本論文は学術的および実用的にも関心の高いアルカンの骨格異性化反応に有効な触媒の開発を目的とし、酸触媒として機能の高いヘテロポリ化合物と金属を複合した二元機能触媒によるブタンの骨格異性化反応を詳細に検討したものである。ヘテロポリ酸の中で最も高活性である12-タングストリン酸のセシウム酸性塩、Cs2.5H0.5PW12O40とPtやPdを複合化した触媒は、アルカンの中では最も異性化反応性の低いブタンを高選択率、好収率で異性化できることを明らかにしている。さらにこの高選択率が金属上で進行する水素化分解反応を共存するプロトンが効果的に抑制するという新規な選択性制御機能に基づくことを見出している。 本論文は5章より構成されている。 第一章は序論であり、本研究を行った背景と本研究の目的および意義を述べたものである。ヘテロポリ酸およびその酸性塩の酸性質および酸触媒反応の従来の知見を総括し、さらにアルカン異性化反応の重要性と現行法の特徴、問題点について解説している。 第二章では二元機能触媒の構成要素の一つであるヘテロポリ酸セシウム酸性塩を単独で触媒として用いたブタン骨格異性化特性について述べている。このセシウム塩が超強酸性を有し、この反応に優れた定常活性と選択性を示すことを見出した。その活性は既知の固体酸のうち最も強い酸性をもつ硫酸処理ジルコニア(SO42-/ZrO2)を上回っており、またイソブタンへの選択性も高い。さらに、酸強度、酸量と活性、活性劣化、コーク生成量との関連を調べ、セシウム酸性塩の高い定常活性は、コーク生成が少なく活性劣化が抑制されているためと結論した。 第三章では、セシウム酸性塩にPtまたはPdを複合化した二元機能触媒のブタン骨格異性化特性を述べている。金属との複合化によって大幅な活性向上と同時に95%のイソブタン選択率を実現した。この触媒の性能はすでに報告されているPt担持硫酸処理ジルコニアやPt交換ZSM-5を凌ぐものである。 Pt、共存水素および触媒表面プロトンの役割を水素分圧依存性、Pt量依存性などの反応論および赤外分光法等で検討した結果、反応が二元機能機構で進行し、Ptは第一ステップのブタン脱水素を促進していること、水素はコークまたはコーク前駆体を水素化除去することで活性劣化を抑制していることを明らかにした。さらに、選択性支配因子としてPtの粒径が重要であることを示した。 プロトンは反応中間体であるカルベニウムイオン生成に寄与することと同時に、Pt上で進行する副反応である水素化分解反応を効果的に抑制しているという実験的に明らかにし、新規な選択性制御機構を提案した。 第四章では、このヘテロポリ酸系二元機能触媒の機能を明確に示すために、様々なPt担持固体酸触媒を用いてブタン骨格異性化反応を系統的に検討した結果をまとめている。Pt担持硫酸処理ジルコニアの活性はヘテロポリ酸系と同程度であるが選択性が低いこと、Pt交換ゼオライトは活性は高いが選択性が低いことを示し、ヘテロポリ酸系二元機能触媒がすぐれた性能を有していることを実証した。 第五章では本研究を総括し、ヘテロポリ酸系二元機能触媒のアルカン異性化への応用について展望している。 以上、本研究では特にすぐれた酸触媒機能を示す12-タングストリン酸セシウム酸性塩を金属を組合わせることによってブタン骨格異性化反応を高選択的促進する二元機能触媒を合成できたこと、その高選択性発現がプロトンの特異的作用によることを明らかにした。これらの結果は新機能触媒開発の上で極めて重要な知見を含んでおり、触媒基礎工学の分野の発展に寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |