1.はじめに 数値解析を理論、実験と並ぶ手法として確立するために、そのユーザーインターフェイスの大幅な改良が必要とされる。数値解析過程をシステムとして捉えた場合,ユーザー・システム間の入出力情報は基本的には物理現象を表わすモデルであるべきである。物理現象のモデルとは、解析対象となる形状と、形状に分布する各種物理量、そしてそれら各種物理量同士の関係を表わす方程式(偏微分方程式)の組み合わせである。現実には、有限要素法解析の場合について、形状はメッシュ、物理量分布はメッシュに付随する数値群、そして方程式は解析プログラムとしてモデル化されなければならない(Fig.1参照)。取り扱う物理現象の複雑化に伴って、これら三者の関係はより密接なものとなる。それにより、以上のモデル化作業で要求される労力は、無視できないほど大きなものとなる。 Fig.1 User Inter face of Finite Element Analysis 理想的な数値解析システムでは、以上の作業が極限まで自動化されるはずである。ユーザーは解析形状を入力し、形状の各部分に対し、作用する物理量分布(初期、境界条件)と、物理量同士の関係を示す方程式とその中で用いられる定数群(材料物性値)を指定する。次にユーザーは、解析によって求められつべきもの(解析結果)を、形状に基づいて指定する。その他の作業はすべて自動化される。物理現象の方程式群と各解析条件の取り扱い方は解析プログラムに変換される。一方、形状はメッシュに変換され、解析条件をメッシュに張り付けることによって解析プログラムの入力情報が生成される。解析を制御する各手法とパラメータは、知識処理やアダプティプ制御により、自動的に最適化される。解析された物理現象は、それがあたかも実際に実験されたかのような形で可視化される。 このような解析システムを実現するためには、形状モデルと解析プログラム入出力情報との間の自動変換技術と、物理現象表現から解析プログラムへの自動変換技術が必要となる。前者は自動要素生成、解析結果可視化技術を始めとする各種プレポスト処理技術の進歩により、十分実現可能であると思われる。一方、後者は、物理現象表現の計算機上でのモデル化と、それからのソースコードの自動生成という技術的に困難な課題を抱えているが、近年のソフトウェア工学の進歩により、徐々に可能となりつつある。本研究では、前者に対し、仮想現実感技術を利用した「メッシュの見えない」プレポストプロセッサを開発した。また、後者に対しては、オブジェクト指向CASE(Computer Aided Software Engineering)技術に基づくソースコード自動生成を開発した。 2.仮想現実感技術によるプレポストプロセッサ 数値解析に対して解析者が抱く理想的なイメージは、解析対象となる形状と解析条件とから、指定の計算機資源・時間の許す範囲で必要十分な精度の解析解を求める、というものであると考えられる。これを忠実に再現するためには、「メッシュの見えない」有限要素法解析支援システムが必要となる。本研究では、出力デバイスとして立体視ディスプレイ、入力デバイスとして三次元マウスを用いて、「メッシュの見えない」統合型有限要素法解析支援システムを開発した(Fig.2,Fig.3参照)。 図表Fig.2 Hardware Configuration / Fig.3 Finite Element System Configuration3.オブジェクト指向CASE技術による有限要素法解析コードの自動生成 有限要素法解析を用いてより現実的な解析を行う場合、解析規模の巨大化は必然となってくる。より詳細な形状モデルや解析条件を表現する場合だけでなく、より高度な解析手法(たとえば、動的問題、非線形問題、連成問題)を選択した場合においても、それがより高精度を解を要求するために、きわめて巨大な有限要素モデルを扱わなければならなくなる。 このような有限要素解析システム、特に解析コード自身を開発するためには、 1)多分野・非線形性・時間軸変化を扱うためにより高度な計算力学手法を採用する 2)大規摸化を達成するためにより高速な計算手法を採用する 3)多種類の高速計算機環境への移植性を確保する といった、3つの条件を同時に満足させる必要がある。本研究では、オブジェクト指向ソフトウェア工学技術を有限要素法解析コード開発に導入し、CASEツールを開発した(Fig.4参照)。 Fig.4 Software Engineering Processes of Finite Element Analysis Code4.おわりに まず、形状モデルと解析プログラム入出力情報との間の自動変換に関して、立体視ディスプレイと三次元マウスを用い、「メッシュの見えない」有限要素法解析システムを仮想現実感環境上に構築した。 1)従來のメッシュを基礎とする「有限要素モデル」の代わりに、形状を基礎とする「解析モデル」を直接の操作対象としてユーザーインターフェイスを再構築した。 2)解析者がメッシュを一切気にせずに作業を行えるよう、アダプティブ・リメッシングによる自動解析機能を採用した。 3)リアルタイムで可視化操作を行えるよう、解析規模に対話速度が依存しない物理量分布可視化技術を採用した。 つぎに、物理現象表現から解新プログラムへの自動変換に関して、有限要素法解析コード開発のためのオブジェクト指向CASEシステムを開発した。OMT記法と有限要素法向け仕様記述言語を用いて、各種構造解析問題を記述した。さらに、これをもとにワークステーション、ベクトルスーパーコンピュータおよび超並列計算機など、各種高速計算機向けに最適化されたソースコードを自動生成できるようにした。 |