内容要旨 | | モデルベース適応制御,(モデルベース)可変構造制御,または(モデルベース)スライディングモード制御は物理システムの制御のために実行可能な形である.受動性の定式化のもとでこれらの方法論を研究すると,安定性に関する性質がエネルギー的な議論から派生するエレガントで効率的なロボットコントローラを得ることができる.この方法はロボットの動力学を問題の一部として考えるロボットコントローラの設計指針となる.1981年に提案された非適応型コントローラの原型は,古典的なブラックボックス的アプローチから脱却したという意味で成功した.機械系のエネルギーの形状を変えるという概念がこのコントローラで利用され,エネルギーに基づくリャプノフ関数を使った機械系の制御と安定性の議論が確立された.同じ年にこの概念を使った最初の適応型コントローラが提案された. 1986年に提案されたアルゴリズムはラグランジュ動力学の構造を利用することによって2つの重要な問題を解決し,1986年以前と以降の適応的ロボット制御に一線を画した.モデルベース適応制御と呼ばれるこのコントローラは,現在エネルギー再形成またはダンピング注入アプローチとして知られる内容を意味し,1981年に提案された非適応的なレギュレータと似ている.この制御の方法は後に受動性に基づくアプローチとして定式化される.受動性の定式化は,エネルギー的リャプノフ関数または擬似リャプノフ関数を設けるためにシステム理論では有用である.しかしながら,従来この受動性はロボットアームのコントローラ設計のための道具を確立することなく扱われていた. 受動性に基づくコントローラの安定性の証明はエネルギー散逸の概念に基づく.このアプローチは直観的な解が得られるというだけでなくロボット動力学と物理システムの安定性に対する洞察が得られるという意味で魅力的である.1986年以降,受動性の定式化の中に含めることが可能ないくつかの大域的に漸近安定な適応型コントローラが提案されている.これらのコントローラはパラメータの不確定性だけが存在すると考えている.しかしながら,実際にはロボットとロボットモデルとのずれが存在するので,ロバストなコントローラを設計することが求められる.ここでのロバスト性は,閉ループがパラメータの摂動以外の擾乱にpersistent exciting軌道のような仮定なしに耐えることを意味する. ロボットアームの適応制御は擾乱のないプラントの非適応制御よりも優れた性能を発揮することが既に証明されているので,ロボットマニピュレータに対するロバスト適応コントローラの研究は大いに意味がある.一方でスライディングモード制御は高い周波数の制御入力に対して非常にロバストな追従を可能にする.適応制御系とスライディングモード制御系の間には相補的な安定性の性質が存在するので,両者の結合は高い性能をもつコントローラを設計する指針として大いに魅力的である.この論文ではモデルベース適応制御とモデルベーススライディングモード制御を受動性の定式化のもとで研究し,両者を結合した効率的な適応型スライディングモード制御の設計を提案する.この制御法はそれぞれを単独で用いたときより優れた安定特性をもつ. この結合コントローラに関連したいくつかの問題点がある.VSS(可変構造制御)と適応制御を結合する長所はあるのか?結合したコントローラの安定性のメカニズムは何か?結合コントローラは既存のコントローラよりも優れた性能をもつか?受動性に基づくアプローチはこれらの問いに肯定的な答を与え,VSSと適応制御のある相補的な長所を保つのに適したスライディングモード誤差座標系の設計に役立つ.誤差座標系の設計は動的スライディング面の設計として見ることができ,この誤差座標系を新たにスライディングモード誤差座標系と名付ける.この座標系はロボットの動力学と無関係であるので,同じ非線形の変換が非線形動的システムのあるクラスの関連した問題に応用できる. 新しいスライディング誤差座標系ではシステムは受動性を保存し,その結果可変構造適応コントローラを提案することが可能になる.さらに「VSS推定量」と呼ぶロバストなパラメータ推定則の新しいクラスを提案する.この推定則はパラメータの安定性の性質をより高めることを目的とする.VSS推定量は,パラメータのドリフトやモデル化されていない動力学に対するパラメータの安定性という重要な問題を取り扱うことができる.これらVSS推定値は,典型的なVSSがそうであるようにパラメータ推定に対するロバスト性をある程度保存する.この結果は高いパラメータの安定性をもった自由運動の動力学のための受動性に基づく適応スライディングモード制御の大域指数関数的収束性を意味する.いくつかの条件のもとでシミュレーションを行い,極端な条件のもとで高い性能を得ることができた.また2自由度ダイレクトドライブアームを用いて行った実験によって,提案方式の有効性を実証した.同時にコントローラの構造を詳細に議論し,この分野における将来的な展望を指摘する.新しく提案した誤差座標系では,積分型推定量またはVSS型推定量のいずれもwind-up効果を生じない.この事実は初期条件の大きな誤差を取り扱うときに重要でかつ実用的な事実を示唆している. 次に研究する問題はホロノミックな制約のもとでロボットマニピュレータを制御する方法である.すなわち,位置と接触力の追従誤差の両方が大域的に収束するコントローラの設計についてである.この問題に対して導入する誤差座標系は,自由運動の場合に提案された誤差座標系の自明でない直交化版として見ることもできる.すなわち,我々は拘束された運動に対する直交スライディングモード誤差座標系を提案する.この座標系では,受動性の解析によって力と位置の追従誤差の指数的収束性へと到るエネルギー的擬似リャプノフ関数が示唆され,閉ループシステムの受動性が保存される.自由運動の場合と同様に,より高いパラメータの安定性を保証する三つのパラメータ推定量を提案する.多様な条件のもとでシミュレーションし,コントローラの構造を議論する.また,2自由度のダイレクトドライブアームに対してこの制御法を適用して本方式の有効性を確認し,いくつかの興味深い結果を導き出した.ある数値積分の問題とともにロバスト性に関しても言及する.最後にこの定式化から得られるいくつかの副産物を提示し,将来的な展望を指摘する. 最後に研究する問題は自由運動から拘束運動へ,または拘束運動かう自由運動への安定な推移を実行するための方法である.システムが自由運動と拘束運動の間で切り替わるとき,閉ループシステムの安定性を保証する方法を考察する必要がある.環境と接触しまた環境から切り離されるこれら運動タスクは推移運動と呼ばれる. ここでは有限の衝突力と理想的な接触方向の仮定に基づいて,推移タスクが安定に実行できることを保証するための厳密な安定性の証明を提案する.一つは自由運動のための,そしてもう一つは拘束運動のための二つのうまく確立した連続的な適応コントローラを考察する.閉ループシステムの安定性の証明は一般化動的システム(GDS)と受動性の議論に基づく.GDSの概念は安定性の厳密な証明を得るために使われる.GDSは一般化リャプノフ関数を使うことを実証する.このアプローチは衝突の不連続性を受容するので期待できる.このアプローチは微分方程式の代わりに包含方程式を考慮し,勾配は一般化勾配に,点は集合に置き換えられる.それらは有界衝突力によって導入される不連続性を許容する.コントローラは不連続に移り代わる三つの連続的な適応コントローラから構成される.構造的なダンピングを通した衝突力を補償することによって,閉ループシステムは大域的に漸近的追従性をもつ.本論文では2自由度のダイレクトドライブアームに対するシミュレーション結果を報告する. 本論文では他の関連問題についても報告する.回帰子のない漸近安定なシステムについて議論する.ホロノミックな機械系に対して制約をもつロバストな安定化アルゴリズムを呈示する.また,制約をもつ冗長なロボットマニピュレータに対して適応制御を応用する方法についても述べる. 要約すると,この論文はn自由度のロボットマニュピレータの非線形ラグランジュ動力学に対して,受動性に基づく適応的なスライディングモード制御の設計を取り扱っている.ある新しいロバストな推定量のクラスが同時に導かれている.このコントローラは,自由運動と拘束運動に対するロボットアームの大域的かつ指数関数的に安定な適応コントローラに相当する.この研究は推移タスク(自由動力学と拘束された動力学の間を推移するロボットマニュピレータ)を実行する漸近安定なコントローラと相補的な関係をもつ.この結論は多くのシミュレーションデータによって実証され,実験結果を将来的な展望とともに報告する. |