本研究の目的は、使用済み核燃料の再処理工程において複雑な挙動を示すNpとTcについてその酸化還元挙動を実験的に調べ、かつその結果に基づく数値解析を行うことによりPurexプロセスの改良を行うことにある。 論文は、第1章,序、第2章,低温におけるウランの光還元とNpの除染、第3章,オゾンを用いたNpの原子価制御、第4章,ルーザーラマン分光法を用いたReの反応速度測定、第5章,交流電場を用いたTBP-硝酸系での液液抽出、第6章,再処理プロセスシミュレーションコードの開発、第7章,Uの光還元を利用した非還元分配工程の改良、第8章,部分分配法の簡素化とNpの制御、第9章,結論、の9章から構成されている。 第1章では、現在の再処理プロセスの概要とその問題点、及びTcとNpに関する既往の研究に言及している。 第2章では、ヒドラジンを還元剤としたU(VI)の光還元の量子収率を室温から-25℃の範囲で測定している。照射強度は.5mWで、初期U(VI)濃度1M、硝酸濃度2-6M、ヒドラジン濃度は0.01-1Mの範囲である。量子収率は室温から温度が低くなるほど向上し-25℃では0.1程度となること、また-5℃、硝酸2Mの場合、ヒドラジン濃度が低いと量子収率はほぼ0であるが、濃度0.1M付近において急激に増大しそれ以上ではヒドラジン濃度の増加に伴なって量子収率もゆるやかに増大することが示されている。さらに晶析を併用したUからのNpの除染についても実験を行い、光照射によって除染係数が大幅に向上することが示されている。 第3章では、Npの酸化法のうち、オゾンによるNp(V)のNp(VI)への酸化を検討している。Np溶液へのオゾンの直接の吹き込みではNp総量に対するNp(V)の比は吹き込み時間に対して直線的に減少し、減少速度は温度が低いほど大きいことが明らかにされている。オゾン吹き込み停止後のNp(VI)→Np(V)の再還元の還元速度は温度が高いほど大きく、還元は酸化に比べて非常に遅いことを示し、抽出工程の直前にオゾンの吹き込みを行った場合には抽出器内での再還元は問題とならないとしている。再還元が大気中の成分の溶液への溶解に伴なう反応であることも示唆されている。 第4章では、Tcの模擬物質として知られるReの濃度測定の方法としてレーザーラマン分光を導入し、従来の溶媒抽出や発色などに比べて高速の原子価分析を行っている。光源にはアルゴンレーザーの514.5nmの発振線を、定量には536nmにピークを持つラマン散乱光を用いている。チオシアン酸の添加ではRe(VII)のラマン信号は1秒以下の急激な減少の後、10分程度かけて再び増加する。このことはRe(VII)が一旦還元されるものの暫く後には再び再酸化されてVII価に戻ることを示している。この結果と吸光度の測定から、Re(V)と錯体形成したチオシアン酸の分解によってRe(V)が不安定になって再酸化されていることを見い出している。 第5章では、TBPを用いた溶媒抽出システム中での水相硝酸の分散に交流電場を応用している。10%TBP中で交流電場によって微細化された液滴の分布は対数正規分布にのり、平均液滴径は0.02mmであること、抽出の効率が電場の周波数に伴って増大すること、有機相の電気伝導度の増加のため交流電場の応用はTBP濃度が低いほど適していることなどを実験結果より示している。 第6章では、硝酸,亜硝酸,U(VI),(IV),Pu(III),(IV),Np(IV),(V),(VI),Tc(IV),(V),(VI),(VII),Am(III),Cm(III),Zr,Ru,Cs,Sr,Nbと硝酸ヒドロキシルアミン(HAN)及びヒドラジンについて分配係数式と相互の酸化還元反応の速度を考慮したPurexプロセス中の溶媒抽出工程のシミュレーションコードを開発している。Uについては光化学反応による還元を、F.P.についてはDBPの影響をも考慮できるようにしており、温度については熱交換器による強制的な温度制御とフィード温度と主要核種の抽出に伴う発熱・吸熱及び抽出器壁面での外界との熱交換等のうちから任意のものを考慮できるようにしている。基本的に完全混合槽列モデルであるが、抽出器内でのエントレインメントも模擬し、還流とステージ内還流、ホールドアップの変動、化学反応による増減及び分配係数を含む連立微分方程式を繰り返し計算で解いている。コードは共除染工程での硝酸、U(VI),Pu(IV)とF.P.、分配工程における硝酸、U、Pu、Npについても実験結果との比較による検証を行い、良い一致を示している。 第7章では、非還元分配工程が低温で行われるという点に着目し、第2章で得たデータをもとに光照射によって除染係数を向上させることを検討している。シミュレーションは16段のミキサセトラを想定し、照射を行う段と照射強度をパラメータにしてU製品中に混入するPuの濃度を温度5℃の条件で調べ、後半の段で僅かに残ったPu,Npに対して還元を行うことが効果的であるという結果を示している。照射強度の影響も調べ、U製品中のPu濃度の対数が0-2kWの範囲で照射強度に対してほぼ直線的に減少することを示している。 第8章では、現在の再処理工程を改良することを目的に、UとTRUをPu製品に適度に移行させ、MOX燃料と同じ組成の製品として取り出すのに適したプロセスを設計している。分配工程には18段のミキサセトラから成るU(IV)還元のフローシートを想定し、スクラブ流量、Puストリップ液流量、還元剤濃度などをパラメータとしてU製品中に含まれるPu,Npの濃度とPu製品中に含まれるU濃度を求めている。還元剤濃度を必要量とほぼ同量に抑えることでPuの除染を行いながらNpを還元してPu製品側に移行させうること、スクラブが10%まで減少した場合にはNpは70%がPu製品側へと移行し、プルトニウム製品中に占めるUの比は85%となりMOXの組成と同程度になることなどを明らかにしている。 第9章は結論であり、各々の章に示された成果がプロセスの改良に対して有効であると結論している。 以上を要するに、本研究は、核燃料再処理プロセスの改良に役立つ多くの有益な知見を得ており、システム量子工学とくにシステム設計工学に寄与するところが少なくないと判断される。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |