学位論文要旨



No 111109
著者(漢字) アギラー グレン ドロマール
著者(英字) Glenn Doromal Aguilar
著者(カナ) アギラー グレン ドロマール
標題(和) 船型設計用知識ベースシステムの構築に関する研究
標題(洋) A Study on a Knowledge Based System Development for Preliminary Hull Form Design
報告番号 111109
報告番号 甲11109
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3353号
研究科 工学系研究科
専攻 船舶海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小山,健夫
 東京大学 教授 大坪,英臣
 東京大学 教授 野本,敏治
 東京大学 教授 宮田,秀明
 東京大学 助教授 大和,裕幸
内容要旨

 造船の分野においても設計に対する知識システムの応用が研究されるようになっている。しかしながら、明確なシステム開発方法論がなく、実用システムの研究も先に進みにくい状況である。一方、オブジェクト指向技術や知識システムの開発手法については一般的な手法としてオブジェクトモデリング手法(OMT)と知識システム解析開発手法(KBS)が提案されている。そこで本論文では、問題を船型設計に限定し、船型設計における知識ベースシステムの利用方法についてオブジェクト指向技術をベースにオブジェクトモデリング手法(OMT)と知識システム解析開発手法(KBS)を駆使して、設計対象の表示方法、設計機能の分析、システムの構成のあり方、知識抽出と利用方法の検討、そのための周辺技術について検討整理した。そして必要なハード・ソフトウエアを整備し、船型設計知識ベースシステムのプロトタイプを構築し、船型設計を例としてシステム開発方法論に関して所論の立証を試みる。

 本論文の冒頭、第1章から第3章では、まず船舶設計、特に船型設計の一般論が展開され、問題点とそれに対する現在のアプローチ方法とシステムの実状について検討されている。設計におけるオブジェクト指向技術や知識処理システムの役割について述べられ、船型設計システムにおいては、(1)船型の幾何学的な表示手法、(2)知識システムのあり方、(3)設計に有用な知識抽出の方法、が主な問題点であり、本論文の中心課題であるとして問題を定義づけている。また対象を漁船等の小型船舶に限定することも述べられている。そしてこの具体的な検討にはOMT(Object Modeling Technique)手法やヨーロッパで開発されたKADS(Knowledge Based System Analysis and Design Systems Support)を有効に用い、さらに設計知識についてはその抽出方法自身も大問題であるが、ここではレパートリ・グリッド・モデルにより明示的な知識を獲得する手法について検討することにした。

 第4章から第8章にかけて、本論文の知識システム全体の構築に入る前に船型定義、船型修正、知識抽出ツールについての検討を行った。これは明快な手法が考えられていない部分である。本研究では全面的にオブジェクト指向技術が用いられているが、この部分についてはOMT(Object Modeling Technique)チャートによるシステムの解析、定義を行っている。まず船型の定義手法と船型に関する知識抽出手法を第4章から第7章に示した。第4章にはOMTによるシステム全体のアーキテクチャがオブジェクトダイアグラムで示され、そのダイアグラム内のオブジェクトの機能はダイナミックモデルとして、システム内のデータの流れは、ファンクショナルモデルとして明確に定義される。これにより、設計の過程をタスクに分割し、それぞれのタスクで必要な知識やデータを整理し、計算機へのインプリメンテーションに直接利用できる形にブレークダウンしている。

 これをもとに船型抽出(Geometric Acquisition tool)、知識抽出(Select Tool)、船型修正ツール(Hull Variation Tool)を構築している。船型抽出ツールは、図面からスキャナーをもちいて船型を取り込み、データベース化する事を提案している。また修正も後に述べるLackenbyの手法が適用できる。知識抽出ツール(Select Tool)は、レパートリ・グリッド方式を用いて、構築した。これによれば、複数の専門家からの知識が、軽快なインターフェースを通して単純な文章で評価付けされて表示される。後のシステムでは、船舶の用途に応じて最適な船種を選び出すシステムを構築、利用している。船型修正ツール(Hull Variation Tool)は、LackenbyのCpカープ修正法をインプリメントしている。

 第9章以降で知識ベースシステム全体の検討に入り、システム構成の検討にはKADSが用いられている。

 第9章でKADSの概説を行い、第10章で船型設計モデルへの応用が述べられている。船型設計の各タスク分けを行い、システムのコンポーネント、タスクのアクティビティモデル、知識サブシステムの構成方法について検討した。これによりユーザーとシステム側のタスクのモデルと設計知識のモデルが明確に定義され、そのままインプリメンテーションが可能であり、きわめて有効な手法であることが示された。先に述べた、ツール群は船型設計ツール(Hull Design Tool)に統合される。

 第11章では、第10章に定義された船型設計ツールのインプリメンテーションについて述べている。船型自身は、船型を支配する長さ、半径、角度等のパラメータ群を用いて定義される。先に述べたタイプシップを用いる船型修正ツールとはべつにオリジナルに船型を創出できる。

 第12章には、船型設計ツールで用いるアドバイザリーシステムの検討を行っている。エキスパートシステム設計ツールであるNexpertObjectを用いて設計パラメターに関して評価アドバイスをするシステムが構築されている。知識の抽出には知識抽出ツールが利用され、排水量等計算や抵抗に関するチャートによる推定プロセスや、データベースに含まれる類似船の数置範囲などが設計支援として表示される。これらの知識群は、必要なステージで必要な知識ベースが参照されるようになっている。

 最後に第13、14章に遠洋漁業船の設計を例としてシステムの立証を行っている。KADSダイアグラムで検討したようにタイプシップから知識ベースを参照しながら効率的に船型が行えることを示している。さらに船型ばかりでなく一般配置設計のための知識システムの例を挙げている。ここでもNexpartObjectが用いられ、機関、漁労具、冷蔵システム等の設計が行えるようにしている。

 以上のことから結論として、船型設計システムをOMTやKADS手法により定義し、各タスクに要求されるデータとその処理機能を定めた。それに基づき実際にシステムを構築、初期船型の定義からアドバイザリーシステムによる修正をおこない船型設計が完了するまでのプロセスを効率的に行えることを示した。本研究により、知識ベースを用いた設計システムを構築する手順を示し、今後もこのような手法でシステム開発を行いうる見通しが得られた。

審査要旨

 計算機を利用した設計システムにおいては、設計に有用な知識の利用が必須であり、造船の分野においても設計に対する知識システムの応用が研究されている。しかしながら、設計過程は複雑で製品によっても異なり、さらに設計知識そのものが定義しにくく、知識の抽出もきわめて困難であることは広く認識されている。また、設計プロセスを解析し、知識ベースを利用した設計システムを開発するための明確な方法論は確立されていない。一方、オブジェクト指向技術や知識システムの開発手法について一般的な手法としてオブジェクトモデリング手法(OMT)と知識システム解析開発手法(KBS)が提案されている。そのような背景の中で本論文では、問題を船型設計に限定し、船型設計における知識ベースシステムの開発方法についてオブジェクト指向技術をベースにオブジェクトモデリング手法(OMT)と知識システム解析開発手法(KADS)を駆使して、設計対象の表示方法、設計機能の分析、システムの構成のあり方、知識抽出と利用方法の検討、そのための周辺技術について検討整理した。そして必要なハード・ソフトウエアを整備し、船型設計知識ベースシステムのプロトタイプを構築し、船型設計を例としてシステム開発方法論に関して所論の立証を試みている。

 本論文の冒頭、第1章から第3章では、まず船舶設計、特に船型設計の一般論が展開され、問題点とそれに対する現在のアプローチ方法とシステムの実状について検討されている。設計におけるオブジェクト指向技術や知識処理システムの役割について述べられ、船型設計システムにおいては、設計プロセスを整理し、(1)船型の幾何学的な表示手法、(2)知識システムのあり方、(3)設計に有用な知識抽出の方法、がまな問題点であり、本論文での課題と定義づけている。具体的な検討には前に述べたOMT(Object Modeling Technique)手法やヨーロッパで開発されたKADS(Knowledge Based System Analysis and Design Systems Support)を有効に用いることにしている。

 第4章から第8章にかけて、本論文の知識システム全体の構築に入る前に船型定義、船型修正、知識抽出ツールについての検討を行った。これは明快な手法が考えられていない部分である。この部分についてはOMT(Object Modeling Technique)チャートによるシステムの定義を行い、設計の過程をタスクに分割し、それぞれのタスクで必要な知識やデータを整理し、計算機へのインプリメンテーションに直接利用できる形にプレークダウンしている。これをもとに船型抽出(Geometric Acquisition tool)、知識抽出(Select Tool)、船型修正ツール(Hull Variation Tool)を構築している。

 第9章以降で知識ベースシステム全体の検討に入り、システム構成の検討にはKADSが用いられている。

 第9章でKADSの概説を行い、第10章、第11章に船型設計モデルへの応用とインプリメンテーションについて述べられている。船型設計の各タスク分けを行い、システムのコンポーネント、タスクのアクティビティモデル、知識サブシステムの構成方法について検討した。これによりユーザーとシステム側のタスクのモデルと設計知識のモデルが明確に定義され、そのままインプリメンテーションが可能であり、きわめて有効な手法であることが示された。先に述べた、ツール群は船型設計ツール(Hull Design Tool)に統合されている。

 第12章には、アドバイザリーシステムの検討を行っている。エキスパートシステム設計ツールであるNexpertObjectを用いて設計パラメターに関して評価アドバイスをするシステムが構築されている。知識の抽出には知識抽出ツールが利用され、排水量等計算や抵抗に関するチャートによる推定プロセスや、データベースに含まれる類似船の数値範囲などが設計支援として表示される。

 最後に第13、14章に遠洋漁業船の設計を例としてシステムの立証を行っている。KADSダイアグラムで検討したように知識ベースを参照しながら効率的に船型設計が行えることを示している。

 以上、データベース、知識や設計に関するツール群、知識ベースから成る船型設計システムをOMTやKADS手法により明瞭に定義し、実際にシステムを構築し、初期船型の定義からシステムによる支援を受けながら修正をおこない船型設計が完了するまでのプロセスを効率的に行えることを示した。

 本研究により、知識ベースを用いた設計システムを構築する手順を示し、今後もこのような手法でかなり広範なシステム開発を行いうる見通しが得られた。システム開発方法論が明確でない中で一つの典型的な手法を示し工学的意味は大きいと言える。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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