内容要旨 | | はじめに 粉体材料より製品を作る粉末冶金法は,タングステン,セラミックス材料,鉄基系機械部品など様々な分野で広く用いられている.粉末冶金法では,粉体を型につめプレス等により成形し圧粉体を作成し,最終的に焼結プロセスにより緻密化を行い製品となる.粉末冶金法の最大のメリットは,最終形状に近い製品が得られるというNear-net成形性にあるが,複雑形状の成形を行うには,圧縮成形/焼結プロセス各段階での材料変化を正確に予想し,プロセス条件を適切に制御しなければならない.しかし,複雑な力学的挙動を示す粉体を一般的に解析的に取り扱う方法がこれまで存在しなかったため,粉末冶金におけるプロセス設計は経験的手法に基づいてきた.このため現在,プロセス中の粉体挙動や内部構造を一般的・定量的に記述する手法が求められている. 粉体成形問題を数値的に取り扱う試みは,これまで弾塑性体などの連続体の式に修正を加えて計算する方法が主流で,粉体の構成関係を求めることに力点が置かれていた.しかし,連続体近似によるアプローチでは,本来離散的な物体である粉末を連続体と近似することにより粉体本来の性質を覆い隠してしまい,特に粉体成形では重要な相対密度の低い領域,すなわち粉末の離散性が顕著になり流動性に富む領域では,材料の挙動をうまく表現することが出来ない.このため,本研究では粉体成形を記述する新しい方法として,個々の粒子の挙動に着目した粒子系モデルの解析法の開発を行った.粒子系モデルでは,粉体の接触状態,摩擦挙動を直接考慮出来,粉体固有の材料の離散性に起因する現象の解析にはより適していると考えられる.また,3次元への拡張や,外力場の導入も自然な形で比較的容易に実現可能で,実験的には得ることが難しい,粉末成形体の内部の情報(内部応力,密度分布,粒子接触状態,配位数等)が直接計算により求まるため,圧粉体の内部状態のコントロールや,粉体力学現象の解明などにも適用が可能である.本論文では,粒子系モデルの解析法DBEMの開発を行い,粉体成形/焼結プロセスをシミュレートし,CNC実験との比較を通し本手法の有効性を確かめるとともに,プロセス中の材料変化の定量的評価を行っている. 方法 粒子系モデルの解析法では,粉体を円形あるいは球形の離散的要素の集合体として表現し,個々の要素の相互作用および外力の影響を計算することにより,全体の力学挙動の計算をする.粒子系解析法DBEMでは要素間の力学的相互作用は,要素間(接線方向,法線方向それぞれ)にバネ,ダッシュポット,スライダーを想定し,要素間の相対的な変位をこれらの部品への働きかけとみなし計算する.各要素の動きは,粒子間力の合力と物体力,摩擦力,粘性力より運動方程式を作り,これに陽的な時間積分法を行い個々の要素の時間履歴を計算する. 結果 粒子系モデルによる2次元粉体成形解析では,従来の手法では解析が難しかった粉体の材料流れに対する工具面摩擦の影響を定量的に明らかにし,ニュートラル・ゾーン発生箇所の予測等を行なった.シミュレーション結果は,圧密化挙動,粉体流動パターン,圧粉体の密度分布においてモデル実験の結果と良い一致を示し,本手法の有効性が確認された.これは,本手法が,多くの粉体現象の原因となっている粉体の離散的性質を適切に表現しているためと考えられる.しかし,2次元解析では,粒子流動性等が正しく再現出来ず,特に粗な領域においては定量的に大きな隔たりがあった. 3次元粉体成形解析においては,2次元では適切に表現の出来なかった粒子流動性や内部構造データを定量的に求めることが可能であることが示された.1軸圧縮成形解析では,圧密化にともなう過剰空孔の消滅過程や表層部で発生する粒子再配置等を明らかにすることが出来た.等方圧縮成形では,内部構造データとして粒子の接触状態を記述する配位数,配位ベクトルデータを計算し,圧縮にともないどのように変化するかを解析した.また,L字形状圧縮成形試験においては,ダイス形状の粉体流動/内部構造変化に与える影響を定量的に評価し,経験的にのみ知られているプロセス中に発生する粉体現象のメカニズムを解明し,適切にシミュレートされることを示した. 焼結解析においては,Kuczynskiの焼結における2粒子モデルのネック成長理論式を3次元粒子系モデルに導入し,焼結中の粒子configuration変化が解析可能であることを示した.3次元粒子系モデルによる粉体成形解析を焼結解析に直接接続することにより,圧粉体内部構造と焼結性の関係が明らかになり,圧粉体の焼結性の評価を行なうことが出来た.これにより内部構造因子として配位数と収縮度の関係を明らかにし,計算結果がMoonらの実験結果に良く一致することも確認された. 次に,タッピングや輸送などの粉体プロセスに利用されている強制振動下における粉体挙動に着目し,実験により振動下での粉体の挙動を調べた.振動流動解析においては,実験により振動にともなう空孔の消滅過程を明らかにした.空孔が消滅した後の定常流動状態では,いくつかの流動パターンが存在することを明らかにし,さらに,流動パターンに対する振動数,粒径分布の影響を定量的に評価した.2次元および3次元解析では,強制振動下の粒子の動きをシュミレートし,流動パターンを支配する因子を摩擦であると仮定し,流動パターンに対する摩擦の影響を定量的に評価した. 粒子系モデルの応用として行った磁場中成形解析では,粒子系モデルにポテンシャル場を比較的容易に組込み可能であることを示し,他の手法では実現の困難な剛体に対する接触力と磁力の連成解析を行った.ここでは,磁場中成形における磁性粉粒子の挙動について解析を行い,磁性粉の磁場中成形における磁性粉粒子配向のメカニズムを明らかにした.これにより,磁場中成形における他の研究者の実験結果を再現することが出来,磁性粉配向のメカニズムを明らかにすることが出来た. 結論 本手法は粉体成形/焼結プロセスにおける複雑な粉体粒子挙動を定量的に記述し,粉末冶金プロセスの最適設計等への応用が期待出来る. |