第一部一酸化炭素の水素化による炭化水素の合成:超臨界相Fischer-Tropsch合成プロセス Fischer-Tropsch(F-T)合成反応においては固体触媒上でH2とCOから分子量の異なる炭化水素混合物が生成し、また生成した炭化水素(-オレフィン)の二次反応(水素化など)が進行する。生成炭化水素はメタンからワックスまで幅広い分布をもっている。また大きな発熱を伴う特徴ももっている。このため、ワックスによる反応器閉塞、触媒層中のHot-Spotの形成等の問題が指摘されている。鉱物油中に触媒を懸濁させ、合成ガスを吹き込むスラリー法は、これらの問題を解決する有力な方法であるが液中での合成ガスの拡散が遅く、触媒濃度が上げられない等の問題を抱えていた。以上の問題を解決するため我々は超臨界相F-T反応プロセスを開発した。
超臨界相Fischer-Tropsch合成プロセスは(1)生成ワックスの触媒からのin situ抽出が可能で(2)液相反応と近い良好な伝熱特性を持ち(3)合成ガス及び生成炭化水素が触媒内で高い拡散能力を持つことである。本研究は固体触媒における気、液及び超臨界各相での固体細孔内の物質移動が主反応及び二次反応に対して与える影響について理論的、実験的に検討した。
超臨界相F-T合成反応に用いる反応装置は通常の固定床加圧流通式管型反応器と同じである。但し、反応器の上流に溶媒を超臨界状態にする気化器(vaporlzer)を取り付け、下流に高圧水冷トラップを置いた。生成物の分析はすべてガスクロマトグラフにより、生成物の精密な分析にはキャピラリーカラムを用いた。一部の分析にはGPC(gelpermeation chromatograph)を使用した。
反応に使用した触媒は(1)Co-La/SiO2 (2)Ru/Al2O3(3)溶融鉄触媒である。細孔径の異なるRu/Al2O3触媒は特許に記載されているpHスウィング法により細孔径を制御して調製し、水銀圧入法により求めた。
超臨界相反応、気相反応、液相反応を同じ反応器で実施した。同伴ガスを代えることで超臨界相反応、気相反応、液相反応を区別して行なった。超臨界反応では、同伴ガスに超臨界状態の流体としてn-ヘキサン(C6H14、臨界温度233.8℃、臨界圧力29.7気圧)、或いはn-ペンタン(C5H12、臨界温度196.1℃、臨界圧力33.7気圧)を、気相反応では同伴ガスに窒素を、液相反応では、反応成績を固定床と比較するためにtrickle-bedで行なった。
1.超臨界相反応と液相、気相反応の比較 図1には超臨界相、液相、気相反応の各々の見かけ活性化エネルギーを示す。超臨界
相反応の場合には気相反応と同じ活性化エネルギー(26 kcal/mol)を持つことが分かった。一般的に物質の拡散を伴う化学反応に於いて拡散の速度が化学反応に影響を与える場合、総括反応の見かけ活性化エネルギーはその両過程の見かけ活性化エネルギーの中間の値をとり、拡散の影響が大きいほど見かけ活性化エネルギーは低くなる。従って超臨界相反応での物質移動速度は気相反応のそれに近いことが分かる。液相反応の場合には活性化エネルギーが21 kcal/molである。遅い拡散速度が反応を妨げることを明らかにした。
Figure 1Phase Effect on Arrhenius Activation Energy Ru/Al2O3,W/F(CO+H3)=10g-cat.h/mol,Total)=45 MPa,P(CO+H3)=10 MPa2.触媒設計:触媒細孔径などの調整効果 図2に超臨界相で細孔径の異なる触媒を用いた時の平均細孔径とCO転化率の関係を示す。小細孔径の触媒はその活性が低い。これは反応ガスの粒子内拡散が遅くて、触媒の有効係数が低いためである、また他の原因としては、細孔径が小さくなるとRu金属粒子径も小さくなり、反応のTOF(turnover frequency)が減るからと思われる。20nmの平均細孔径の触媒は転化率が高く、20nm以上細孔径を持つ触媒の活性はやや減少する。この原因はRu金属分散度が低下し、活性表面積が小さくなるためと考えられる。さらに細孔径が大きくなるにつれ連鎖成長確率がわずかに大きくなっており、これはRuの粒子径が大きくなり、炭素-炭素結合が成長し易いためである。
Figure 2Pore size effect on CO converson,chain growth probability, and metal dispersion (H/Ru)in the supercritical phase F-T reaction. Ru/Al2O3 catalyst,P(total)=45 bar,,P(syngas)=10 bar W/F(syngas)=10g-cat.h/mol3.合成ガスの拡散-反応モデル 触媒細孔内合成ガスの拡散モデルを設定し、超臨界流体中の合成ガスの拡散係数をStokes-Einstein方法により求め、シミュレーションを行なった.図3には気相、液相および超臨界相反応中における各反応温度の触媒有効係数を示す.反応温度の増加と共にいずれの反応相でも触媒有効係数が低下し、中でも液相の場合での有効係数の減少が大きくなった。これは反応温度の増加と共に速度定数が増加するのに対して、拡散係数の増加があまり大きくないためである。
Figure 3 The reaction temperature effect on the calculated or experimental catalyst effectiveness factors. the same reaction conditions as those in Fig.14.超臨界相反応におけ炭化水素生成物の拡散及び二次反応 超臨界相において生成した炭化水素の拡散について検討した。F-T反応中一次生成物である-オレフィンが触媒層外へ脱離するまでに触媒活性点へ再吸着されて水素化、連鎖再成長、異性化、水素化分解など二次反応を受ける。-オレフィンの再吸着による二次炭素連鎖成長は実際の連鎖成長確率がAnderson-Schultz-Flory理論の予測値より高くなることの原因であると考えられる。しかしオレフィンが水素化反応を受けてパラフィンになると、連鎖成長せずに脱離して触媒層外へ拡散していく。この拡散メカニズムを検討する目的として、二次水素化と二次連鎖成長の影響を含んだ生成物の拡散モデルをつくり、シミュレーション計算を行なった。計算結果は各条件下のオレフィン含有率の変化と一致している。これらのことから二次反応の影響を考えると、Anderson-Schul tz-Flory理論の偏差を修正できると考えられる。
5。オレフィンの添加によるワックスの選択的な合成:超臨界相反応における炭素連鎖成長能力の促進 高級オレフィン(テトラデセン、ヘキサデセンなど)を添加することで明らかに炭素成長が促進され、炭素連鎖成長確率が増加し、ワックスの選択率が大幅にアツブした。更にCO転化率は従来の無添加系より高く、この傾向はオレフィン連鎖が短いほど顕著であった。また好ましくない生成物であるメタン、炭酸ガスの選択率も無添加系の約半分までに抑えられた。以上の結果により、添加されたオレフィンは明らかに触媒表面上で再吸着され、F-T反応での連鎖成長を促進したことが分かる。この際の添加量としては数パーセントで十分であり、炭素数C7でも効果は確認された。
ここで注目すべきなのはこの添加効果が気相反応、液相反応では顕著に表われないことである。やはり、添加されたオレフインは超臨界溶媒とともに触媒の内表面まで拡散され、炭素連鎖成長が発見し、生成したより高級な炭化水素が再び、超臨界溶媒とともに触媒外表面へ拡散したと思われる。
第二部炭酸ガスの水素化によるメタノール合成:新規貴金属触媒の開発 炭酸ガスの水素化によるメタノールへの変換は環境的にも、また資源的にも重要である。その反応に対し、高活性、長寿命を示す触媒の開発を試みた。担持Pd触媒を用いるメタノール合成はほとんどCOと水素から行なわれている。一方炭酸ガスの水素化はCu-Zn酸化物系触媒が主流であり、担持金属触媒を用いる研究例は少ない。我々は担持Pd触媒を用して炭酸ガスの水素化を行なって、担体効果を検討した。 CeO2,La2O3,TiO2を用いた場合相対的に高いメタノール選択率を示したが、触媒の寿命が短かった。上記の触媒に対して高温(500℃)で水素還元処理を実施するとメタノールの選択率及び触媒寿命が大幅に増加したことを見いだし、高温還元処理を受けた触媒では強い金属-担体相互作用(SMSl)が現れることが分かった。
CeO2粉末を20-60meshに成型し、金属Pd担持量4wt%としてPdCl2を塩酸水溶液に温めて溶かして含浸した。水素気流中400℃4時間で脱塩素還元処理し、passivationした後空気中に出した。反応前、リアクターに触媒を詰めて水素気流中所定温度まで(200℃-550℃)昇温して1時間還元後、予定温度まで降温してから反応ガスを入れて反応開始とした.標準反応条件:30atm: 220-240℃: W/F=10g.cat.h/mol:CO2/H2=1/3:触媒使用量0.5g.
表1に異なる還元温度のpd/CeO2の反応挙動を比較したが、還元温度が200℃-400℃の範囲ではメタノール選択率が約18%であり、メタンの選択率が約73%であった。一方還元温度が500℃の場合では炭酸ガスの転化率がほぼ同じであるにもかかわらず90%以上のメタノールの選択率が見いだされた。しかし550℃で還元した場合、500℃還元の触媒以上の活性を示さなかった。
Table 1.Hydrogen Reduction Temperature Effect on Pd/CeO2 Catalysta 500℃還元の触媒では100時間以上の間高いメタノール合成活性を示し、優れた触媒寿命が認められた。逆に4OO℃還元の触媒では反応開始14時間後メタノールの選択率は18%から6%まで低下したが、再び400℃水素中1時間処理したところ、メタノール選択率は一旦15%まで回復し、その後、徐々に失活した。
400℃還元の触媒に対してXRD実験で反応前後のPd/CeO2触媒状態を測定した。反応前のPd/CeO2では金属のPdとして存在したが、反応済みの触媒は酸化されたPdOと金属Pd両方共存したことが分かった。500℃還元の触媒の場合にはPd金属状態は変わらなかったが、担体であるCeO2は一部Ce2O3になり、異なる触媒活性点としてメタノール合成に寄与したと考えられる。吸着実験などのデータをまとめて見ると、高温還元の触媒では一部の担体は部分還元され、Pd表面へ移動して一部の金属表面を被覆すること(SMSI)が認められた。
反応機構に関しては、XPS,TEM,TPD,TPRなどcharacterizationの結果から見ると、炭酸ガスは選択的に触媒担体へ吸着し、強い還元剤であるCe2O3に還元され、COと酸素原子になった。COはPd金属表面へ移動し、水素化されてメタノール生成方向へ道行していった。一方酸素原子はPdからspilloverしてきた水素と反応し、水になった。それにより、結局、Pd金属の酸化失活を防止できたのである。
Pd/CeO2触媒のほか、Pt/CeO2,Pd/La2O3及びPd/TiO2触媒も高温還元処理を受けると、高いメタノール合成活性を示した。