学位論文要旨



No 111167
著者(漢字) 渡部,政行
著者(英字) Watanabe,Masayuki
著者(カナ) ワタナベ,マサユキ
標題(和) 低qトロイダルプラズマに対するパルス誘導電場の影響
標題(洋) Effect of Pulsed Electric Field on Large-Current Toroidal Plasmas
報告番号 111167
報告番号 甲11167
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3411号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 井上,信幸
 東京大学 教授 中沢,正治
 東京大学 助教授 小川,雄一
 東京大学 助教授 小野,靖
 東京大学 助教授 吉田,善章
内容要旨

 低qトロイダルプラズマは安全係数qが1以下の分布を持つトロイダル電流系プラズマであり、比較的高電流密度という長所のためにトカマクプラズマと比べてコンパクトな核融合炉の可能性を秘めている。そのため低q領域に於けるプラズマ閉じ込めの研究は次世代の原子炉の研究として工学的に重要な研究テーマの1つである。また電磁流体力学的緩和に伴う自己組織化現象がプラズマの配位の形成、維持に重要な働きをしていて、この様な現象は太陽プラズマ(コロナ、フレアー)に於ける爆発的な加熱機構、また地球磁場の形成、維持機構(ダイナモ機構)等の物理と多くの類似点を持ち理学的にも興味深い研究テーマの1つである。内部電流を持つトロイダルプラズマ系ではその磁場構造は外部コイルで生成されるトロイダル磁場と内部電流自身が生成するポロイダル磁場との結合によって形成される。低qトロイダルプラズマでは自己組織化現象が強く働き、その非線形的な作用がプラズマの閉じ込め特性に強く影響していている。系の持っている磁気エネルギーはプラズマの揺動を介して急速に散逸し、自分自身で独特な磁場空間構造を形成してゆく。この様な系の構造は無力磁場配位(▽×B=B)と呼ばれ磁束密度と電流密度が平行となる空間構造が形成される。そこで空間構造が自発的に形成、維持される系の機構を詳細に調べることを目的として極低qプラズマ(ULQ),逆転磁場ピンチプラズマ(RFP)にパルス的な電場を印加する実験を行った。パルス電場の印加実験により無力磁場配位にあるプラズマの磁場構造が急速に変化させられた場合の過渡的な現象を調べることが可能である。パルス電場の印加方法は急速なトロイダル磁場の変化によりプラズマのポロイダル方向に、また追加的な周回電圧の印加によりプラズマのトロイダル方向に印加される。ポロイダル印加電場の方向はトロイダル磁場を急速に増加させる場合と減少させる場合によって選択的に両方向に印加することが可能である。トロイダル磁場を急速に変化させた場合のF-曲線上でのプラズマ特性の変化を下図に示す((a):減少、(b):増加)。横軸のPinch Parameter ,はプラズマ電流と平均のトロイダル磁場との比を表す量であり、縦軸のReversal ParameterF,はプラズマ周辺部のトロイダル磁場の変化を表す量である。無力磁場配位状態を円柱座標系を用いて理論的に計算したモデル(Bessel Function Model)を実線で示す。プラズマが無力磁場配位の状態であればこの実線上の軌跡を変化する。パルス的なポロイダル電場を印加した場合、両方向のポロイダル電場の印加に対してもプラズマの配位が無力磁場配位から瞬間的に外されることが判る(Phase2)。この区間で磁場揺動成分の変化等、配位の変化に伴う現象が観測されている。無力磁場配位から外れた過渡的なプラズマ配位は再びもとの配位へと戻るための自己組織化が生じて瞬時にして無力磁場配位状態となることが判る。一方パルス的なトロイダル電場の印加実験に対しても同様にトロイダル電場の印加に伴って瞬時にトロイダル磁場が生成され、結果的に無力磁場配位が維持される実験結果が得られている。以上の実験結果から無力磁場配位にあるプラズマに外部から変化を与えた場合、配位を自発的に維持し、もとの状態に戻す作用(自己組織化)が働くことを実験的に検証した。

プラズマのポロイダル方向にパルス的な電場を印加した場合のPinch Parameter ,とReversal Parameter F,の時間変化。(a)トロイダル磁場を急速に減少させた場合(b)トロイダル磁場を急速に増加させた場合。(Phase1:トロイダル磁場の変化前、Phase2:トロイダル磁場の変化直後、Phase3:トロイダル磁場の変化後)
審査要旨

 本論文は大電流トロイダルプラズマにおけるダイナモ現象と,それに伴う自己組織化現象に関する実験的研究結果について記述したものである.論文は6章からなる.

 第1章は序文であり,研究の動機,背景について述べている.大電流トロイダルプラズマである低qプラズマ(ULQ)や逆転磁場ピンチ(RFP)では,所謂ダイナモ効果が観測されると同時に,磁気緩和現象を介して電流と磁場方向が平行となっている無力磁場配位が自動的に形成されており,制御核融合炉心プラズマとしての応用も期待されている.一方磁気圏や太陽コロナ等の地球・宇宙物理の分野でも,スペースプラズマのダイナモ効果の重要性が指摘されており,実験室プラズマでのダイナモ現象の検証,及びその物理的機構の解明が期待されている.

 第2章ではダイナモ効果及び自己組織化に関する理論的背景について記述している.ULQやRFPプラズマでは,プラズマ自身の自己組織化により形成された無力磁場配位が,その磁場の拡散時間より長く保持されている.しかも常に大きな磁場揺動を伴っている事から,このようなプラズマの自己組織化は磁場揺動を介した電磁流体力学的緩和が継続する現象として捉えることができる.このとき,磁場揺動で発生する所謂ダイナモ電場が重要な役割を果たすことを指摘している.

 第3章では無力磁場配位となっているULQ及びRFPプラズマにパルス誘導電場を印加し,その過渡応答を追跡する事により,ダイナモ電場の役割,及び物理的機構を実験的に調べている.ここではプラズマのポロイダル方向とトロイダル方向に外部パルス電場を加えた.すなわち,トロイダル磁場を時間的に急速に変化させてポロイダル電場を外部的に誘起する実験をREPUTE/ULQプラズマに対して,トロイダル電場の二段立ち上げ実験をATRAS/RFPプラズマに対して応用した.これらの実験では,外部誘起電場により強制的に無力磁場配位から外れたULQ,またはRFPプラズマを形成した所,磁場揺動を伴った急速な自己組織化現象が励起されて,プラズマが再び無力磁場配位に戻る事が確認された.この事は,ULQ及びRFPプラズマにおいては,プラズマを無力磁場配位へ帰還させようとする強い拘束力が働いている事を示唆しており,理論の予測と一致する.またダイナモ電場と同方向,及び逆方向に外部電場を誘起すると,前者では磁場揺動が減少し,後者では増加している等の実験結果より,これらの現象が磁場揺動に駆動されたダイナモ効果に起因する自律作用であると主張している.

 第4章ではトロイダル磁場を急峻に強くする,いわゆる磁気圧縮実験をULQプラズマに対して行った結果について記述している.磁気圧縮によりプラズマ柱の収縮が起こることが,挿入した磁気プローブによって確認された.それと同時に,プラズマ・壁相互作用の指標であるH信号の激減も観測されており,磁気圧縮が壁から遊離したプラズマの形成を通じて,プラズマ特性の改善に有効な手段であることを示している.ただし磁気圧縮時間がプラズマ閉じ込め時間よりゆっくりしているため,断熱的圧縮となってはおらずプラズマ加熱等は顕著でない.圧縮されたプラズマでは,磁力線のピッチに比例する安全係数q値と相関したモード数を持ったMHD振動が励起され,しかもこれがH信号と同期している事から,プラズマ表面が変形したキンク不安定性を起こしていることが判明した.また磁気圧縮後のプラズマは,より強いトロイダル磁場での無力磁場配位へと遷移して安定に保持されており,ここでもプラズマの強い自己組織化が観測されている.

 第5章では太陽フレアのダイナミックスを支配し,プラズマ自己組織化の駆動力であると予測されている電流駆動型キンク不安定性を,実験室トーラスプラズマで意図的に発生させ,プラズマの電磁流体的な運動を磁気プローブアレイで観測している.強いキンク不安定性と,それに伴う磁場再結合現象が繰り返し起こっている事が観測されており,キンク不安定性による宇宙プラズマの自己組織化現象を,地上のプラズマで模擬的実験により研究するための手掛かりとしている.

 第6章は以上の要約と結論にあてられている.

 以上を要するに,本論文は核融合炉心プラズマ,あるいは宇宙プラズマに見られるダイナモ現象や自己組織化現象を,ULQ及びRFPプラズマを利用して実験的に研究し,物理学的・工学的に多くの知見を得ており,核融合工学,ならびにプラズマ科学に寄与するところが大きい.

 よって,本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54457