本論文は、「2次曲面の位置・姿勢推定における最適化手法に関する研究」と題し、ロボットに知的な作業を行わせるために必要な3次元物体の位置・姿勢推定において、レーザレンジファインダ等を用いて得られる3次元距離画像データから物体表面を2次曲面に近似し、マトリクス対角化によって予め用意されているCADのデータとマッチングさせる手法とグラディエントフローを直接用いた最適化手法により3次元物体の位置・姿勢推定をロバストかつ実時間で行うことを提案したものであり、7章より成る。 第1章は「序論」で本研究の背景と目的を述べると共に主要な内容を概観し、本研究の位置づけを行っている。すなわち、ロボットに知的な作業を行わせるにあたり、3次元物体の位置・姿勢推定能力が要求され、環境情報の抽出に関して数多くの研究が行われている。この課題に対して、本研究ではレーザレンジファインダ等の測定装置から得られる3次元距離画像データに基づいて、3次元曲面を2次曲面に近似し、CADデータとのマッチング問題を構成し、3次元曲面物体の位置・姿勢の推定を行ったことを述べている。 第2章は「本研究の問題設定」と題し、本研究と関連した他の研究について概観し、2次曲面の性質や分類などに触れ、ユークリッド空間での位置・姿勢や異なる座標系における座標変換などについて概括し、従来の位置・姿勢推定における問題点を挙げ、その解決のための課題を設定している。 第3章は「2次曲面の係数推定」と題し、3次元物体上の曲面を2次曲面で近似し、その係数推定問題を取り上げている。測定データに雑音が入っていない場合は曲面係数が正確に推定されるが、雑音が入っている場合は推定誤差が大きくなって曲面の形状さえ変わることを明らかにし、その解決方法として補助変数法(Instrumental Variables)を用いることを提案している。すなわち、2次曲面の係数を通常の最小2乗法で推定するとバイアスされた推定になるが、そのバイアスされた推定を補助変数法によって除去できることを述べている。 第4章は「マトリクス対角化による2次曲面物体のポーズ推定」と題し、第3章で得られた推定係数行列をもとに、CADデータとのマッチングによる2次曲面物体の位置・姿勢の推定を行なっている。マッチング問題を最小2乗評価関数の最適化と捉え、代数的な処理方法を提案し、シミュレーションを通じてその妥当性と誤差解析を行っている。又この方法は、代数的な処理方法であるため大幅な計算時間の高速化が図れることを示している。 第5章は「グラディントフローによるポーズ推定」と題し、最近注目を浴びている微分幾何的な手法であるグラディエントフローによる最適化法を導入し、2次曲面物体の位置・姿勢の推定への応用について検討している。ここで提案された並進を含むグラディエントフローは解の存在と一意性と平衡点への収束が保証され、最急降下的にグローバルミニマムへの収束が期待されている。グローバルミニマムへの収束に関しては平衡点の解析とシミュレーションにより検討を行なっている。また、最適化の初期値に第3章、第4章で得られた位置・姿勢を用いることによって精度、実時間性を向上させる手法も提案している。 第6章は「実験」と題し、レーザ光とカメラで構成されたレーザレンジファインダ(LRF)を試作し三角測量原理で3次元距離画像データを得て、そのデータに基づいて第3章、第4章と第5章で提案したアルゴリズムによる2次曲面のポーズ推定を行ない、提案した方法の妥当性を示している。 第7章は「結論」で、本研究で得られた知見及び今後の課題をまとめている。 以上これを要するに、本論文はロボットに知的な作業を行わせるときに必要となる3次元物体の位置・姿勢推定において、レーザレンジファインダ等を用いて得られる3次元距離画像データから物体表面を2次曲面で近似し、マトリクス対角化法によるCADデータとのマッチング及びグラディエントフローを直接用いた最適化手法による3次元物体の位置・姿勢推定をロバストかつ実時間で行うことを提案し、さらにその組み合わせによる精度、実時間性の向上を提案し、シミュレーション及び実験によりその有効性を検討しており、電気工学上貢献するところが少なくない。 よって著者は東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻における博士の学位論文審査に合格したものと認める。 |