学位論文要旨



No 111175
著者(漢字) 田村,茂之
著者(英字)
著者(カナ) タムラ,シゲユキ
標題(和) 粉体成形・粉末冶金における粉体流動・固化・焼結メカニズム解析
標題(洋)
報告番号 111175
報告番号 甲11175
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3419号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木原,諄二
 東京大学 教授 長尾,高明
 東京大学 教授 梅田,高照
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 助教授 相澤,龍彦
内容要旨

 はじめに 粉体材料より製品を作る粉末冶金法は,タングステン,セラミックス材料,鉄基系機械部品など様々な分野で広く用いられている.粉末冶金法では,粉体を型につめプレス等により成形し圧粉体を作成し,最終的に焼結プロセスにより緻密化を行い製品となる.粉末冶金法の最大のメリットは,最終形状に近い製品が得られるというNear-net成形性にあるが,複雑形状の成形を行うには,圧縮成形/焼結プロセス各段階での材料変化を正確に予想し,プロセス条件を適切に制御しなければならない.しかし,複雑な力学的挙動を示す粉体を一般的に解析的に取り扱う方法がこれまで存在しなかったため,粉末冶金におけるプロセス設計は経験的手法に基づいてきた.このため現在,プロセス中の粉体挙動や内部構造を一般的・定量的に記述する手法が求められている.

 粉体成形問題を数値的に取り扱う試みは,これまで弾塑性体などの連続体の式に修正を加えて計算する方法が主流で,粉体の構成関係を求めることに力点が置かれていた.しかし,連続体近似によるアプローチでは,本来離散的な物体である粉末を連続体と近似することにより粉体本来の性質を覆い隠してしまい,特に粉体成形では重要な相対密度の低い領域,すなわち粉末の離散性が顕著になり流動性に富む領域では,材料の挙動をうまく表現することが出来ない.このため,本研究では粉体成形を記述する新しい方法として,個々の粒子の挙動に着目した粒子系モデルの解析法の開発を行った.粒子系モデルでは,粉体の接触状態,摩擦挙動を直接考慮出来,粉体固有の材料の離散性に起因する現象の解析にはより適していると考えられる.また,3次元への拡張や,外力場の導入も自然な形で比較的容易に実現可能で,実験的には得ることが難しい,粉末成形体の内部の情報(内部応力,密度分布,粒子接触状態,配位数等)が直接計算により求まるため,圧粉体の内部状態のコントロールや,粉体力学現象の解明などにも適用が可能である.本論文では,粒子系モデルの解析法DBEMの開発を行い,粉体成形/焼結プロセスをシミュレートし,CNC実験との比較を通し本手法の有効性を確かめるとともに,プロセス中の材料変化の定量的評価を行っている.

 方法 粒子系モデルの解析法では,粉体を円形あるいは球形の離散的要素の集合体として表現し,個々の要素の相互作用および外力の影響を計算することにより,全体の力学挙動の計算をする.粒子系解析法DBEMでは要素間の力学的相互作用は,要素間(接線方向,法線方向それぞれ)にバネ,ダッシュポット,スライダーを想定し,要素間の相対的な変位をこれらの部品への働きかけとみなし計算する.各要素の動きは,粒子間力の合力と物体力,摩擦力,粘性力より運動方程式を作り,これに陽的な時間積分法を行い個々の要素の時間履歴を計算する.

 結果 粒子系モデルによる2次元粉体成形解析では,従来の手法では解析が難しかった粉体の材料流れに対する工具面摩擦の影響を定量的に明らかにし,ニュートラル・ゾーン発生箇所の予測等を行なった.シミュレーション結果は,圧密化挙動,粉体流動パターン,圧粉体の密度分布においてモデル実験の結果と良い一致を示し,本手法の有効性が確認された.これは,本手法が,多くの粉体現象の原因となっている粉体の離散的性質を適切に表現しているためと考えられる.しかし,2次元解析では,粒子流動性等が正しく再現出来ず,特に粗な領域においては定量的に大きな隔たりがあった.

 3次元粉体成形解析においては,2次元では適切に表現の出来なかった粒子流動性や内部構造データを定量的に求めることが可能であることが示された.1軸圧縮成形解析では,圧密化にともなう過剰空孔の消滅過程や表層部で発生する粒子再配置等を明らかにすることが出来た.等方圧縮成形では,内部構造データとして粒子の接触状態を記述する配位数,配位ベクトルデータを計算し,圧縮にともないどのように変化するかを解析した.また,L字形状圧縮成形試験においては,ダイス形状の粉体流動/内部構造変化に与える影響を定量的に評価し,経験的にのみ知られているプロセス中に発生する粉体現象のメカニズムを解明し,適切にシミュレートされることを示した.

 焼結解析においては,Kuczynskiの焼結における2粒子モデルのネック成長理論式を3次元粒子系モデルに導入し,焼結中の粒子configuration変化が解析可能であることを示した.3次元粒子系モデルによる粉体成形解析を焼結解析に直接接続することにより,圧粉体内部構造と焼結性の関係が明らかになり,圧粉体の焼結性の評価を行なうことが出来た.これにより内部構造因子として配位数と収縮度の関係を明らかにし,計算結果がMoonらの実験結果に良く一致することも確認された.

 次に,タッピングや輸送などの粉体プロセスに利用されている強制振動下における粉体挙動に着目し,実験により振動下での粉体の挙動を調べた.振動流動解析においては,実験により振動にともなう空孔の消滅過程を明らかにした.空孔が消滅した後の定常流動状態では,いくつかの流動パターンが存在することを明らかにし,さらに,流動パターンに対する振動数,粒径分布の影響を定量的に評価した.2次元および3次元解析では,強制振動下の粒子の動きをシュミレートし,流動パターンを支配する因子を摩擦であると仮定し,流動パターンに対する摩擦の影響を定量的に評価した.

 粒子系モデルの応用として行った磁場中成形解析では,粒子系モデルにポテンシャル場を比較的容易に組込み可能であることを示し,他の手法では実現の困難な剛体に対する接触力と磁力の連成解析を行った.ここでは,磁場中成形における磁性粉粒子の挙動について解析を行い,磁性粉の磁場中成形における磁性粉粒子配向のメカニズムを明らかにした.これにより,磁場中成形における他の研究者の実験結果を再現することが出来,磁性粉配向のメカニズムを明らかにすることが出来た.

 結論 本手法は粉体成形/焼結プロセスにおける複雑な粉体粒子挙動を定量的に記述し,粉末冶金プロセスの最適設計等への応用が期待出来る.

審査要旨

 本論文は、粉末冶金における粉体成形および焼結の力学モデルとして、直接粉体に関する運動方程式を構成して、その時間積分によって粉体の速度および変位を適切な時間増分毎に求める解析法を開発し、その圧粉過程の粉体流動・成形過程の粗密分布の推移・磁場中における強磁性粉体の流動挙動・焼結時の体積収縮と変形挙動などについて、二次元モデルと三次元モデルとの比較と合わせて、シミュレーションを行ない検討しその有用性を立証した研究である。

 全体は8章からなる。

 第1章では、粉体成形の力学モデルに関しての従来の研究、特に連続体近似モデルによるシミュレーションの状況を展望し、個々の粉粒の挙動の直接モデルシミュレーションの必要性を主張している。また、粉末冶金の問題以外の分野における粉粒の力学的挙動を直接数値計算によってシミュレーションの分野における最近の進歩について概括している。

 第2章では、本論文で粉体の直接数値解析法の定式化と解析システムの構築について述べている.分子動力学における基礎方程式の定式化をベースにして、粉体の円盤(二次元モデル)あるいは球(三次元モデル)へのモデル化と接触力による円盤ないし球の弾性変形をお互いの食い込み量として扱って、個々の粉粒についての運動方程式を作り、全体の粉粒に関する方程式系を構成して適切な時間増分毎に速度と位置変化を求める解法を定式化した。後の章で扱う焼結過程の解析や磁場中での強磁性粉粒の挙動解析においては、単に接触力のモデルや粉粒への場に基づく外力のモデルをそれぞれ運動方程式に付け加えることによって扱える形となっている。また、運動エネルギーから熱エネルギーなどへの散逸が起こる過程が併存する場合も容易にモデル化が可能である。このような定式化を前提にしてDirect Ball Element MethodすなわちDBEMと称する解析コードを構築する一方、必要な解析情報である粉粒の剛性、粉粒間の摩擦などの測定について検討している。

 第3章では、二次元モデルにより、くびれ付き部品成形・L字形部品成形・フランジ付き円筒部品成形・非等圧縮状態・多段シンクロハブ形状成形などのモデルシミュレーションの結果を、粉体流動の観察、成形品の粗密分布などの測定結果と比較して、本法の有効性を確認している。なお、粉体を容器内に自然充填した状態では相対密度が0.5以下であるのに対して、二次元モデルでは0.8に達するという結果が得られるが、これは二次元モデルでは三次元的に言えば一方向に関して完全充填の状態になっているわけであり、当然の結果であると考えられる。

 第4章では三次元モデルの、一軸圧縮成形、等方圧縮成形、L字形部材成形に対する適用結果について述べている。実際の粉体成形で得られる粗密分布が、要素数1000程度の解析であるにも拘らず、粉粒径の分布などの影響などに関する感度なども併せて有効にシミュレーションが行なわれている。とくに自然充填に関しては0.45程度の相対密度となり実際との一致が得られた。

 第5章では、焼結シミュレーションを定式化の部分にクチンスキーの二粒子モデルの解析解を組み込む形の取り扱い行なっている。粒子構造として整粒稠密充填構造の焼結収縮の計算を行ない、収縮の時間変化などが二粒子モデルから多粒子モデルになっても時間依存の指数などにわずかな変化があるだけだと言うことを明らかにした。また粉体成形過程との接続解析を試み粉体成形シミュレーションの結果として与えられる粗密分布などが焼結過程での緻密化や収縮量の分布や変形にどのように影響するかを調べている。続いて第6章では振動付加の圧密化への影響を調べ、型の壁と粉体との摩擦力が粉体全体の渦流的運動モードに著しく影響することを三次元解析の結果明らかにした。第7章では強磁性粉粒からなる粉体を磁場中で荷重し成形する場合、磁場の方向と圧縮方向との関係で粒子構造がどのように変化するか、また粒子の方位配向分布を求めた。第8章は結論である。

 以上を要するに、本論文の研究は、金属材料加工学の進歩発展に貢献するとともに、関連する粉末冶金工業技術の進歩に有益であり、従って本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められた。

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