的強度、疲労強度を評価するための手法について破壊力学的から検討を行なったものである。

 静的強度を知るためには、異材・接合材においては均質材のような標準試験片は用意されておらず、その破壊クライテリオンの確立のためには、まず望まれる混合モード比を実現する試験法、実験法が必要である。本研究では広範囲の混合モード比を実現する試験法として円盤形試験片(Brazil-Nut-Sandwich試験片)によるものを提案し、それによる静的破壊試験を行ない、併せてその応力拡大係数K値解析を行なって、混合モード負荷を受ける界面き裂の破壊条件・基準について実験的に検討する。

 またせん断形、引張り形荷重下での接着継手の疲労強度試験を行ない、被着体厚さ・接着剤厚さ等の疲労強度に及ぼす影響を実験的に明らかにすると共に、各種継手について高精度なBEM弾性解析を行ない、さらに接着界面にき裂を想定し、この界面き裂の応力拡大係数についてもBEMにより解析し、破壊力学的手法に基づく接着継手の疲労強度評価法についても検討した。続いて接着継手の疲労強度向上を図るために、被着体にディンプルを導入する手法を提案し、その有効性について理論的ならびに実験的に検討する。

 本論文は全7章から構成されている。

 第1章は「緒論」であり、研究の背景、従来の研究の現状と問題点を述べるとともに、本研究の意義と目的を示す。

 第2章は「本研究に関連する基本事項」であり、本研究をサポートしている界面破壊力学の基礎知識および解析ツールとしてのBEMの基礎理論について簡単にまとめ、異材接合材の界面端応力特異性を示すとともに、Dundersパラメータ、応力特異性を決める特異性方程式および特異性方程式の解き方と解析例について述べる。また異材界面き裂の応力拡大係数の定義を説明し、異材界面破壊を支配すると期待されるパラメータ・クライテリオンを説明し、BEMの基本解や界面き裂の弾性解析、特に界面問題を解析するためによく用いられる領域分割法、特異要素、応力拡大係数決定法について述べる。

 第3章は「異材界面き裂の破壊試験法」であり、異材界面き裂の破壊クライテリオンの確立には任意の混合モード比を実現できる試験法が必要となるが、本章では現在供試される各種異材界面き裂試験片についてBEM解析を通じて実現される混合モード比を検討し、ブラジルナッツサンドイッチ試験片を引張り、圧縮と組み合わせることにより広範囲な混合モードを実現できることを明らかにすして、この方式を目的にかなう試験法として提案する。

 第4章は「異材界面き裂の破壊クライテリオン」であり、均質材および界面き裂の破壊クライテリオンの考え方を述べるとともに、自作のアルミーエポキシ樹脂よりなる円盤形試験片と4点曲げ試験片を用いて、実際に静的圧縮と引張り破壊試験を行ない、併せて対応する応力拡大係数(K)値の解析を行なって混合モード負荷を受ける界面き裂の破壊条件・基準について実験的に検討する。圧縮実験では界面き裂はエポキシ側へ屈折して破壊した。予測した破壊角と実験値とはよく一致した。引張り実験では界面き裂は界面に沿って進行して、破壊した。この場合では楕円則の破壊基準が成立することを明らかにし、屈折か界面破壊かの判定する方式を提案する。またこの破壊基準に及ぼす残留応力の影響についても検討する。

 第5章は「接着継手の疲労強度の界面破壊力学による評価」である。本章では、軟鋼板(SPCE)の引張せん断接着継手(TS)とT字型引張接着継手(TT)の疲労実験を行ない、被着体厚さ・接着剤厚さなどの疲労強度に及ぼす影響を実験的に明らかにするとともに、まずそれら継手に生じる応力についてのBEM弾性解析を行なう。さらに接着界面にき裂を想定し、その応力拡大係数についてもBEMにより解析する。エネルギ解放率に対応するKiを用いるとTS接着継手とTT接着継手と継手は違っても、また接着剤厚さ・被着体厚さが異なっても疲労強度は統一的に評価できる。界面破壊力学に基づく評価法は接着継手の疲労強度の定量的評価として有力な手法であることを検証する。

 第6章は「接着継手の疲労強度に及ぼすディンプルの影響」であり、接着継手の疲労強度向上を簡便に実現する方法として、被着体にディンプルを導入する方法を提案し、その有効性を実験的および理論的に検討する。鋼板にディンプルを加工した接着継手試験片の疲労強度を行ない、ディンプルの疲労強度に及ぼす影響を明かにする。さらに接着界面にき裂を想定し、その応力拡大係数についてもBEMにより解析し、ディンプルの効果を界面破壊力学に基づき解析、評価し、併せて接着継手の疲労強度の定量的な評価法の確立を試みる。

 第7章は「総括」であり、本論文の総括として、各章のまとめと本研究により得られた主な成果について述べ、今後の展望について言及している。

審査要旨

 本論文は「異材界面き裂の破壊試験と強度評価法に関する研究」と題し、7章から構成されている。近年、異材接合材や複合材、接着継手等が様々な分野で広く用いられるようになり、界面のさらには界面に存在するき裂の強度評価法の確立が急がれている。本論文は異材接着界面き裂の静的強度と疲労強度を取り上げ、線形破壊力学的立場からそれらの評価手法について研究を行ったものである。

 第1章は「緒論」であり、異材界面き裂研究の現状を述べ、問題点を指摘すると共に、本研究では界面き裂の強度や破壊の試験法、さらにはそれを通じての破壊クライテリオンの検討、確立を目標とすることを述べている。

 第2章「本研究に関する基本事項」では、研究を進めて行く上での基本となる界面き裂の力学とパラメータ解析のツールとして用いるBEMについての基本的な知識をまとめている。すなわち異材問題におけるDundersパラメータ、界面き裂の振動応力特異性とそれを規定する応力拡大係数、BEM数値解析からの応力拡大係数の決定法等について述べている。

 第3章は「異材界面き裂の破壊試験法」である。界面き裂においては一般に混合モード状態となり、その静的破壊のクライテリオンを確立するためには任意の混合モード比を可能とする試験方法の実現が一つの要件となる。本章においては、まず各種試験法において実現される混合モード比をBEMによる応力拡大係数の系統的な解析を通じて検討している。その結果、従来の試験法においては実現できる混合モード比は限定されたものとなるが、これまで圧縮負荷のもとにおいてのみ用いられて来た円盤型三層試験片(BNS試験片)を引っ張り、圧縮を組み合わせて用いることにより広い範囲の混合モード比を実現できることを明らかにし、この方式による試験を界面き裂挙動評価法として提案している。

 第4章は「異材界面き裂の破壊クライテリオン」であり、アルミニウム合金とエポキシ樹脂よりなる前章のBNS試験片を作成して一連の静的破壊実験を行い、併せて対応する応力拡大係数の解析を行って、これをパラメータとして界面き裂の破壊条件・基準について検討を行っている。その結果、混合モード比を変えることによりエポキシ中へ折れ曲がる破壊から界面に沿っての破壊を実現できること、前者についてはその破壊挙動がクライテリオンにより説明できることを実験結果により初めて実証し、後者については均質材中のモードI,モードIIに対応する応力拡大係数K1,K2をパラメータにした楕円則の形でクライテリオンが与えられることを示している。また接着界面き裂においては残留応力の影響は避け難いが、この影響が破壊のクライテリオンにどのような影響を及ぼすかについても検討している。

 第5章「接着継手の疲労強度の界面破壊力学による評価」では、軟鋼板の接着継手についてせん断型荷重下、引っ張り型荷重下の疲労実験を行ない、被着体厚さ、接着材厚さにより、また負荷方式により疲労寿命に差が出ることを示している。そしてこれらの差は、疲労寿命の大部分を界面におけるき裂の進展過程が占めていることに注目し、き裂の進展に伴なうK1,K2のBEMによる解析を行い、これらを組み合わせたエネルギ解放率に対応するパラメータによりき裂進展則を与えて問題を扱うことにより説明され、接着材疲労強度の統一的な扱いが可能となることを明らかにしている。

 第6章は「接着継手の疲労強度に及ぼすディンプルの影響」であり、第5章を受けて、疲労寿命を延ばす実際的な方法として接着部近傍にディンプルを設ける方法を提案しており、その有効性を実験とBEM解析に基づく破壊力学的解析を通じて実証している。

 第7章「総括」では第3章から第6章の研究を通じて得られた知見をまとめ、また異材界面き裂研究の将来について展望している。

 以上要するに本論文は、これまで余り定量的な評価にまでは至っていなかった異材界面き裂の静的、疲労強度について、線形破壊力学的な扱いによってかなりの程度まで定量的評価が可能となることを、実験的にかつそれに対応するパラメータ解析によって明らかにしたものであり、異材界面の強度と破壊の評価法の確立に向けて寄与するところが大きいものと考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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