近年のコンピューターの高速化に伴い、高密度多層ハイブリッド基板の開発が進められているが1、その材料として、セラミックス粒子分散ガラス基複合材料が注目されている。しかし、これらの材料では、高弾性率、高靭性の粒子による荷重転移2、き裂の偏向3、湾曲4などによる高靭化機構が提唱されているが、微細なセラミックス粒子が分散したガラス基複合材料では、巨視的弾性率以外に強度、靭性に影響をあたえる因子は確認できていない。一方、アルミナ粒子分散ボロシリケートガラス基複合材料は、アノーサイト結晶(CaO-Al2O3-2SiO2)が界面に析出することにより、大気中において曲げ強度が向上することが明らかになっている1。 そこで、本研究では、電子材料用ガラスセラミックスとしてアノーサイトが析出したアルミナ粒子分散ガラス基複合材料に着目し、力学的特性の評価、数値解析、SEM,TEMによる観察などからアノーサイトが析出したアルミナ粒子分散ガラス基複合材料の高靭化機構を明確にし、高性能微細セラミックス粒子分散ガラス基複合材料の開発を目指した。 まず、微細なアルミナ、コーディエライト、石英ガラス粒子を分散したガラス基複合材料について力学的特性の評価を行い、巨視的弾性率及び、微視割れが強度、靭性に及ぼす影響を調べた。すると、曲げ強度は巨視的な弾性率に比例して増加しており、このように、今回の試料の曲げ強度は、第二相粒子の種類に関係なく、巨視的な弾性率により決まっていた。一方、破壊靭性は、試料A,C,Sについては、曲げ強度の場合と同様に、雰囲気に関わらず巨視的な弾性率に比例して破壊靭性が増加した。しかし試料CSはそれらの関係より、高い破壊靭性を示した。この原因として、試料CSは多数の微視割れが生じており、微視割れによる高靭化が発現したと考えられる。以上から、通常のアルミナ粒子分散ガラス基複合材料の、高強度、高靭化は巨視的弾性率の増加だけで実験的には説明できた。 しかし、アルミナ粒子分散ガラス基複合材は、界面にアノーサイト結晶を析出させることによりさらに強度が向上する.そこで、アノーサイト結晶の析出と力学特性との関係及び、結晶化が微視破壊過程に及ぼす影響を調べた。用いた試料をTable1に示す。各試料中は、Fig.1に示すように、A1は、ほとんどアノーサイトが析出せず、A2,A3はアルミナとガラスの界面にアノーサイトが析出している。 Table 1.Composition of tested materials.Fig.1.Schematic of the microstructure of alumina and anorthite. これらの試料の曲げ強度と結晶量との関係をFig.2に示す。アルミナとガラスの界面に結晶を析出させた試料について見ると、巨視的弾性率が低下しているのにもかかわらず、結晶量の増加と共に強度が向上した。一方、ガラス中に結晶を分散させた試料A4について見ると、試料A1より強度が低下しており、ガラス中に結晶を分散させても、曲げ強度の向上は見られない。Fig.3は、破壊靭性と結晶化率との関係を示したものである。 図表Fig.2.Relationship between bending strength in air and fraction of anorthite. / Fig.3.Relationship between fracture toughness in air and fraction of anorthite. 曲げ強度と同様に結晶化率の増大に伴い破壊靭性は増加するが、アノーサイト粒子を分散させた試料A4については破壊靭性の向上は見られなかった。このように、ガラス相を結晶相に変化させても、結晶相がアルミナとガラスの界面に存在するか、ガラス中に存在するかで、強度、靭性に及ぼす影響は大きく異なった。 次に、き裂経路をSEMにより観察したところ、界面結晶が析出していない微細な粒子の場合、き裂は偏向を起こし界面に沿って進展するが、界面結晶が析出した粒子の場合粒子中に進展していることが分かった。これから考えて、界面結晶析出による靭性の向上は、Fig.4に示すように界面結晶が析出していない通常の材料ではき裂の偏向が生じているのに対して、界面結晶析出によりき裂が粒子中に進展することにより、粒子によりピン止めされ、き裂の湾曲が生じたことが原因と考えられる。 Fig.4.Schematic of the change of microfracture process by precipitation. 以上の結果から、界面結晶析出によるセラミックス粒子分散ガラス基複合材料の高強度、高靭化は、き裂の偏向、湾曲と大きな関係があることが分かった。そこで、セラミックス粒子分散ガラス基複合材料のき裂の偏向、湾曲による高靭化のシミュレーションを行い、界面結晶析出とき裂の偏向、湾曲による高靭化の関係を調べた。 その結果、界面結晶が析出しない場合、き裂進展に伴い破壊靭性はわずかしか向上しなかった。破壊靭性の増加が少ないのは、き裂偏向、湾曲の高靭化機構が互いに打ち消しあっているためであり、粒子分散だけでは、き裂の偏向、湾曲による高靭化機構はほとんど作用しなかった。そして、界面結晶が析出することにより、破壊靭性は大幅に向上した。これは、界面結晶中にき裂が進展することにより、界面でのき裂進展が抑制された結果、き裂の偏向、湾曲による高靭化が発現したためである。これらの数値解析結果は、アルミナ-ガラス系における実験結果と一致した. このように、界面結晶析出により、き裂の湾曲による高靭化機構が促進されることがわかったが、常圧焼結で作製した界面結晶を析出させた粒子分散材料は、ち密化が不完全であった。また、ち密な焼結体が作製可能であれば、ウィスカー、プレートレットなどを分散させた場合にも、界面結晶析出による高強度、高靭化が期待される。そこで、ホットプレスにより界面結晶を析出させたアルミナ粒子またはプレートレット分散ガラス複合材料を作製し、その力学的特性の評価を行った。 すると、ホットプレスにより得られた焼結体の密度、弾性率は、粒子分散材、プレートレット分散材ともに常圧焼結材より向上しており、ち密な焼結体が得られた。しかし、曲げ強度は結晶化率に対してピークが存在しており、ち密な焼結体が得られたのにもかかわらず、多量に界面結晶が析出すると曲げ強度は低下してしまった。これは、SEMにより破面を観察したところ、多量に界面結晶が析出した試料は異常な結晶析出が生じて破壊源となっていたことから、焼結条件の改善によりこのような異常な結晶析出を抑制すれば、さらに曲げ強度が向上するものと思われる。 一方、破壊靭性は結晶化率の増大に伴い単調に増加していた。プレートレット分散材は粒子分散材より高い破壊靭性を示すが、界面結晶によりさらに破壊靭性が増加しており、プレートレット分散材においても界面結晶析出による高靭化機構が作用していることが分かった。 以上のことから、次のような結論が得られた。 (1)通常のアルミナ粒子分散ガラス基複合材料では、その強度、靭性の向上は巨視的弾性率の増加だけで説明できた. (2)界面結晶が析出したアルミナ粒子分散ガラス基複合材料は、界面結晶析出により強度、靭性が増加した。これは、通常のアルミナ粒子分散ガラス基複合材料はき裂が粒子にぶつかっても界面に沿って進展してしまうのに対して、界面結晶が析出した粒子中にき裂が進展してき裂の進展抵抗が上昇したためと考えられる。 (3)き裂の偏向、湾曲の数値解析を行った結果、界面結晶析出によりき裂の湾曲が促進されることにより靭性が向上したと結論できた。また、数値解析から予測される破壊靭性値は実験値と良い一致を示した。 (4)ホットプレスによりアノーサイトが析出したアルミナプレートレット分散ガラス基複合材料を作製したところ、粒子分散材と同様に界面結晶析出による高靭化が発現した。 参考文献1.S.Nishigaki and J.Fukuta,Advances in Ceramics vol.26,The American Ceramic Society,Inc.,Westerville,Ohio,199-215(1989)2.J.C.Swearengen,E.K.Beauchamp and R.J.Eagan,Fracture Mechanics of Ceramics vol.4,Plenum Press,New York,973-84(l978)3.K.T.Faber,A.G.Evans and M.D.Drory,ibid.vol.6,Plenum Press,New York,77-91(1983)4.B.N.Cox and W.L.Morris,Engineering Fracture Mechanics,31(4),591-610(1988) |