学位論文要旨



No 111235
著者(漢字) テルジースキー,ジャン
著者(英字)
著者(カナ) テルジースキー,ジャン
標題(和) 先端材料の三次元鍛造プロセスの解析
標題(洋) THREE DIMENSIONAL FORGING ANALYSIS FOR ADVANCED MATERIALS
報告番号 111235
報告番号 甲11235
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(学術)
学位記番号 博工第3479号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岸,輝雄
 東京大学 教授 木原,諄二
 東京大学 教授 梅田,高照
 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 助教授 相澤,龍彦
 東京大学 助教授 榎,学
内容要旨

 材料プロセシングにおける生産技術の基礎を固め、さらなる産業展開をはかる上で新しい知的生産システムへのニーズが高まっている。特に、高度な鍛造プロセスおよびその関連材料プロセシングにおいては、非線形材料特性を考慮することができる高信頼度の解析手法に加え、加工に伴う複雑な3次元変形、形状変化を数学モデル上で合理的に取り扱うことができる計算幾何学的手法が重要な鍵を握る。それにより、鍛造設計解析などにおいて重要なアイテムが現実のものとなる。すなわち、加工中の材料流動とミクロ組織変化の予測とその改良、試行実験(試し打ち)の回数の削減、最終製品における変形誘起欠陥の防止、過剰な鍛造限界の回避、製造部品・工具の機械的性質の制御などである。

 上記の目的を達成すべく開発されてきた、市販の塑性加工解析ソフトウエアを概観すると、以下の点に気がつく。市販コードは初期形状からの生産解析およびその製造評価への応用を低コストて実現することに主眼がおかれているため、2次元解析で満足しているものが多く、現実のプロセスにおける3次元多軸荷重負荷・非対称な初期プリフォームからの解析などを行うことができない。さらに、非線形解析で必須となる数学モデルの発生-制御を誤差の混入なしで行うことも難しい。特に、市販プログラムは、鍛造プロセスに特価していない、非線形解析の汎用コードであるゆえの無駄を多く内包しており、解析時間および実際の鍛造設計の上で不都合が多いといえる。

 この実用鍛造解析を行う上での困難さを克服し、プロセス中の先進材料の非線形大変形を精度良く解析し、その力学挙動を予測するためには、これまでにない新しい視座からの非線形解析手法を開発し、その上にたって新しい鍛造解析システムを構築する必要がある。すなわち、

 1)3次元非線形解析手法 3次元塑性流動プロセスと材料-工具相互作用を精度よく記述し、理解する。

 2)鍛造プロセス因子の解析 荷重・潤滑性・初期プリフォーム形状設計などの鍛造プロセス因子を直接考慮し、記述する。

 3)鍛造プロセス欠陥の解明と改良 せん断ひずみ集中領域の予測および欠陥予測を含む鍛造性評価を行う。

 上記の目標を達成するために、本研究では、3次元剛塑性有限要素解析プログラムシステムNSAEC(Nonlinear Solid Analysis by Element Control)を開発し、その理論的取り扱い、定式化、数学モデリングおよびコンピュータ・インプリメンテーションを示すとともに、代表的な鍛造プロセスをいくつか取り上げ、そのプロセス解析結果と実験結果ならびに他の参照データとを比較することによって、本解析手法の有用性ならびに開発した3次元鍛造解析システムの健全性・高信頼性を実証する。

 剛塑性モデルでは一般に、可容速度場の非圧縮性を要請するため、従来の有限要素近似ではこの非圧縮性条件を満足することできない。またラグランジェ乗数法(あるいはそれに等価なペナルティー法)を用いて数学モデルを構成する場合も、速度場と圧力分布との近似特性を適切に考慮し、両方の近似解が同等に真の解に収束することを保証する条件(LBB条件)を満足することが必要条件となる。本論文では、まず3次元要素モデルに対するLBB条件を保証させるために必要なパッチテストを考案し、それを適用することにより、比較的少ない自由度で3次元剛塑性解析を行うことができる、複合4面体要素を提案、開発した。この要素では、もとの4面体要素(これを親要素と呼ぶ)を8つの小要素(これを子要素と呼ぶ)に分け、圧力分布は親要素ごとに区分的に定数分布、速度場は子要素ごとに区分的に1次関数で近似する。これにより、変形前に4面体であった親要素は、変形中に稜線が折れ線になることが許容され、鍛造解析のように局所的に変形が集中しやすい力学挙動を円滑に表現できる。また後述するように、通常使用されている6面体形状の有限要素と異なり、複雑形状に対する要素モデル生成ならびに変形中における要素モデル変更あるいはモデル制御を、自動的に行うことができる。

 本研究では、上記の要素制御を可能とする方法として、計算幾何学に基づく3次元デラウニ/ヴォロノイ分割法を開発し、それにより、鍛造プロセスで扱う被加工材料の複雑な初期形状に対する要素モデルを生成するとともに、解析精度を評価しつつ、適当な誤差指標で解析を続行するための要素再分割および要素モデルの部分制御を可能にした。ここで特に強調すべき点は、後述するALE法(Arbitrary Lagrangian Eulerian)における数学モデルの制御も含め、従来の解析方法では考慮されてこなかった、「要素制御」の考え方を解析手法に導入し、実際の鍛造プロセスにおける被加工材料の力学挙動を精度よく記述することが可能となった点であり、本手法の有用性については後述のいくつかの解析例において実証する。

 鍛造プロセスのように、被加工材料と工具(ダイス・ポンチなど)とが複雑な相互作用を及ぼす場合には、これまでの解析法のように、要素分割を局所的に細分化して一定の精度を保つことは、3次元問題であることもあり、ほとんど不可能である。例えば、工具角部分・クリアランスなどはひずみ集中など被加工材料の塑性変形挙働に大きい影響を与えるが、剛体変位する工具と塑性流動する被加工材料との相互作用(Euler modelとLagrange Modelとの相互作用)を正確に取り扱わなければ、3次元問題では、非現実的な数学モデルを必要とすることになる。ここに、ALE法に基づく3次元剛塑性解析法の必要性がある。本論文では、これまで主として2次元問題を対象として研究開発されてきたALE法の問題点を指摘するとともに、剛塑性モデルに適合するALE-混合有限要素解析法の定式化・数理モデルを研究開発し、それを3次元解析に拡張するとともに、要素制御に基礎をおくアルゴリズムとして、鍛造プロセス解析システムを開発した。

 本研究で開発した3次元剛塑性解析システムの有用性を示すとともに、本論文で示した解析法の妥当性および実際の鍛造プロセスにおける有効性を実証する目的で、大別して4つの例題を示す。

 解析解および他の研究者らによって解析が試みられた問題として、据え込み鍛造および自由鍛造プロセス解析を取り上げた。摩擦を考慮しない、円柱ビレットの据え込み鍛造では、解析に用いる構成方程式に関係なく、一様速度場が達成され、一定圧力分布となる。本解析結果より、5回の反復計算により数値解は正解に収束することが確認され、理論的にも本解析手法の妥当性が確証できた。Ni基超合金などの大型構造物の成形加工には自由鍛造プロセスが利用され、端面形状が工具との摩擦係数により大きく変化することが知られている。円柱ビレットの側面からの自由鍛造プロセスを解析すると、摩擦なしの場合には自由面は凹面に、固定条件とした場合には凸面になること、塑性ひずみ分布が他の3次元弾塑性解析結果(NIKE-3Dによる解析)と一致することを確認した。さらに実際の自由鍛造プロセスにおける繰り返し鍛造に対応して、鍛造方向を変化させた繰り返し鍛造解析にも、本解析手法は利用できることも示した。

 粉末成形・粉末冶金では、密閉鍛造プロセスが多用される。特に粉体成形-焼結後のサイジングプレスでは、最終製品形状へのニアネット成形性および成形欠陥の防止がきわめて重要である。ここでは、鉄粉リング焼結体のサイジングプレスを対象として、形状成形性に関して、本解析結果が他の弾塑性解析結果(ADiNAによる解析)よりも試験体形状を精度良く再現できることを示した。また鍛造成形荷重履歴も本解析によって定量的に予測できることを確認した。さらに、成形性評価において重要となる焼結体の相対密度分布に関しても、本解析によって得られる相当塑性ひずみ分布によってきわめて良好に予測できることがわかった。

 イムプレッション・ダイ鍛造は、複雑な塑性流動を伴う非対称鍛造プロセスの代表であり、種々の部品成形の基本成形プロセスとなっている。ここでは、外側ダイ-上下ポンチ-内部コアからなる鍛造プロセスを対象とし、Al合金粉末円筒型成形体プリフォームを圧縮率約90%まで鍛造した場合の形状変化に関して、本解析結果と実験結果とを比較した。両者はきわめて良好に一致していることがわかり、本研究の目的であった、複雑な形状変化を伴う鍛造プロセス評価への本解析手法の適用の妥当性が示せたと考えている。

 ALE-3次元剛塑性解析法の妥当性を評価するために、押し出し鍛造プロセスを取り上げた。押し出しプロセスでは、工具表面と被加工材料との接触、工具面角部分での塑性流動の特異性などが、特に3次元シミュレーションでは問題となる。実際、従来型のラングランジェ法による弾塑性あるいは剛塑性有限要素解析では、全くと言ってよいほど、実際の3次元塑性流動を記述することはできない。本論文で提唱、定式化したALE法を用いると、押し出し比・押し出し速度にほとんど関係なく、合理的な塑性流動パターン、圧力分布を見積もることができる。

 以上、本論文により、形状特性・成形性などに関して要請される精度・品質が高い先進材料の鍛造プロセスを、新しく研究開発した解析的手法によって記述し、その塑性流動特性、圧力分布・鍛造荷重履歴などのプロセスパラメータを明らかにし、複雑な最終製品形状を精度よく予測できることを示した。

審査要旨

 本論文は、塑性加工の力学解析法としてその有効性が認められている剛塑性有限要素法の改善されるべきいくつかの課題、すなわち、材料の構成関係に対するロバストネス、体積制御に伴って生じる変位解析の不安定と低精度の解消、要素分割の合理化および工具によって決定される変位経路の正確な取扱などを対象に研究し、新しい解析コードを創出するとともに、具体的な成形問題についてシミュレーションと実際の状態とを比較してその有効性を論証したものである。論文は7章より成る。

 第1章は序論であり、現在用いられている代表的な剛塑性および弾塑性有限要素法の特徴と問題点を考察し、現在の有限要素法の解析システムには、上述のような解決を要する課題があることを指摘し、これらの課題をすでに二次元モデルで試みられた複合要素の他に、ラグランジアンとオイレリアンとを併存させたスキーム(ALEスキーム)を採用した解析システムの構築によって解決すると言う研究の目的が述べられている。

 第2章は剛塑性有限要素法自体の持つ、体積制御の拘束のために変位制御の自由度が低下して、解の合理性が低くなる問題に対して二次元問題において三角形要素に適用した複合三角形要素と同様な三次元問題に対する四面体要素に適用する複合四面体要素の構成について検討した。複合四面体要素は十個のサブ四面体要素に親四面体が分割され、体積制御は静水圧評価とともに親四面体の体積に対して行なわれ、変位解析は各サブ四面体の頂点の変位に対して行なわれる。この三次元モデルに対応して仮想仕事評価関数を作り、変位解析の自由度の検討、適切な変位増分量の大きさの検討を行なっている。

 第3章では、要素分割の方策について検討して、従来のすでに存在する要素の近傍に節点を発生させそれとつないで要素を殖やしていく方法ではなく、まず解析領域全体に節点を発生させ、それをデラネイ法によってつないで要素モデルを得る方法を検討した。この方法が要素モデルの均一性と、また精度の観点を要素密度ではなく節点密度で評価して、要素分割を合理的に行なうことができる利点を確認した。

 第4章では、ALEスキームを採用した剛塑性問題の定式化について検討している。本スキームを採用することは解析の上でそれほど大きい複雑さを持ち込むことではなく、塑性加工とくに型鍛造のような工具面の角点に二つの速度が存在するような境界条件の場合、解析を容易にし解の合理性を向上させる可能性を示した。

 第5章は以上の要素モデルとラグランジアンスキーム、および同じくALEスキームを採用する定式化と計算の自己評価システムとを併せて具体的な計算システムを構築する方法を述べている。

 第6章では、第5章のラグランジアンスキームを採用した計算システムを用いての、円柱すえこみ問題・マルチラム型鍛造問題・型鍛造問題・押し込み鍛造問題のシミュレーションに関する結果の検討、ならびにALEスキームを採用したシステムによる、型に沿う速度の不連続が存在する前方押出し鍛造の同じくシミュレーション結果の検討について述べている。ALE法を用いる必要のない前者のケースについては、予期したように複合要素モデルの採用によって鍛造全プロセスに亘っての合理性のある計算結果が得られることが分かった。また後者に関しては、粉末鍛造の実験結果と合わせるため圧縮性を取り入れた構成方程式を用い、それに対応する定式化を加えた計算システムを用いてシミュレーションを行なった。また普通のラグランジアンスキームをベースにした計算も行なって比較した。まず、ラグランジアンスキームでは、押出しの比較的初期において誤差の蓄積が著しく計算が不能になったのに対して、ALEスキームを採用した計算システムによるシミュレーションでは、誤差の蓄積が小さく、前方押出し鍛造全過程のシミュレーションが可能であることを明らかにした。さらにこのシミュレーションの結果と実験結果との対応は良好であった。

 第7章は結論と今後の課題について述べている。

 以上を要するに本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。

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