本論文は金属・セラミック接合の諸問題のうち、当面の重要な課題となっている熱応力緩和の問題、すなわち両者の熱膨張係数が異なるために温度を上下させたとき不可避的に生ずる界面応力による割れを界面層の組織と界面自体の構造をよく理解することにより阻止しようとするものである。接合系としては工業的利用の可能性が大きい窒化ケイ素・ニッケル系を選び、金属ナノ結晶を間に挟むなど、この接合系を強化する様々な試みを行っている。 論文は9章よりなる。 第1章は序論である。熱膨張係数の差が大きい金属・セラミック接合系としてニッケル・窒化ケイ素系を採用した理由を述べ、次いで各章の紹介をしている。 第2章は金属・セラミック接合の基本事項を整理している。金属・セラミック接合の諸技術を展望し、それらの技法がどのようにして熱応力緩和の課題を達成しているか分析している。そして、接合界面に反応相の層が生成しない場合、金属の塑性変形能を熱応力の解放に役立てることができると指摘している。 第3章は金属・セラミック接合界面という異種結晶間の界面の構造を分類している。そして、このような異相界面の構造を記述する理論として一般的なBollmannの○格子理論を金属・セラミック接合という化学的性質に差のある結晶間の界面へ適用する際には、電荷の中和など、幾何学的枠組みの範囲を超えた取扱いが必要なことを述べている。 第4章はニッケルと窒化ケイ素との接合系に関し、従来の知見をまとめた章である。窒化ケイ素の構造には型と型とがあって、これが基本的に接合界面の構造を規定する。また、熱力学はニッケルと窒化ケイ素が接合界面で直接反応し、窒素分圧が高い状態で直接接合界面を形成していることを教える。このとき放出された窒素は接合系から外に出るが、一部は接合界面上に生成するボイドに含まれ、これが接合強度を制約している。このボイド生長阻止がこの接合系の重要課題である。 第5章は実験方法を記した章である。金属・セラミック固相接合装置とその操作法、および電子顕微鏡観察用薄膜試料作製方法が記述されている。金属・セラミック接合は両者の化学的性質の違いのために選択研磨が避けられず、イオン研磨法と電解研磨法との複合が不可避である。また、界面近傍に生成するボイドの選択研磨を避けるため最終研磨はイオン研磨となるので、機械研磨の段階で、厚さ数十mまで試料を薄くする必要があり、ディンプラーの使用が不可避であった。 第6章は固相接合界面層の組織と界面の構造とを記述している。透過電子顕微鏡による断面観察は焼結助剤を殆ど含まないCVD窒化ケイ素とニッケルの接合界面の方が通常の常圧焼結窒化ケイ素のそれよりもボイドの発達した組織になっていることを示した。この結果は、ボイドの核生成や生長に焼結助剤はむしろ負の役割を果たしていること、従って、常圧焼結窒化ケイ素の接合にみられるボイド内の非晶質相は焼結動剤が集まったものであるが、ボイド生長を阻止する働きをしていると結論された。また、異相界面の微構造としてとして典型的なファセット構造やミスフィット転位列がCVD窒化ケイ素とニッケルの接合界面には観察されたことから、特別な微構造の不在を報告したBritoの結果は使用した窒化ケイ素に焼結助剤が多量に含まれていたためであると結論した。 第7章は透過電子顕微鏡高温ステージを用いて、このような直接接合界面で熱応力がどのようにして緩和するか、動的観察により調べた結果を報告している。電子顕微鏡内で室温から1000Kまで温度を上げ下げして解析した結果、ニッケル層内を移動する各種の転位による歪緩和は発生した熱応力の10%程度でしかないことが判明した。この違いが運動した転位の数えおとしに由来するものか、あるいは界面に沿ったミスフィット転位の運動などという直接の歪緩和が大勢を占めていたためか、これだけでは判断できないとしている。より詳細な動的解析が必要である。 第8章は界面に金属ナノ結晶やNi-Al合金を挟んだ金属・セラミック接合を報告している。ニッケル・窒化ケイ素系接合は界面近傍ニッケル層内に発生するボイドが接合強度の低い原因となっていると推論されたので、これを阻止することが目的である。実験はナノ結晶ニッケルを挿入した接合系の場合も、Ni-Al合金を接合し、ニッケル内に板状AlNが析出している場合でもボイド平均径が縮小していることを示し、ボイド阻止が難しくないことを示唆した。 第9章は総括である。 以上、本研究はニッケル・窒化ケイ素固相接合系を用いてその界面層の組織や界面構造を調べ、動的観察によって熱応力緩和の機構を探ったもので、金属・セラミック接合体の強度向上に指針を与えた研究として材料学の発展に寄与するところが大きい。博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |