審査要旨 | | 養殖魚からは未報告であったベネデニア亜科の単生類(はだむし)Benedenia epinepheli(Yamaguti,1937)とNeobenedenia girellas(Hargis,1955)が養殖場のヒラメ,トラフグ,ハタ類などに寄生し,被害を与えるようになっている。本論文は,これら2種のはだむしについて行った形態および分類,宿主範囲,地理的分布に関する研究をまとめたものである。N.girellasについては,生活史および免疫に関する研究を含む。論文内容の概要は以下のとおり。 1.B.epinepheliの形態と分類 本種は,体長1.5〜3.1mmの小型のはだむしで,ヒラメ,クロソイ,キジハタなどの魚の体表,鰭および目に寄生していた。形態学的に,生殖器官の開口する付近の体表に伸長した部分があることが待徴として新たに記載された。本研究によって新たに本州,四国,九州の計9都県の12の魚種がB.epinepheliの宿主として追加され,従来の報告なあわせると宿主の数は25種となり,Benedenia属としては,きわめて例外的に宿主特異性の低い種であることが明瞭になった。 2.N.girellaeの形態および分類 日本ではこれがNeobenedenia属単生類の最初の記録である。N.girellaeは,ヒラメ,カンパチ,トラフグ,マダイ,ハタ類などの体表や目から採集され,体長は,ヒラメに寄生した虫体で,3.6〜5.6mmであった。Neobenedenia属は他のベネデニア亜科のはだむしとは膣を持たないことで容易に区別された。また,近縁種のN.mellaniとは体形などで区別された。 本種は熱帯域な中心に広く分布しているが,日本では1991年10月に初めて発見され,その後に採集された材料と合せて,9県の5科15種の養殖魚に寄生することが判明した。 3.N.girellaeの生活史および養殖魚への感染ルート 養殖カンパチに寄生していたN.girellaeを魚体から離し,海水中で5時間,産卵させた。産卵数は19〜171個,産卵から孵化開始までに,20℃で7日,25℃で5日,30℃で4日を要したが,15℃では孵化しなかった。 孵化直前の虫卵を飼育水槽に加え,ヒラメに感染させたところ(25℃),4日後までは鰭からのみ採集され,すべて未成熟であった。12日後には,1.50〜4.13mmに達し,ほぼすべての虫体が成熟していた。最小成熟虫体の体長は2.1mmであった。12日目以降の大型個体は体表に寄生していた。 ここ数年,養殖用の種苗として,中国海南島や香港からカンパチ稚魚が大量に輸入されている。1992年から1994年に九州,四国各地に到着して2日以内の輸入カンパチを検査したところ,魚群によって,7.7〜70.0%の魚がN.girellaeに感染していた(虫体長2.1〜7.6mm)。海南島と香港で日本に輸出するために蓄養していたカンパチから採集したはだむしも,すべてN.girellaeで,体長は3.7〜4.9mmであった。 輸送に要する約1週間の日数,本種の成長速度,日本到着直後のカンパチ稚魚における成虫のみの寄生とその高い寄生率,および輸出地でも既に寄生している事実から判断して,本種はカンパチ種苗の輸入によって導入されたと結論された。また,宿主特異性が低いため,国内でカンパチから他の養殖魚種にも寄生が拡大したと考えられた。 4.N.girellaeに対するヒラメの免疫応答 飼育水槽に孵化直前の虫卵を投入することによってヒラメ(体長14.2〜25.8cm)にN.girellaeを感染させ,10日後に淡水浴によって駆虫した。この魚群な実験区とし,未感染魚群を対照区とし,駆虫10日後に攻撃試験を行い,攻撃10日後に寄生している虫体数および虫体長を両区で比較した。また,実験感染魚および超音波処理した成虫を腹腔内注射した魚の血清中の本種に対する抗体の存在をELISAによって調べた。 これらの実験の結果,実験区の魚では,寄生虫数が減少するばかりでなく寄生虫の成長も抑制され,ある程度の防御能が働いたと推察された。また,この免疫応答に血清中の抗体は関与していないことが示唆された。 以上,本研究は,海面養殖魚で最近問題になっているB.epinepheliとN.girellaeについて,魚類寄生虫としての特性を明らかにしたものであり,学術上,応用上貢献するところが少なくない。よって審査員一同は,本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 |