岩盤の工学的評価では、断層や節理を含めた割れ目系の空間的分布の把握が重要である。破砕帯の幅、連続性とその存在頻度などは工学的に最も関心のある要因であり、また割れ目の空間的密集度は岩盤評価の基礎的な要因である。 割れ目系の把握を困難にしている理由の一つは、割れ目系が様々なスケールで分布してことによる。工学上、調査で対象とするスケールと設計・施工で対象となるサイトのスケールは一般に異なるので、サイトの割れ目評価には何らかのスケール変換が必要となる。 この問題に対するアプローチとして、割れ目の寸法と存在数の間に成立つべき乗則の利用が注目されている。べき乗則はスケーリング則と呼ばれ、この規則性を利用すれば割れ目系のスケール変換が可能と考えられる。しかし工学的評価への具体的な応用は未だ確立されていない。 本論文は、スケール変換の工学的利用として岩盤評価を念頭におきつつ、その基本的要素である割れ目の存在密度と密集度に焦点を絞り、スケール変換の実用的方法と適用性について実測・理論の両面から検討したものである。 本論文は6章から構成されている。 第1章では、序論として文献調査及び課題解決のアプローチが記述されている。 第2章では、割れ目の空間的集合度に注目して、割れ目密度分布を統計学的に調べている。その結果、以下の知見が得られている。 (1)割れ目空間分布のパターンを、密度の平均値と分散の関係に注目して、規則型、ランダム型、密集型に分類している。その結果、実測では密集型が多く存在することを示している。 (2)負の二項分布の導入によって、実測に見られるランダム型の分布のみならず、密集型の分布についても密度分布をうまく表現している。負の二項分布はポアソン分布の一般化となっているので、より汎用的であると考えられる。 (3)負の二項分布では、密度の分散2を平均値の関係を、分布の密集度を定量的に表す指数kを用いて2=2/k+という式で表せることを示している。この分散の表現は簡便であり、工学的に実用的であると考えられる。 第3章では、スケール変換の基礎となる割れ目寸法分布のスケーリング則の評価法について検討している。即ち、 (1)割れ目の破砕幅分布のバラツキを統計モデルにより整理し、その妥当性を実測から示している。また、このモデルに基づいたスケーリングへの回帰法を最尤法に基づき導出している。さらにその結果を受けて、スケール変換の誤差分散を評価し、その適用範囲について考察している。 (2)経験的な破砕幅と長さの関係を用いることにより、測線上の破砕幅分布を平面上のトレース長分布へ変換する方法を試み、実測値に近い値が得られている。 第4章では、割れ目密度の評価に関し、建設サイトのスケール変換に適用し、その方法を具体的に示している。BHTV、調査坑、リニアメントのデータからサイトの破砕帯存在数を予測した結果、実測との良い一致が示されている。 第5章では、規模と密度の空間的表現に関し、割れ目の規模と密度の空間的分布をスケール変換により表現する方法を検討している。分布の作成では、統計分布をスケール変換し、これを直接モンテカルロ法で表現する統計モデルと、自己相似則から作成される数値モデルを検討している。統計モデルでは、スケール変換された統計分布を割れ目の規模と密度の空間分布パターンとして描き出している。数値モデルでは、フラクタル構造を仮定した2つの自己相似モデルとして、カスケードモデルと繰り込み群モデルを検討している。このモデルをリニアメント分布に適用して得られた自己相似パターンは、坑道の実測の密度分布の傾向を良く表現している。 本研究は、割れ目系のスケール変換の実用化へ向けて大きな貢献をするものと期待される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |