本論文は「C60光電材料に関する研究-光電物性及び充電材料への応用可能性-」と題しその目的はC60単結晶の充電物性を明らかにすると共にC60を光電材料として応用する可能性を検討することである。 第一章においてはC60の物性に関する既往研究を紹介している。 従来の無機太陽電池材料であるSiなどの場合は単結晶と薄膜の性質の違いが大きく、単結晶の方が効率の面で優れている場合が多い。C60の薄膜に比べるとC60単結晶の物性測定例は少ない。C60の光電材料への応用の可能性を追究するため第二章ではC60単結晶の作製とその電気伝導率、光吸収、フォトルミネセンスなどの光電物性の測定を行った結果について考察を行い、C60単結晶と薄膜の違いを明確にした。 その結果をまとめると 1)C60電気抵抗測定により、f,c.c構遺からs.c構造への転移による不連続変化が観測された。その転移は僅か0.4Kの温度範囲で起こった。この温度範囲は薄膜についての報告値30Kに比べると非常に狭かった。これは本研究で作製した単結晶が薄膜と比べて結晶性が高く、不純物が少ないためであった。256K以下の温度では電気伝導の活性化エネルギーが0.38eVであるのに対して、256K以上では0.58eVであった。これらの活性化エネルギーがC60のバンドギャップの半値より小さいことはギャップ内準位が存在することを示唆している。 (2)C60単結晶の光吸収測定では、一般に言われているC60のバンドギャップ(1.5eV)より小さいエネルギーである0.6eVから吸収の増加が見られた。C60分子間はファンデルヮール力により結合しており、ダングリングボンドのような欠陥が存在しないはずである。更にC60薄膜のサブギャップの範囲における光吸収も報告されている。したがって、このギャップ内準位が構造の乱れによるものではなく、固体C60に存在する不純物に由来するものと考えられた。 (3)同じ原料から作製した単結晶とC60薄膜のフォトルミネセンスを測定したところ、単結晶のピークが1.48eVと1.65eVにあるのに対して、薄膜のピーク位置は1.51eV、1、69eVにシフトした。単結晶を長い時間空気中に放置するとピーク位置の変化はほどんど見られないが1.48eVでのピークが小さくなり、アニールすることによってこのピークは回復する様子が見られた。このエネルギーシフトは固体効果によるものであると考えられた。 以上の結果からC60単結晶と薄膜の物性差異は従来の半導体の場合と異なり、小さいことがわかった。したがって、C60を従来の太陽電池材料と同じように利用するのではなく、C60の特性を十分活かした利用法を考える必要がある。 そこで、 1.C60薄膜の作製プロセスが一般の半導体より低温で容易にできる。 2.禁止遷移であるためC60中のキャリャの寿命が長い。 3.C60は欠陥のない分子であり、クラスタ一間の結合力はファンデアワールス力で、格子の不整合による界面のダングリングボンドなどの欠陥ができにくい。 などの特性に着目した。 通常太陽電池にはバンドギャップの大きいものが窓材として使われているが、異なる材料の界面で格子定数の不整合に由来する欠陥(ダングリンボンド)が生じる。この欠陥生成を抑制する必要があるため材料の選択巾が極めて小さい。今までの材料にない特性を持つC60をバンドギャップの差の大きな半導体の中間層として使えば、格子定数が違うため、本来できないp-n接合が容易にでき、太陽電池などの光電デバイスの材料選択巾を広げることが可能になると考えられる。 第三章ではその可能性を検討するため、C60と無機半導体Siの接合を作製し検討した。その結果、C60とHeavily-dopedおよびLightly-dopedのp型、n型4種類の接合全てが整流特性を示した。また、Heavily-dopedのp型Siとの接合とHeavily dopedのn型Siとの接合から、それぞれ0.1V、0.3Vの光起電力が観測された。この結果から、C60膜と無機半導体との接合が容易にできることがわかり、C60を格子定数の異なる半導体の不整合を解消するバッファー層として使用できる可能性があることがわかった。 第四章では本論文の各章の成果を総括した。 以上、本研究は新たな物質であるC60の基礎的な光電物性を明らかにし、光電材料のヘテロ接合バッファー層としての応用可能性を実証、提案しており、工学的な価値の高いものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |