学位論文要旨



No 111127
著者(漢字) 森實,俊充
著者(英字)
著者(カナ) モリザネ,トシミツ
標題(和) 鉛直移動を目的としたリニア誘導モータ駆動システムの研究
標題(洋)
報告番号 111127
報告番号 甲11127
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3371号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 正田,英介
 東京大学 教授 河野,照哉
 東京大学 教授 曾根,悟
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 助教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 小野,靖
内容要旨

 リニアモータの応用についての研究は、1960年ごろ高速鉄道にリニアモータを応用しようという提案がなされてから活発に行なわれるようになってきた。現在、リニアモータの応用範囲は鉄道分野だけではなく輸送機関、工場内搬送装置、自動機械、OA・FA機器など、様々な分野を中心に着実に拡っている。回転機に比べて効率、力率、並びにその他の点において不利であるリニアモータを使用する最大の利点は、(主にギアによる)力の変換機構を介さずに直接直線運動が得られる、すなわちダイレクトドライブ(Direct Drive)という点にある。特に、交通輸送及び工場内搬送装置における動力装置の小型化、クリーン化、OA・FA機器のコンパクト化など、従来の回転機のシステムにおいては力の変換装置がある限り実現が困難な分野、あるいは実現可能性の限界が見えてきた分野において、リニアモータはその利点を充分に生かすことが出来るため、さらに応用が進むと考えられる。

 現在の鉛直方向の乗客及び貨物の移動に対しては、エレベータあるいは巻き上げ機が用いられているが、特に以下の述べるような分野において、非接触ダイレクトドライブ、構成構造の大きい自由度、能動制御性、幅の広い性能範囲などのリニアドライブの特徴を活かしたシステムの構想が数多く提案され、注目を集めている。

 ・超々高層ビル

 ・大深度地下空間利用

 ・微小重力試験設備

 ・産業プラントでの応用

 ・部分的な応用

 しかし、現実には鉛直方向リニアドライブシステムは、極めて初歩的な応用段階であり、

 ・リニアモータの高推力化とペイロード比の向上

 ・リニアモータによるブレーキ技術の確立

 ・非接触ガイドの開発

 ・鉛直リニアドライブシステムとしての完成

 などの基礎的な研究が不可欠である。

 また、現在の鉛直方向応用研究の趨勢は、二次側の構造が複雑になる代わりに容易に高推力を得られるなどの利点から、永久磁石式のリニア同期モータに関するものが多い。リニア誘導モータ応用に関しては、二次側の構造が簡単であり、同期をとる必要がないなどの利点を有し適用性が広いモータであるが、鉛直方向への応用を考えた場合、その設計条件は極めて厳しいと考えられており、リニア誘導モータの鉛直方向応用の技術的限界等を直接考察した研究は少ない。

 本研究では、リニア誘導モータの鉛直方向応用としてロープレスエレベータを取り上げ、リニア誘導モータで鉛直方向応用がどこまで実現可能であるのか、あるいはどの様なシステムなら実現可能であるかを詳しく検討する。

 鉛直方向応用の駆動システムは、大きく分けて短一次(かご一次)方式と長一次(昇降路一次)方式の二方式が考えられる。各々の方式について、システムとして実現するために、リニア誘導モータに要求される条件を検討した。検討結果より要求条件がもっとも厳しい短一次(かご一次)方式の技術的実現可能性を検証するため、リニア誘導モータをペイロード比(推力/モータ自重)を最大化する最適設計を行なった。鉛直方向応用の対象として、円筒型リニア誘導モータとU字形リニア誘導モータを取りあげ、モータの最適設計を次の3つのステップで行なった。

 1.円筒型リニア誘導モータのスロットの影響を無視するモデルを用い、推力概算式、自重概算式等、モータパラメータの算術式で書き表される概算式を導き、その概算式によりベイロード比の最大化を行なった。このモータ設計により、ポールピッチ、二次導体厚、モータ内半径のパラメータを定めた。

 2.スロットの影響を考慮したモデルを用いて前ステップのモータ設計により得られたパラメータを基にペイロード比の最大化を、特に(スロット幅/スロットピッチ)を変化させ目標としたモータ設計を行なった。推力の算出には三次元有限要素法を用いた数値解析を行ない、ペイロード比1を越えるモータ設計を行なえることを示した。

 3.実用に近い形としてU字形リニア誘導モータのベイロード比を、特にモータの縦横の長さの比をパラメータとして最大化を行ない、モータパラメータを決定した。推力は前ステップ同様、三次元有限要素法を用いた数値解析より求めた。

 これらのリニア誘導モータの最適設計の結果を用い、システムの構成、設計を行なった。上述した駆動システムの検討事項と照らし会わせ、リニア誘導モータに有効な鉛直方向応用システムの検討を行なった。システムとして、回生エネルギーの回収等電源設備似ついても検討を施し、最終的に、上で得られた鉛直方向移動を目的としたリニア誘導モータ駆動システムの評価を行なった。

 以上のように本論文は、リニア誘導モータの鉛直方向応用について、数値解析を通して技術的可能性について触れ、リニア誘導モータを応用したシステムの検討を行なった。

図表図1:ロープレスエレベータの概念図 / 図2:リニア誘導モータ駆動システムの方式図表図3:円筒型リニア誘導モータ / 図4:U字型リニア誘導モータ
審査要旨

 本論文は「鉛直移動を目的としたリニア誘導モータ駆動システムの研究」と題し、最近実用化の進展の著しいリニアモータを鉛直方向の移動システムに適用することを目的として、その構成方法について具体的に検討を加えることにより、リニアモータに要求される機能、その方式、および配置などを明確にした上で、リニア誘導モータの適用を提案し、その最適設計について論じ、応用の技術的可能性を示すとともに、具体例について考察した結果をまとめたものであって、6章で構成される。

 第1章は「序論」であって、リニアモータの応用を必要とする各種の鉛直方向移動システムの開発や提案例を示して本研究の背景を述べるとともに、具体的に各種のリニアモータを適用した場合の問題点を示して、本論文の目的についてまとめている。

 第2章は「鉛直方向応用リニア誘導モータの駆動方式の検討」であって、本論文で研究の対象とするリニア誘導モータ方式の現在までの鉛直方向への移動システムへの部分的な適用例を示して、ロープレスエレベータなどの完全な鉛直方向移動システムを実現するためにリニア誘導モータに要求される性能と構成方式を論じて、以下に検討するモータ設計の目標を明確にしている。

 第3章は「鉛直方向応用リニア誘導モータの最適設計法」と題し、本論文の目的に合致した円筒形リニア誘導モータとU字形リニア誘導モータについて要求される性能を満たすためのそれぞれの構造に適した最適設計手法について論じている。円筒形ではその構造の対称性に着目して、まず、スロットの影響を無視してペイロード比の最適化を行いモータの主要パラメータを決定した上で三次元有限要素法による電磁界解析でスロット設計の最適化をはかっている。実際の装置への組み込みが容易なU字形では複雑な構造から有限要素法でしかその特性を解析できないので、パラメータの最適化は簡略化して円筒形のモデルにより行い、その特性を有限要素法で検証するという形をとっている。合せて三次元有限要素法による電磁界解析手法の妥当性を示すために試作した小形の円筒形モータでの実験を行い、手法の基礎を験証している。

 第4章は「鉛直応用リニア誘導モータの最適設計」であって、前章で導かれた手法によってまず短一次形式の円筒形リニア誘導モータの設計を最適化し、その特性とパラメータの関係を明らかにしている。スロット設計を最適化することによって電機子を外部に配置することでペイロード比が2を越える装置の実現が可能で、実用につながる駆動システムがえられることが示された。U字形では駆動力に寄与しない面の大きさを最小化する設計を行っているが、それでも1を大きく越えるベイロード比がえられず、短一次形式では実用化の領域が狭いことを明らかにしている。合せて一次・二次間の吸引力を求めて、それが相対的に大きく、応用システムでは駆動機構が簡単にはなるが、支持機構が複雑になることを示している。

 第5章は「リニア誘導モータによる鉛直駆動システムの検討」と題して、ロープレスエレベータと軽量の搬送設備についてそれぞれ円筒形モータとU字形モータを適用する場合を上記の設計に基づいて検討し、その実現の可能性を示すとともに、基本的な特性を論じている。円筒形を用いればロープレスエレベータも実現可能であると結論している。さらにこのようなシステムで停電や電源の脱落時にも駆動力や制動力を保持するために、電力供給系に超電導エネルギー貯蔵装置を組み合わせて対応することを提案し、シミュレーションでその有効性を検証している。

 第6章は「結論」であって、本研究の成果を要約し、関連する諸問題とその解決の方法などについて展望している。

 以上、これを要するに、本論文は近年実用化の進展の著しいリニアモータを鉛直方向の駆動システムに適用するこを目的として、円筒形およびU字形のリニア誘導モータにつきその具体的な構成を検討し、設計の最適化によって円筒形では技術的に応用の可能性をもつ新しいシステムがえられることを示すとともに、そのための設計手法を明確にしてその具体化に有用な知見を与えているものであって電気工学上貢献するところが少なくない。

 よって著者は東京大学大学院工学系研究科(電気工学専攻)における博士の学位論文審査に合格したものと認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/1813