プラズマ物理学は非線形現象に満ちあふれており、解析的に結果を出すことは難しい。そこで期待されるのは計算機によるシュミレーションと、ある場合の非線形をきちんと扱えるソリトン理論である。ソリトン理論によって現在までで非線形が厳密に解ける場合がたくさん分かってきた。これら最新の結果は未だ数学者だけのものであり、これらの工学的な応用は計り知れない。 このなかでもドロミオンといわれる高次元局在構造は、Davey-Stewartson方程式の1型といわれる方程式に特有の厳密解であり、最近見つかった全く新しい概念の非線形現象である。しかしこの方程式はこれまで水の波でしか理論的に導かれていなかった。今回これをプラズマ物理で導出することに成功した。それは、縦磁場中を垂直に伝播する静電イオンサイクロトロン波で起こることが明らかになった。 基礎になる物理系は ここで、n,vはそれぞれ、イオンの密度、速度であり、は静電ポテンシャル、b=(1,0,0)は外磁場を表す。また、であり、(イオンサイクロトロン振動数)、(イオンプラズマ振動数)の比を表す。 この系に逓減摂動法を応用する。波の郡速度で動く系から見ると包絡線の変調はゆるやかなので、 を得る。これを図示すると 図表 非線形の3次まで計算すると次の閉じた連立非線形方程式を得る。 ここで、,であり、やCiはキャリア波の波数や、磁場の大きさの関数であり、Vgは系の郡速度である。 以下では系の依存性は無視して、z方向は一様として空間2次元で考えてゆく。この方程式は、適当な独立変数の1次変換などによって、Davey-Stewartson(DS)方程式といわれる(2+1)次元可積分方程式に帰着できることが分かる。 始めに磁場のない時のイオン波の高周波部の振る舞いについて考えてゆく。このとき、先ほど導出した非線形方程式は適当な規格化により と書ける。ただし、以下では,,をそれぞれx,y,tで表すことにする。 この方程式はDS方程式の2型(DS2)といわれるタイプの方程式である。 この非線形方程式の新しい厳密解を求めよう。それにはまず、この方程式に対して2Q+|A|2=qという変換をし、その後、座標を45度回す。さらに変数変換 をする。すると、Fについて次の線形方程式に変換できることを見出した。 ここで、a(x,t)とb(y,t)は、任意関数でよく、これらを適当に選んでこの線形方程式を解くことにより、もとの非線形方程式の厳密解が得られる。さて、この任意関数をsech2にとり、Darboux変換を用いることにより興味深い厳密解を得ることができた。その振る舞いは、ソリトンがリコネクションを起こしていると見なすことができるものである。 図表 そしてこれは、一種の高次元ソリトンの共鳴構造として解釈できることが分かった。現在盛んに研究されている磁気リコネクションと同じ振る舞いをイオン波ソリトンがする、という発見はプラズマ物理学の基礎的側面で興味深いものと思われる。 今度は外部から定磁場がかかっているときの高周波モードの振る舞いについて考えてゆく。キャリア波の方向と磁場とのなす角度によって一般にその性質は変化する。ここでは、磁場に対して平行伝播と垂直伝播の場合について調べてゆく。平行伝播のとき、先ほどのDS方程式は連立でなくなり、つぎの3次元非線形シュレデインガー(3DNLS)方程式 になる。これに対してビリアル定理を応用しイオン波のコラプスの可能性を示すことが出来た。 次にキャリア波が磁場に対して垂直に伝播するときについて考えよう。ただしこのときは、厳密には基礎方程式にポアソン方程式は使えなくなる。なぜならイオンのラーマー半径に比べて電子のそれは小さいので、電子は、磁力線に沿った方向以外ではボルツマン分布ができないからである。よって、垂直からのずれがイオンと電子の熱速度の比程度以上でないと例のポアソン方程式は成立しない。だが、この比はかなり小さく、今回の摂動論の範囲内ではゼロとみなせるので、垂直伝播をこの意味で考えてゆけることになる。このとき、方程式は となる。ただしi,iは、波数kyと磁場の大きさとイオン密度の比を表わすパラメーターaの関数である。今度は方程式は結合系になり、DS方程式の標準形になっている。興味深いのはAの時間発展の方が楕円型、Qの方が双曲型のときである。このときはDS1型と言われ、2次元空間に局在するソリトン解があることが最近示されている。これはドロミオンといわれ、このDS1型に特有な厳密解で現在までで高次元における局在モードソリトンの唯一の例である。この方程式がDS1型になる条件を詳しくしらべてみるとその時は平面波の自己集束と自己捕捉が同時に起こりうることが分かった。つまり横と縦から平面波が同時に狭くなり成長していき非線形飽和が起こるので局在構造の形成の可能性がある。以上によりドロミオンは、変調不安定と自己集束が同時に起こり、それが非線形飽和してできる局在構造である、というプラズマ物理学的解釈を得ることができた。 静電イオンサイクロトロン波については通常のソリトンも存在するが、これについてもソリトン爆発といえる現象を見いだした。このDS方程式の通常のソリトン解の形をA=R(x,y,t)expi(px+qy+rt)として表すとZ≡m1x+m2y+m3tとして となることが分かる。ただし、,などは、パラメータでありkyとaを含んでいる。 この解は1ソリトンの伝播を表している。ここで、もし分母がゼロになるようなパラメータ領域があったときはソリトン解は爆発してしまう。上の式から解が特異性を持たないためには>0かつ>0でなくてはならない。しかしここで、>0を保ったままで<0になったとしたら、ソリトン解は特異性を示し爆発する。この,は磁場の大きさ、イオン密度などのパラメーターを含み、これらは外部から制御可能なのでこの<0となる状況を人工的に作り出すことが可能である。これは、縦磁場をうまく調整することにより人工的にソリトンにエネルギーを与え、理論上そのエネルギーを任意の場所で発散させることができる、というものである。これは、ソリトンによるエネルギー輸送や制御に使える概念であると考えている。 次にこのドロミオンの安定性であるが、これも最近様々な角度からの数値計算を行った結果、安定であることが結論できた。これにより、ますますドロミオンの応用が期待される。また、このドロミオン同士の衝突に関する計算機シュミレーションも行った。一般にソリトンの厳密解を走らせるのはかなりの高精度のスキームを用いなければならない。そこでこのDavey-Stewartson方程式の高精度計算スキームを加速法とパデ近似を用いる方法を利用して新たに開発し計算を行った。その結果、始め2つのドロミオンが衝突の結果4つに分かれることが分かった。そして4つへの分かれ方の普遍的な法則を見出した。それは衝突の途中に出来る一定周期の振動パルスと衝突の相対速度の競合で決定されるというものである。この一種の非弾性散乱は理論的に見ても興味深いものであると思われる。 図表まとめ 本論文では静電イオン波の高次元ダイナミクスをソリトン理論を用いて解析した。まず、磁場がないときのイオン音波を調べたところ、ソリトン同志のリコネクションを示す現象が起こることが分かった。これはDavey-Stewartson方程式の2型で記述され、様々な場合のリコネクションに対してその振る舞いを表す厳密解を求めることに成功した。それは、一種の高次元ソリトンの共鳴構造として解釈できることが分かった。 次に外磁場のあるときで、その平行と垂直伝播について詳しく調べた。平行伝播の時は強磁場中でのイオン波のコラプスの可能性が示唆された。そして縦磁場中を垂直に伝播する静電イオンサイクロトロン波についてはその方程式のタイプがDS1型になり得ることが分かった。この型の方程式は現在まで水の波の表面波でしか理論的に導かれていなかったが、今回これをプラズマ物理で導出することに成功した。そしてこの方程式特有の厳密解であるドロミオンは、物理的には変調不安定と自己集束が同時に起こり、それが非線形飽和してできる局在構造である、という解釈を得た。 静電イオンサイクロトロン波の通常のソリトンについてもソリトン爆発といえる現象を見いだした。これは、縦磁場をうまく調整することにより人工的にソリトンにエネルギーを与え、理論上そのエネルギーを任意の場所で発散させることができる、というものである。 次にこの構造の安定性であるが、これも様々な角度からの数値計算を行った結果、安定であることが結論できた。このドロミオン同士の衝突に関する計算では、始め2つのドロミオンが衝突の結果4つに分かれることが分かった。この一種の非弾性散乱は理論的に見ても興味深いものであると思われる。 |