学位論文要旨



No 111281
著者(漢字) 董,志浩
著者(英字)
著者(カナ) トウ,シコウ
標題(和) 木質細断束をエレメントとする新しい構造用板材料の開発に関する研究
標題(洋) A Study on Development of A New Structural Board Material Composed of Wooden Long Sticks
報告番号 111281
報告番号 甲11281
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1572号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 林産学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大熊,幹章
 東京大学 教授 岡野,健
 東京大学 助教授 有馬,孝礼
 東京大学 助教授 小野,拡邦
 東京大学 助教授 太田,正光
内容要旨 【緒言】

 ラワン合板の行き先が不透明性を増す中で通常の合板、LVLの製造には適さない低質単板を幅方向に細かく裁断して得られた細断束(long stickとも呼ばれる)及び同じく細断束である木質廃棄物の割り箸をエレメントとする新しい構造用ボード(Long stick board,LSB)の開発研究を行った。LSBは低質材、廃材の有効利用を実現すると同時に、木材の繊維方向の優れた特性を生かすものでもあり、さらに細長い形を持つエレメントは単板より小さいので、自動化連続製造ラインの実現の可能性がある。

【単板細断束をエレメントとするLSB-Vボードの製造と材質】

 LSB-Vボードの製造方法、基本材質を調べた。すなわち、比重、含脂率と材質の関係を調べ、特にその異方性の改善と製造時のエレメントの連続フォーミングを実現するという観点から、エレメントの構成方法などを検討した。実験は、ロータリー切削したスギ及びラワン単板を幅方向に2.7-3.0mmにカッターで裁断した細長い細断束(long stick)をエレメントとし、手作業により、それを平行に並べて層とし、単層あるいは3層構成にクロス積層したボードを製造した。ボードの比重、層構成及び含脂率を変化させた。製造したボードのサイズは370mm×370mm、厚さ12mmであり、これらのボードはJIS A 5908の規準に準じて、それぞれ曲げ試験、剥離試験及び耐水性試験などを行った。

 〔結果及び考察〕(1)LSB-Vボードのエレメントの組み合わせ方は、ボードの安定性を保つために、合板と同様に厚さの中央に対して対称構造を取らなければならない。(2)LSB-Vはエレメントの樹種によらず、ボードの比重の増加に伴い、ボードの材質(MOR、MOE、IB)が向上する。パーティクルボードに比較して、同一比重で大きなMOR、MOE、IBを保持する。比重0.37の3層ボードの曲げ強度は//方向と⊥方向それぞれJISの200タイプと100タイプの規準値に合致した。このことはLSB-Vボードの構造用板材料としての可能性を示唆するものである。(3)ユリア樹脂接着剤を用いたLSB-Vでも24時間常温水に浸せきした後の厚さ膨張率はJIS A 5908の基準12%以下を十分にクリアーする。また、ボードのMOR、MOEの残存率はそれぞれ平均77%と74%の高い値を保持している。温度上昇をともなわない限り、水分アタックに対してユリア樹脂パーティクルボードより遥かに強い抵抗力を示す。(4)含脂率とともにボードの材質は向上するが、含脂率4.5%を越えると頭打ちとなる。一方、剥離強さは本実験の範囲では含脂率の増加とともに単調に増大して行くが、含脂率1.5%でも200タイプパーティクルボードのJIS基準値3.0kgf/cm2をオーバーする。このことより、LSB-Vボードはパーティクルボードより低い含脂率(例えば5%)で製造が可能である。(5)LSB-Vボードの曲げ性能はその層構成比(各層の重量比)に大きく影響される。本実験の範囲では層構成比1:3:1にすると強度の異方性が緩和され、安定した性能を示す。また、複合材料のMOEに関する基本式による計算値とMOEの実験値はよい対応を示し、基本式の適用が可能であることが認められた。(6)実大スケールのLSB-V製造を考えると板の長尺方向においてはlong stickの縦つぎが必要となる。stickの重なり長さを30mmに取るとボードの強度に対する縦つぎの影響がなくなることが認めた。

【割り箸をエレメントとするLSB-Cボードの製造と材質】

 本実験では使用済み割り箸をエレメントとする単層あるいは3層複合板(Composite Panel)などについて製造方法と基本材質を検討した。すなわち、回収された割り箸を洗浄した後、実験室の乾燥機で含水率を約5%まで乾燥し、それをエレメントとし、単層あるいは表裏層に単板、チップなどをオーバーレイした3層構成ボードを製造した。単層ボードはすべてランダムにフォーミングし、割り箸の長さを3段階変化させ、またそれにチップを混合したボードも製造した。また、コアー層の割り箸を、ランダムあるいは配向させて、表裏層を単板、チップ、long stickあるいはファイバー層でオーバーレイした3層構成のボードを製造した。これらの3層ボードの比重、含詣率及びコアー層の構成などのボードの材賀に及ぼす影響を調べるために、ボードの製造条件をそれぞれ変化させ、それぞれ曲げ試験、剥離試験及び耐水性試験などを行った。

 [結果及び増察](1)単層LSB-Cボードは曲げ強さ、曲げヤング係数とも極めて小さく、これにチップを混合するとMOR、MOEが上昇してくるが、その場合でもJISパーティクルボードの150タイプの規準に満たない。これらの単層ボードは構造用の板材料として適していないと考えられる。(2)3層LSB-Cボードの曲げ強度は単層ボードに比べて高い値が得られた。また、3層配向ボードの材質(MOR、MOE、IB)は3層ランダムボードより、優れた値を得られた。(3)3層ランダムLSB-Cボードの曲げ強度は、コアー層が同じ条件の場合には表面をチップでオーバーレイした場合の方が表面をファイバーでオーバーレイした場合よりも強く、表面層が同じ条件の場合ではコアー層の割り箸にチップを混合した場合のMORが大きくなることが分かった。(4)3層配向ボードの//方向(コアー層の割り箸と//方向)の曲げ強度はコアー層が同条件の場合、表面層材料によらずほぼ同程度のMOR値を示し、これはコアー層の割り箸が効いているためと考えられる。3層配向ボードの⊥方向のMORはコアー層が同条件の場合、表面層材料の強度の影響を受け、表面層が強い方が大きなMORを与えることが分かった。(5)フェノール樹脂接着剤を使用したLSB-Cボードでは吸水厚さ膨張率がJISの基準値である12%を遥かに越る結果となった。これは、断面の大きな棒状エレメントを用いたボードでは、熱圧締の過程で圧縮された部分が吸水により元の形状にスプリングバックすることが原因と考えられる。また、フェノール樹脂接着剤は断面の大きな棒状エレメントを用いたボードでは水分安定性に十分に寄与しないことが分かった。(6)配向3履LSB-Cボードでは、合板の場合と同様にボードの層数を増やすにつれて、ボードの異方性が緩和していく。

【エレメントの熱処理とそれを用いたLSB-Cボードの材質】

 割り箸をエレメントとしたLSB-Cボードは吸水による厚さ膨張率がかなり大きく、構造用板材料としては安定性に欠ける。本実験はボードの吸水厚さ膨張率を抑さえるために、エレメントである割り箸にあらかじめ熱圧処理を施し、寸法の固定化を試み、また熱圧処理により固定された割り箸をエレメントとするボードを製造し、その有効性を調べた。すなわち、熱圧温度、熱圧時間、割り箸の初期含水率を変化させて、割り箸を熱圧処理し、圧縮率及び沸騰水浸せき後の厚さ膨張率を調べた。その結果圧締温度180℃,熱圧時間3分間、割り箸の初期含水率18%以上とすると圧縮変形が固定されることが認められた。これらの熱圧処理をしたエレメントでボードを作り、未処理エレメントで作ったものと比較した。

 [結果及び考察](1)熱板温度180℃を越えると、圧縮された割り箸のサイズは固定状態になっている。これは熱処理温度が高くなると、主要木材成分が一部分解し、それに伴って、木材のリグニンとヘミセルロースの一部で構成されたマトリックスの構造に蓄積されていた力が緩和することによって変形の固定が起こると考えられる。(2)木材の初期含水率は形状回復に大きな影響を与え、本試験で18%以下だと、高圧水蒸気の生成ができず、回復は大きくなるため、少なくとも含水率約18%以上の水分が必要である。(3)処理ボードの曲げ性能は未処理ボードより強い傾向が認められた。これは熱圧処理により、割り箸の密度が高くなったことにかえて、接着面積が増加したためと考えられる。(4)処理ボードの吸水厚さ膨張率は未処理ボードに比べて、平均約1/3の値を示し、これは熱圧処埋された割り箸の形状が固定された効果と考えられる。また、処理ボードの吸水厚さ膨張率はすべて12%以下の値を示し、JISの基準値を十分にクリアする。(5)処理ボードは浸水処理後より高い曲げ性能の残存率を得られた。

【高梁の茎をエレメントとしたボードの材質】

 表裏層にスギ単板をオーバーレイし、コアー履に高梁(Sorghum)の茎を3層交差させた5層高梁ボードと5層ラワン合板の静的曲げ性能、曲げクリープ変形挙動を比較した。その結果は(1)同荷重比(Load/Pmax)で、高梁ボードの初変位0(0.5min.)がラワン合板より小さい。また、荷重時間を増加すると、その対応の変位(t)の増加割合が高梁ボードの方がラワン合板より小さい。(2)初度位0(0.5min.)の影響を除いて、荷重比(Load/Pmax)を増加しでも、高梁ボードの各条件の(t)/0の値はそれぞれ同値を保持する。すなわち、高梁ボードはラワン合板より優れた剛性が有することが分かった。(3)高梁ボードの曲げ性能(MOR、MOE)はJISのパーティクルボード200タイプ規準値以上の値を示した。(4)以上の結論より、高梁ボードは合板の替わりに構造用板材料として、実用の可能性があることが認められた。このことはLSBボードの製造においては木質材料だけではなく農産廃棄物の植物繊維などを利用することが可能であることを示唆している。

【結語】

 LSBは国産針葉樹間伐材などの低質材、小径材、廃材などを有効利用できる、つまり、原料の選択範囲の広い板材料である。また、パーティクルボードよりも優れた、合板に近い材質を持っている。加えて、LSBの製造はパーティクルボードと同様の連続生産が可能であると考えられる。LSBは国産造林木の有効利用の促進と合板に替わる構造用板材料の供給を実現するものと考えられる。

審査要旨

 本論文は、ラワン合板の先き行きが不透明性を増す中で通常の合板、LVLの製造には適さない低質単板を幅方向に細かく裁断して得られた細断束(long stick)をエレメントとする新しい構造用ボード(Long stick board,LSB)の開発研究に関するものである。又同じく細断束である使用済み割り箸を用いたボードについても検討を行っている。本論文は8章で構成されている。主なる内容は次の通りである。

I.単板細断束をエレメントとするボード,ロングスティックボード(LSB)の製造と材質

 まず、LSBボードの製造方法、基本材質を調べた。すなわち、比重、含脂率と材質の関係を調べ、特にその異方性の改善と製造時のエレメントの連続フォーミングを実現するという観点から、エレメントの構成方法などを検討ている。その結果、LSBはエレメントの樹種によらず、ボードの比重の増加に伴い、材質(MOR、MOE、IB)が向上するが、パーティクルボードに比較して、同一比重で大きなMOR、MOE、IBを保持することを認めた。このことはLSBの構造用板材料としての可能性を示唆するものである。また、含脂率とともにボードの材貿は向上するが、含脂率4.5%を越えると頭打ちとなる。パーティクルボードより低い含脂率(例えば5%)で製造が可能である。また、LSBの曲げ性能はその層構成比(各層の重量比)に大きく影響され、本実験の範囲では層構成比1:3:1にすると強度の異方性が緩和され、安定した性能を示す。複合材料のMOEに関する基本式による計算値とMOEの実験値はよい対応を示し、基本式の適用が可能であることが認められた。実大スケールのLSB製造を考えると板の長尺方向においてはlong stickの縦つぎが必要となるが、stickの重なり長さを30mmに取るとボードの強度に対する縦つぎの影響がなくなることを認めた。

II.割り箸をエレメントとするボードの製造と材質

 割り箸はlong stickの一種である。そこで、使用済み割り箸の有効利用をするために、これをエレメントとする単層あるいは3層複合板について製造方法と基本材質を検討した。すなわち、回収された割り箸を洗浄した後、乾燥してエレメントとし、単層あるいは表裏層に単板、チップなどをオーバーレイした3層構成ボードを製造した。製造条件を種々変化させ、曲げ試験、剥離試験及び耐水性試験を行った。その結果、以下のことが認められた。割り箸をランダムに配置した単層ボードは曲げ強さ、曲げヤング係数とも極めて小さく、これにチップを混合するとMOR、MOEが上昇してくるが、その場合でもJISパーティクルボードの150タイプの規準に満たない。これらの単層ボードは構造用の板材料として適していないと考えられる。一方、3層配向ボードの//方向(コアー履の割り箸と平行方向)の曲げ強度はコアー層が同条件の場合、表面層材料によらずほぼ同程度のMOR値を示し、これはコアー層の割り箸層が効いているためと考えられる。3層配向ボードの⊥方向(同直交方向)のMORはコアー層が同条件の場合、表面層材料の強度の影響を受け、表面層が強い方が大きなMORを与えることが分かった。また、フェノール樹接着剤を使用した割り箸ボードても吸水厚さ膨張率がJISの基準値である12%を遥かに越る結果となった。これは、断面の大きな棒状エレメントを用いたボードでは、熱圧締の過程で圧縮された部分が吸水により元の形状にスプリングバックすることが原因と考えられる。

III.エレメントの熱処理による割り箸ボードの材質向上

 熱圧温度、熱圧時間、割り箸の初期含水率を変化させて、割り箸を熱圧処環し、圧縮率及び沸騰水浸せき後の厚さ膨張率を調べた。その結果圧締温180℃,熱圧時間3分間、割り箸の初期含水率18%以上とすると圧縮変形が固定されることが認められた。これは水分存在下での熱処理によって、木材中のリグニン、ヘミセルロースの一部が分解、塑性化し、マトリックス構造の中に蓄積されていた応力が緩和することによって変形の固定が起こるためと考えられる。さらに、これらの熱圧処理をした割り箸エレメントでボードを作り、未処理エレメントで作ったボードと比較した。処理ボードの吸水厚さ膨張率は未処理ボードに比べて、平均約1/3の値を示し、これは熱圧処理された割り箸の形状が固定された効果と考えられる。なお、処理ボードの吸水厚さ膨張率はすべて12%以下の値を示し、JISの基準値を十分にクリアする。

 以上要するに、本論文は、熱帯林破壊に通じるラワン合板に代る新しい構造用板材料を低質単板及び使用済み割り箸を用いて製造することを試み、その有効性を確認したものであり、学術上、応用上貢献するところが大きい。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

UTokyo Repositoryリンク